一年目の春は
アシュレイが屋敷を賜って一年目の春を迎えようとしていた。あれから何度か侯爵夫人のパーティに呼ばれ、ルチアとお喋りした。エルキナの宮廷にお仕えした話はそんなに面白いのか貴族たちは興味深く聞いていた。リトルからの手紙は、来ない。春になってスラッシュが育てやすいですよと持ってきたペチュニアをベランダでアシュレイは育てていた。ほぼ世話がいらない。
「坊っちゃん今日は早起きですね」
白湯を持ってきたルバートがにこにこしている。トレイから白磁に入った暖かな白湯をチェストの上に置いて去っていく、それからまた入ってきて今日はルース様が来ますよと一言残して去っていった。
「あいつまた来るんだ」
ルースとは随分遊んでいない、朝食のトーストと目玉焼きと野菜とベーコンのスープなどを飲みながら、もしかしてまた経営が苦しいの?とルバートに尋ねると、生活していけるだけのお金はありますよと言葉を濁した。やっぱりそうなんだとアシュレイは思ったので、ちゃんと食べなよと言ってルースの到着を本を読みながら待った。
昼下りのおひさまが高く登った頃、豪華な馬車が止まって、ルースが質素ないでたちで降りてくる、使用人を連れている。
出迎えたアシュレイが誰と尋ねるとうちのシェフだよとルースが言った。
「いや、シェフいないっていうから」
「俺の屋敷今年もシェフが雇えない」
「住み込みで働かせるからだよ、たまにくるアルバイトを雇ったらいいんだよ」
そうは言っても先立つものがない。フェンの給料とキャベルの給料が、経営を苦しくしてるのだ。
ルースがチェスをやろうと言い出したので何かかけることにした。
「負けたほうは好きな女のコのことを話す」
「負けられないじゃねーか」
試合は白熱した、長い間アシュレイはルースはあまり論理的思考が出来ないヤツだと思っていた、決してそんなことはなかった10手あまりですぐにチェックメイトになアシュレイは負けて、リトルコールティンの話をルースに打ち明けることになった。
「リトルとは地獄で出会ったんだ」
「は?」
その地獄とはなんのことかルースはよくわからなかった。
「地獄で一緒になって、また生きてたら会おうねって約束した、姉さんとは離れ離れになって姉さんはもう戻ってこれなかった、俺たちは戻ってきたんだ」
来客用のアッサムに口をつけながらルースは話半分に聞くことにした。
「地獄に行ったって何をしたらそんなとこ行くんだ?」
「わからない、何も、子供だったから‥」
「その時きっと結婚しようと思ったんだ」
「すげえそんな昔から思ってるのか」
そうあれはまだ10歳くらいだったから、もうあれから生きている間はずっとリトルコールティンのことを考えていたといえる。忘れられなかった。あの赤い髪の毛、茶色の瞳、小柄でほっそりした弱々しい女の子。リトルの思い出を語るたびにアシュレイは恍惚に満ちるのだった。
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