ルチアとの再会

 朝起きて大きな欠伸をして、寝ぼけながら顔を洗い、歯磨きをして、アシュレイが待っているとルバートが起こしにきておや坊っちゃん起きてらしたんですかと持ってきたアッサムをデスクの上に置いた。パジャマから普段着に着替え、ルバートが手伝おうとすると断って、まだ使用人を使って身の回りの世話をされるのに少し抵抗がある様子を見せていた。


「もう坊っちゃんは貴族なのですよ」


 ルバートが優しくそう諭すとなんだかやっぱり慣れなくて‥‥とアシュレイはこぼした。やはりもとは普通の家庭の少年、宮仕えだったとしても。ルバートは微笑んでいた。プリムラ・ジュリアンはいつものように咲いている。ベランダから庭を見渡すと珍しく早起きしたスラッシュが植え替えをおこなっていた、そういえば次はアネモネを咲かせると言っていた。一面のアネモネはさぞ絶景だろう。そんなことをルバートに言うとそうですねと言ってメモ帳を開いた。


「今日は特に来客の予定などはないようです」


 そう言ってからルバートが門のほうを見ると何やら馬車が止まり人が来るのが見えた。


「?」


 用事はないんじゃなかったっけとアシュレイが尋ねるとそのはずですがと言って慌てて立ち去っていく。バタンと扉が閉まる音がした。アシュレイはゆっくり部屋に戻りアッサムに手をつけた。もうぬるくなっている。白磁のティーカップをソーサーに置き、ガラスで出来たティーポットを眺める。テーブルは漆塗りであり黒光りしている。ベッドメイクにきたミアムがルチアお嬢様がおいでですと一言言った。

 この前会った桃色のドレスの金髪の女の子だ。とっさに思い出してアシュレイは何をしにきたんだ?と本当に素直にミアムに聞いた。


「気まぐれな方だと聞いてるのでおそらく気が向いて遊びに来たか‥‥あまり需要な用事ではないでしょうね」


 ルチアお嬢様をルバートが出迎えると意外とちゃんとしてるのねと言って上がりこんできた。階段から降りてくるアシュレイの姿を見つけ、ごきげんようと挨拶する。


「何のよう?」


「用事がないと来ちゃいけないというの?ここはわたくしの従兄弟の家敷だったのよ」


 言い方に棘がある風ではなかったけれど大体この令嬢の人となりが見えた気がする。

 アシュレイは溜息をついてそばに寄った。


「前のままなのね‥‥」


 ルチアは内装を見回して、アシュレイと目線を合わせる。


「宮廷音楽家だったころのおなはし、もっと聞きたいと思って」


 ルチアは大きな目をパチクリとさせ、興味しんしんのようで前のめりになっている。今日着ているドレスは爽やかなブルーの、花模様の刺繍のあるものだ。気合を入れて来たのだとわかる。と遠くからミアムは仕事をしながらミーシャとそのような話をした。


「あの方本当に何をしにきたのか‥‥」


「気に入ったのよ多分ね」


 さてお茶を淹れないとミアムが立ち上げり、エルキナの宮廷の話をずっと聞いているルチアたちのもとへと紅茶を運んだ。来客用の紅茶は買ったばかりである。手を付けず、音楽家の生活の何がそんなに面白いのだろうかと思いながらアシュレイは話して聞かせた。両親がどちらも音楽教師だったこと。姉と一緒に宮廷に召抱えられたこと。それから騎士になるためにこの国にやってきたこと。


「ありがとうアシュレイ今日は楽しかったわ」


 一通り話を聞いてルチアは立ち去っていった。見送るアシュレイを横目に。日が暮れる。夕飯の準備にルバートが台所に立つと、残り少なくなった野菜と肉を見てまた買い出しに行かねばなりませんねと手伝っていたミアムに言った。話つかれてウトウトしていたアシュレイは食事を出されて余計に眠くなり、その日泥のように眠った。

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