執事ルバートのお仕事
先代から男爵の館の執事だったルバートは三代目にして全財産を失った坊ちゃんを憂いていた。
「今頃あの人どうしているっすかねえ」
執事の書類の整理の手伝いに駆り出されていたミーシャはため息まじりに言うのだった。
借金と女と酒とギャンブル、わかりやすい転落人生を送った男爵は根はいい人だった。使用人にも優しくて小さい頃から執事をじいやと呼んで慕ってくれたのである。
「もう忘れましょう……」
でもそのうちアシュレイにも話しておかねばならないだろう。当時赤字だらけだった帳簿は今は黒字だ。貯金が増えていく出納帳を見てルバートは誰よりも喜んだ。
ルバートは何でもやる。アシュレイのスケジュールの管理、金の管理、掃除、キッチンにも立つし掃除もするし使用人の手伝い、書類の整理、そろそろ老眼であり、細かい字が見えにくいためこうして若い子に手伝ってもらっているのだ。
「うち退職金も出ないし、本来執事さんは退職金で隠居する年っすよね」
「そうですねでも貧乏貴族に仕えたのが仕方なかったのです」
でもルバートは後悔などしていなかった、先代にも破産した男爵にもできることはすべてしたからだ。残念ながらこの年まで独り身だった。後悔といえばそれくらいである。貧乏貴族に仕えたせいで一人でなんでもできるようになってしまった、それも独身である理由かもしれない。
「さてとミルクセーキでも作りに行きますか」
「ひと段落!」
アシュレイのデザートを作りにキッチンへと急ぐ。卵とグラニュー糖と牛乳でできるミルクセーキは最近のデザートだ。ミキサーなんてものはこの時代にはないので泡だて器でかき混ぜる。これを使用人も飲むのだ。ピカピカに光ったグラスに注いで執事はアシュレイが本を読んでる書斎へと持ち運んだ。
「お勉強はかどってますか」
「や、ルバート勉強しないといけないから大変だ」
どうしても前の男爵と比べてしまう。この騎士は前の主人とは違うのだ。執事はポケットからスケジュールを出してそのメモを眺めていた。
「来週王都でお食事会がある以外特に用事はなさそうです」
「…お食事会?なにそれ?誰が来るの」
「聖騎士団の顔見合わせのようですね、ようやく全員揃うと思いますよ」
「三人ぐらいしか知らない……覚えられる気がしない……」
「たった15人ですよアシュレイ様ならすぐ覚えられますよ」
「俺は馬鹿なんだよ」
「バカなら文字が読めません」
そんな会話のやり取りをしてルバートは笑っていた。きっと残り少ない人生をこの人に捧げて見せる、二度と男爵のような悲しい目にあわせないためにも。
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