聖騎士団との会食の日
その日屋敷は慌ただしかった王都にアシュレイが出かけるのである。仕立て屋からギリギリ届いたそのグレーの礼服をミアムに着せてもらい、エチケットブラシで埃を取る。鏡の中の紳士はどこからどうみても立派で、しかしアシュレイは自分のことをとてもいけてるとは思えず、毎度誰だろこの人などと考えてしまう、急に身長が30センチも伸び顔つきが変わったからだろう。
「立派な殿方ですわ」
「ありがとう」
「ふー坊ちゃん馬車をレンタルしてきました、このままでは貧相すぎる」
見栄なんてはらなくていいのにとアシュレイが言うと、見栄をはらなければならないのですとルバートが言った。
「鞄も靴もレンタルしてきたのでそれを使ってください」
鞄も靴も見るからに高級品だ。そこにしまおうとする品の数々をみてルバートがしまったと言った。
「坊ちゃんそんな小汚い財布使ってるんですかっ!」
「これは俺が子供のころから使ってる……」
「ああ、揃えておくべきだった」
ルバートが頭を抱えてその真っ黒い小さな汚れた小銭入れを見つめた。
「それは人前では見せないように」
「ええ……」
「わかりましたね!」
「……わかったよ」
渋々アシュレイが荷物を鞄に詰め込んで、キラキラの馬車に乗り込むと、軍馬落ちだった例の駒のお母さんたちがそれをひく。ルバートがしきたりを細かく言って聞かせるために乗り込んでいたので最悪な気分で向かうことになってしまった。アシュレイは多分ほぼ寝ていた。荘厳な城の門をくぐったところでどうにか目を覚めて、目が覚めたらルバートが睨んでいた。聞いていなかったので何もわからない。起きているべきだったと後悔しながらなんとか小姓に案内され会食の間にまでたどり着いた。会場には騎士たちが集まり円卓を囲んでいた。そこにこの国の女王陛下がいる。
「アシュレイ待ちわびたわよ」
「は、すいません」
見知らぬ顔がたくさんいる、これがシーザの聖騎士団だ、なんとか顔と名前が一致するやつらの顔を確認していた。このいつも笑顔の金髪の少年はフェリクスだ、この性格が悪い潔癖症の金髪巻き毛の美少年はエーゼンだ、となりにいるのがしゅっとした顔のルース、リアゼはわかった。短髪眼鏡のあの石鹸を作ってる会社の一人息子だ。
他はわからない。
「聖騎士団は代々面がいいの、結成した当時の団長がそりゃあ面食いだったらしいわよ」
聖騎士団から笑いが漏れる、そいつはホモなんすかと聞いたら女王陛下は笑っていた。
「館の住み心地はどう?」
「はあ、快適です」
「それはよかった」
褒美や領地の代わりにもらったその男爵の館は実はいわくつきであり、使用人たちはいい人ばかりだけどまだ男爵のことを引きずっている。雑談と会食が終わりしょげて帰ってくるとルバートとミーシャが待っていてお疲れ様でしたと声をかける。馬車の中でルバートに言った。
「俺この国で立派な騎士になるよ……」
「はい……?もちろんそうしてもらわねば困りますよ?」
ルバートのしわがれた声は子守唄のようにアシュレイの脳内に響いてこれから過ごしていくであろうシーザでの日々を待ちわびるように期待に胸を膨らませて、そのままアシュレイは眠りについた。
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