男爵の話続

 ルバートが貧血を起こし倒れたのでミアムたちがソファに運ぶ、

 侯爵夫人がどうしたのかしらとアシュレイにいうとアシュレイは彼はルバートにとって特別な存在だったんだと言った。紅茶のカップを手に取り口をつけ、時折ハンカチで目頭を押さえながら侯爵夫人は語った。


「あの子は騙されていたの、悪い女に!長い長い間!みんなそう言って止めたわ、でも私達の言うことなんて聞きもしなかった‥善意で自分のためを思って言っている私達を目の敵のようにしたわ」


「おば様、その女性よほど素敵な方なの」


「若い、小さい女よ」


「小さな体に整った顔、化粧をほどこして‥派手な格好をして貢がせていたわあの子だけじゃなかった相手は‥‥魔性のようなものがあったんだわ」


「そうだったんすか‥‥」


「騙されていたと気づいてからのあの子はひとが変わったようになったわ、酒浸りになって夜ごと賭博に繰り出しこの屋敷も抵当に入れて借金をして‥‥もうそれきりだった‥‥」


「おば様‥‥」


 ルチアが背中を擦る。もうすべてが終わったこと。悲しさは乗り越えていく、すべてのひとたちは。一部自分のちからでは乗り越えることが出来なかった人たちがいる。


「男爵、信じてたっすねそんな女のこと‥‥」


「一途だったわお人好しだった」


 鼻をかんで侯爵夫人はあの子は今自殺未遂を繰り返すので閉鎖病棟にいると語った。


「アシュレイ、あなたは騙されないようにしてね‥‥」


 公爵夫人は高貴に微笑んだ。美しいルチアがルバートの介抱をしているキャベルにわたくしの肖像も描いていただけないかしらと話しかけた。


 キャベルは喜んで!と言ってスケッチブックを持ってくる。  


「アシュレイとおば様とわたくしの三人一緒のところを描いていただけないかしら」


「お安い御用です!」


 木炭を取り出しケント紙のスケッチブックにサラサラとかきだしたキャベルは時折顔を歪ませながら、仕上げていく、2時間経ったところだろうか、出来ましたと言ってケント紙に描かれた素晴らしいスケッチを三人が覗き込む。


「素晴らしいわ」


「写実的な絵はなんだか不運な、いのちを取られるような気がして気味悪がる貴族もいましたが」


「そんなことないわ、ありがとう」


 侯爵夫人はお供に言ってキャベルに給料を渡した。キャベルがもらえませんと言ってもしつこかった。

 スラッシュが額縁を持ってきてその絵をリビングに飾った。


 侯爵夫人が一通り男爵の話をすると、使用人たちも悲しげな顔をしたが、そこまでダメージを受けるという風ではなかった。ルバートだけが倒れた。


「大丈夫かしら執事さんは」


 侯爵夫人が心配そうにするとわからないと言ってアシュレイは帰ろうとする侯爵夫人に聞いた。


「その女、何者っすか?」


「女王陛下の遠縁の女で、いわゆる不倫だったのよ」


 それを聞いてアシュレイは納得が言った気がしていた。女王陛下の遠縁だった。だから事情を知った親戚の女王陛下の手に渡ることになりアシュレイの元へとこの屋敷が渡ることになったのだと。おそらく、多分そう。

 絵が2つになったリビングのソファに倒れ込んでいたルバートがようやく目を覚ました頃すっかりカラスが鳴いていた。

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