ハーブ畑にて
しばらく経って、スラッシュがすっかりアネモネを咲かせる準備を始めた頃、アシュレイは親に手紙を書いていた。ずっと手つかずだったそれは、重要な意味を成す、独り立ちした男の子の、親との別離を表していた。6歳の頃にはもう宮廷にはいって音楽家をしていて、ピアノを弾き、チェンバロを弾き、歌をうたい、バイオリンを弾き、いつも音楽と一緒だった。あんなことが起きるまでは。姉ちゃんは俺が看取ったよと最後に書いた。多分アシュレイの親は知ってるだろうけれど。それを郵便配達人に渡して、庭に出た。スラッシュが草刈りをしていたので伸び放題になってるそれは何と聞くとペパーミントですと悲しい顔をした。
「ハーブってこんなになるんだ」
「昨年もらって何気なく植えたらしつこいのなんの、あ、坊っちゃんきりがないので飲んでくださいよ」
「昔俺の先生がよく粉にして飲んでたわそれ」
ハーブは乾燥させお茶に混ぜて飲む。ハーブは生命力がつよくてほったらかすとハーブだらけになってしまう。ハーブを陰干しし、ミアムがどうしたんですかそれと聞いた。
「飲まなきゃハーブ畑になるらしい」
「あ、庭の‥‥昨年何気なく植えたやつですよね、レモングラスは枯れたんですが、べパーミントやジャスミンはどんどん増えて‥‥」
そこまで言ってミアムは、諦めて飲むしかないですねとため息をついた。しばらく経って乾燥したハーブはすっかりいい匂いを放ち、ルバートがそれを台所に持ち込んでハーブティーにした。従業員もそれを飲む。除草剤でも撒かない限り無限に増えるすよあれとスラッシュが言うと、除草剤撒いたらミミズが死ぬし‥とルバートが気の毒がったのでスラッシュは呆れたように笑っていた。
「ミミズの心配より腰の心配したらどうっすか最近腰悪いんでしょ」
ルバートは最近足腰が弱くなってきていた。年には勝てないですねと呟いてアシュレイのぶんのハーブティーを作って書斎に持ち込む。アシュレイはねていた。また難しい本でも読んでいたのだとルバートはその時気にもとめなかった。机の上には清書してない散文のようなものが書き散らしてあってどうやら手紙を書いていたらしいとわかった。ハーブティーが匂うと、あ、ルバートいたんだと言って目を開けた。目が赤くなっている。おそらく泣いていたのだとルバートにはわかった。
「坊っちゃん、お辛いのですか?」
「なんでもない、昔のことを思い出していただけなんだ」
そばにあったハンカチで顔を覆うとルバートは静かに立ち去った。遠い異国の地に来て坊っちゃんはお寂しいのかもしれないなどと考えていた。
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