第26話 本城さんの考え
「ねえ、時間ある。少しお話したいのだけど」
本城さんからそう言われた俺は迷った。だがさっき綾香と話した事を考えれば、ここは話を合せた方が良さそうだ。
「いいですよ」
「本当。じゃあ、近くの喫茶店行こうか」
「ファミレスで良いんじゃないか」
「いいじゃない。行こう」
駅から十分位離れた喫茶店だった。
「へーっ、こんなところ良く知っているな」
「うん、偶に来るんだ。学校の人達は来ないから」
「そうだな。ここじゃあ分からないだろう」
カランカラン。
ドアを開けるとちょっとノスタルジックな音がした。中は昔風の装いを感じる。と言っても昔風は俺も知らない。何となく今風じゃないという事だけだ。
「どう、雰囲気」
「うん、なんか今風じゃないよね」
「うんそれが良いんだ」
「いらっしゃいませ」
初老の紳士の雰囲気を持つ店員といっても一人だけだからマスターになるのかな、水を持って来てくれた。
「こちらメニューです」
「九条君、私、オレンジジュース」
「じゃあ、僕はジンジャーエールで」
「畏まりました」
「本城さん、話ってなあに?」
「……九条君、高原さんとはどこまで?」
「いきなりだな。ちょっと答えられないよ」
「そういうことか。終りまでしているんだ」
「えっ!なんでそんな事聞くの?」
「なにも無ければ別の言い方するかなと思って」
「…………」
やはり、まあこちらも動きやすい。
「ふふっ、九条君簡単に分かるね。別にいいの。君が高原さんとどこまで進んいようが。私は、君に誰が居ても関係ない」
ちょうど注文した飲み物が来た。少し口を付けると
じっと俺の顔を見た。
「九条君、今度の土曜日、買い物に付き合って」
「えっ?!」
「高原さんとは日曜会っているんでしょ。土曜日は空いているでしょ」
本城さんストーカーでもしているのか。
「いや、それは」
参ったな。高原さんと付き合っている事が分かっている上で、このアプローチ。
「何か不味いの?」
仕方ない。綾香には伝えるという事で。
「いいよ」
「ほんと、じゃあ、今度の土曜日学校終わったらショッピングモールの有る駅で午後一時に待ち合わせしよか。四時限目終わって行けば間に合う。もちろん別々でね」
「分かった」
それから三十分程話してから帰った。本城さんの駅は、学校の有る駅から俺の家の方へ二駅だ。駅に着く前に
「九条君、今日はありがとう。じゃあ今度ね」
手を振りながら電車を降りて行った。
参ったな。あの積極性は大変だ。
その日の夜、食事も終わり八時半を回った所で綾香に連絡した。
「もしもし綾香」
「あっ、慎之介さん、どうしたの?」
「実は、…………」
今日本城さんと話した事を説明した。
「酷―い!なんで。私がいるんだから断ればいいのに」
まあ、そうだろうな。
「でも、あそこで断って教室で色々騒がれても困る。昼休みの事を考えれば結構積極的出て来るかもしれない」
「それはそうだけど。いいわ。私が本城さんにはっきり言う。慎之介さんは私の彼氏です。買い物なんかに誘わないでって」
「い、いや綾香冷静になろう。そんな事したら、君がクラスの子から変な目で見られる。買い物終わったらすぐ帰るから」
「…………分かった」
ついて行ってやる。
そして週末の土曜日。本城さんは俺の顔を自分の席からチラッと見ると先に教室を出て行った。
「慎之介さん!」
やっぱり怒っている。
「駅まで一緒に帰るか?」
「うん♡」
下駄箱で落ち合うとそのまま二人で校舎を出た。俺のクラスは俺達の事を大半の人がしっているが、他のクラスの生徒は知らない。男子からとてもキツイ視線を浴びている。女子からは好奇の目だ。
「ふふっ、他の人なんて気にしない。手を繋ごうか」
「流石に学校の中じゃ」
「そうね」
二人で歩きながら
「慎之介さん、浮気しちゃいやよ。絶対買い物だけだからね。買い物だって本当は嫌なんだから」
思い切り手を握って来た。
「綾香、浮気って?」
「その……、変なとこに入るとか」
「流石にそれは無いよ。制服着ているんだし」
「制服着ていなかったら入るの?」
「いや、それは言葉のあやだって」
「ふふっ、分かってる。明後日、日曜日は十時に私の家のある駅でいい」
うっ、なんか…………。
「いいでしょ!」
「分かった」
「じゃあ、行ってらっしゃい」
駅で別れた。俺はそのままショッピングモールの有る駅に向かう。綾香は家に帰るようだ。
俺は約束の駅に五分前に着いた。改札を出ると
「九条君」
「本城さん、待ったか?」
「ううん、全然、ねえ食事先にしよう」
「いいよ。何処がいい?」
「取敢えず、そこの〇ック」
あっ、買い物だけだって行ったのに!〇ックに入った。駅で慎之介さんと別れた後、帰る振りをして後をつけた。
ストーカーじゃないけど心配だし。彼は心配なくても本城さんの積極さが心配。
私も五人位後ろに並んで築かれない様にテイクアウトで外で食べながら二人を見た。こんな姿お父様に怒られるな。
あっ、楽しそうに笑いながら会話している。慎之介さん酷い!
二人がマックから出て来たので、そのまま後をつけるとデパートの方へ向かって行った。買い物だものね。
俺は本城さんに連れられて、女の子高校生が着る様な洋服を売っているショップに入った。
「ねえ、九条君これ似合うかな」
「いや俺には分からない」
「じゃあ、こっちに来て」
「えっ?!」
「ちょっ、ちょっとここは駄目だよ」
「いいじゃない。中に一緒に入らなきゃいいんだから」
「…………」
「ちょっと待ってて」
本城さんがカーテンを閉めて数分後
「どう似合う」
爽やかな薄いピンクのワンピースだ。春らしくていい。ウエストが絞られて素敵だ。胸が少し強調されている様な。
「うん良いんじゃないか」
「良かった。じゃあ今度会う時、これ着るね」
「…………」
どういうつもりで言っているんだ。
その後、デパートの中の喫茶店でお茶を飲んだ後、
「今日はありがとう。ねえ、…………」
じっと俺の顔を上目遣いで見る。
「ふふっ、行かないよね」
「…………」
「帰ろうか」
何も言えなかった。全くこの子は積極的すぎる。参ったな。
本城さんは、俺と同じ方向の電車だ。彼女の駅に着くと
「九条君、私高原さんに負けないから。じゃあね」
どういうつもりなんだ。俺が綾香を振る訳ないのに。
私は、慎之介さんと本城さんが洋服を選んでいる所で家に帰った。何か追いかけていて虚しくなった。慎之介さんを信じよう。私を裏切る訳ない。私を一生守る。私の側にずっと居るって言ってくれたんだから。
―――――
本城さん、中々積極的です。
綾香ちゃん、彼を信じるのは大切です。
次回をお楽しみに
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。
感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします。
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