エルキナの話

 朝アシュレイはうなされて起きた。メイドのミアムが顔を覗き込んでいたのでどんな夢をみていたのか、後から徐々に思い出していた。キングサイズのベッドから飛び起きて顔を洗うそれから歯磨き。顔を洗う石鹸は最近巷で噂のどんなしみそばかすにも効くひまわり石鹸である。あまり高いものではない。黒いのにひまわりとは不思議だがそういえばルバートがこの化粧品の会社は聖騎士団の一人リアゼハロールのハロール社のものだと教えてくれた。そんなことを考えながら泡立てて顔に塗ると綺麗になった気がする。アシュレイも年頃なのねとミアムはその洗顔せっけんを見るたび思うのだった。十分お肌はぴちぴちなのに。そんなことを言うとアシュレイは気持ちの問題なんだとこぼした。部屋着に着替え、ダイニングへと移動するそういえば昨日から魚だったのだ。


「坊ちゃんおはようございます」


「やあルバート元気そうだな」


 年寄りは朝が早い。朝から魚を焼いていたらしく煙が充満している。皿を持ってきたルバートが鮎の塩焼きですと差し出した。それからベーコンのスープにパンケーキ。すこし野菜がついている。白磁の金の縁取り。アイボリー色のランチョンマット。銀のスプーンとフォークで綺麗に食べる。

 アシュレイは食べ方が綺麗だ。家庭がちゃんとしていたもと宮廷音楽家である。当然といえば当然かもしれない。使用人は宮廷音楽家だったと聞いてとても驚いていた。賞賛を浴びてきたからこそ、目立ち続けていたからこその今の立場があるに違いない。


「俺は一芸で身を立てたんだ」


 鮎を食べ終わり、皿を下げようとするルバートに話しかけた。


「坊ちゃんはエルキナで宮廷音楽家だったのですものね」


「強かったからじゃない……」


「え?」


 ルバートは少し考えて強かったから聖騎士団に入れたわけじゃないという意味だったとあとから思っていた。使用人全員でキッチンのテーブルを囲みパン一個と牛乳とチーズ野菜の切れ端などをドレッシングをかけて食べながらアシュレイのことを話し合うのだった。


「宮廷音楽家かー男爵がいた頃のパーティーに呼んだりしたっすねえ」


 ミーシャがチーズを齧っていう。


「宮廷音楽家を雇うってたいへんな金持ちだよな、いいとこ住んでたんだー」


 スラッシュが言うとルバートが扱いは粗末だったらしいと言った。


「ハンサムで宮廷音楽家だったとしたら大変エルキナでももてたでしょうねー、こう音楽をやる殿方って素敵ですもの」


 ミアムがコーヒースプーンでミルクをかき混ぜながら言うと、スラッシュがあの人あんまりもてなかったと思うといって水を差した。


「男爵と違って女っけがない人っすよね、エルキナにいい人がいるのかなあ」


「きっと心変わりするよ、シーザの女性は綺麗だもん」


 そんな身もふたもないことを言ってスラッシュがコーヒーをぐびぐび飲み皿とマグカップを持って立ち上がり皿を洗いだした。


「エルキナにいい人がいるのだったら素敵な話ね」


 夢見るようにミアムが言うとそうですねとルバートは微笑んだ。


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