牧童ミーシャの生活

 ミーシャの朝は早い。鶏が鳴く声で目が覚めるのだ。馬小屋で寝泊まりしているミーシャは生まれた時からベッドなどで寝たことはない。藁の中でいつも枕だけ敷いて寝ているのだ。放蕩男爵の時代はいつも金でもめて執事たちを泣かせていたが今度の主はいい人そうでミーシャは安心しきっていた。あれから帰るところがない自分たちだけが残った。そんなことを考えながらミーシャはパジャマから作業着に着替え乳しぼりにでかける。牛が2頭いて一頭はお母さんなのだ。


「いい子だね花子、今日も牛乳を頂戴ね」


 そうしてバケツの中に牛乳を入れる。ミーシャはチーズやヨーグルトも作っていて町で売っているラクターゼや菌などを買ってもらっている。チーズの安置所から大きなチーズを取り出すとそろそろこれ食べごろかななどといってキッチンに持ち込んだ。

 キッチンには執事がいて大きなチーズを感心して眺めていた。


「これ坊ちゃんのパンに添えてください」


「喜ぶでしょう我々のぶんもありそうですね」


 小麦粉を買ってきたキッチンにはパンケーキとバターの香りがする。執事が台所に立っているのだ。それからとれたての牛乳。


「木苺とか添えたいっすね」


「フルーツは高いですからね」


 チーズを切って添えてアシュレイの待っている食卓へと急ぐ。アシュレイが食べ終わって食器を洗ったら従業員のご飯の時間だ。


 椅子に座っていたアシュレイはチーズが添えてあるのを見てこれどうしたのと言った。


「ミーシャのチーズです味もなかなかのものです」


 口にして美味しいというとそれはよかったと執事は言って目を細めた。


 それからゆで卵。牛乳。


「そろそろ肉も食べたいよな」


「そうですね…あとで計算してみます」


 食べ終わった食器をキッチンへと持ち運び、掃除を終えたメイドと朝の水まきを終えた庭師が集まっている。チーズがあると聞いて皆はしゃいでいた。


「パンと牛乳だけでしたからねえ」


 台所で従業員がパンと牛乳とチーズを食べると満腹!と言ってそれぞれ語らう。


「あの人男爵とは随分違う人だなあ」


 スラッシュが皿洗いしながらミーシャに話しかける。


「金の事でもめないだけで随分気が楽っすよね、男爵がいた頃は毎日のように借金取りが来ておいらたちはひやひやして今度の主は給料もちゃんと払ってくれるしお優しい気がするっス」


「ハンサムだしな」


「まっ」


「男爵のことそのうち坊ちゃんに話しますよ」


 執事がそう言って広いシンクにスポンジを泡立てそれぞれが自分の食器を片付ける。


「野菜も肉も買い出しに行かなくては栄養が偏ってしまう」


「俺が行く」


「お前はダメです」


 スラッシュがええと言って仕事に戻った。


「買い出しにいってくださいミーシャ」


「もぢろんおっけーす市場まで行けばいいんすよね」


「お菓子一個くらいなら買ってもいいですよ」


「やった!」


 メイドは忙しい。朝から晩まで掃除に追われている。ベッドメイクをしにアシュレイの部屋に向かったあとだった。餌をやって放牧したあとのミーシャは昼は仕事がない。なので掃除を手伝ったり庭の手伝いなどをして一日を過ごしている。買い出しに行くのは唯一の気晴らしだった。本来貴族なら買い出し専用の従業員がいるものだがここは従業員が暇を見つけて交代で行っている。市場までそう距離はないがミーシャは馬を走らせた。もらった金貨は一枚、これでなるべく新鮮な野菜と肉を買う。キャベツやレタス玉葱などをなるべく吟味して買い、肉は特別安くてよさそうなのを買った。そして売っていたアイスを買い、それを食べて屋敷に戻った。屋敷に戻ると執事がご苦労様と言って褒めてくれる。野菜と肉を冷蔵室にいれキッチンに立ち肉と野菜でスープを作り小麦粉とチーズとトマトでピザを焼くなどする。掃除を終えたメイドと一緒に手作りした。シェフが雇えればこの時間はくつろげるのだろうがそういうわけにもいかなかった。ずっとパンケーキだった坊ちゃんが喜ぶに違いない。久々に肉を食べたアシュレイが喜ぶと、使用人たちも喜ぶのだった。

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