男爵の館でスローライフ
斉藤なっぱ
馴れ初め
「坊ちゃん、坊ちゃん朝ですよ」
メイドが起こしに来る、白い壁の広い部屋の真ん中にキングベッドが置いてありそこにアシュレイは寝ていた。ぼけっとしてメイドの顔を眺め、そういえば自分はこの男爵の館の主になったことを毎朝思い出すのだ。だたっぴろい元男爵の館には使用人は四人しかいない、執事のルバート(65)牧童のミーシャ(15)メイドのミアム(21)庭師のスラッシュ(24)そしてアシュレイは17歳の若き館の主である。そうしてダイニングへと移動し朝食である。執事がいて坊ちゃん今日はとれたての牛乳と目玉焼きですよなどという。
「ミーシャの牛のやつ?」
「そうですよ」
ミーシャはまだ15歳の女の子だが牛や馬羊や鶏の世話をする腕のいい牧童である。このアシュレイの屋敷は家畜を飼っており、その世話をするものが彼女しかいない。
「ミーシャって馬小屋で寝泊まりしてるの」
「まああの子はそれが慣れてるらしいのです」
「うう、目玉焼きに牛乳だけか…」
「まあしばらくは仕方ないでしょう我々もパン一個だけですし」
「卵も食べていいぞ?」
「ニワトリさんは二羽しかいませんからね」
男爵はあちこちから借金をし使用人の給料も未払いだったためアシュレイの屋敷も経営が苦しいのだった。毎朝ルバートが帳簿をつけながら頭を悩ませている。金の計算のことはルバートにまかせっきりだったのでアシュレイはどう?と聞いて覗き込む。
「ギリギリですね、スラッシュに小麦粉を買いに行かせましょう牛乳と卵はあるのでパンケーキは食べられると思います」
女王陛下からもらった金貨ももうとっくに使ってしまった。背の高い庭師のスラッシュが来て、野菜の種も欲しいので金をくれとルバートに詰め寄る。
「お前!そう言いながらトマトの苗もキャベツの苗も全部枯らしてしまったでしょう!」
アシュレイはこの屋敷の使用人は有能な奴ばかりだと思っていたが案外そうでもないらしい。スラッシュがちぇっと言って小麦粉を買いだしに出かけるとルバートはあいつはクビにしますと怒っていた。しかしみんなから話を聞くにクビにすると言いながらもうずっとここにいるらしい。
「まったく、役立たずなんだから」
「でも庭師としては優秀なんじゃね」
「まさか!除草剤を撒いているのは私たちなんですよ!」
「あはは!」
あんな奴が一人はいてもいい……と思わせる何かがスラッシュにはある。小麦粉を買いこんできたスラッシュはケロっとしていた。
「買い物くらいちゃんとしてもらわないと困ります」
「おつかれ」
そう言うとスラッシュはありがとうございますと言って作業に戻った。
「…お釣りが足りない!スラッシュ!買い食いしたでしょう!」
お釣りを確認した執事が追いかける。笑いながらアシュレイはソファに座って新聞を読んでいた。正直新聞を取る金も惜しい経済状況だったがそれくらいの出費は仕方ないと特別に取っていた。シェフも雇う金がない、使用人たちがそれぞれ暇を見つけて台所にたっている。このゆったりした時間をアシュレイはとても楽しんでいた。
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