第9話 見られてもまだ大丈夫


 俺は次の日の朝、教室に入ると自分の席に座った。隣にはもう高原さんが来ている。


「九条君おはよう」

 髪は触らない。

「おはよう高原さん」



「ねえ、やっぱりそう思わない?」

「うん、私もそう思う」

「ねえ、聞いてみてよ」

「そ、そうだね」


前の方の席で話していた数人の女の子の一人がこっちにやって来た。

「ねえ、高原さん」

「なんでしょうか?」


「高原さん、九条君と付き合っているの?」

「いいえ」

「でも、貴方達がデートしている所を見たという人が何人かいて。今他のクラスでも話題になっている」

「えっ?!」


私は本能的に九条君を見た。彼は声を掛けた女の子を見ている。

「何かの間違いと思いますが、何処で見たんですか?」

「ショッピングモールの中で仲良さそうに歩いていたって。一緒に楽しそうに買い物したり食事したりしてたって」


「「っ!!」」


二人共返事をしない。ただ顔を見合わせてしまっている。


「やっぱりそうなんだ。いつからなの?」

「彼とは付き合っていません!」

「彼?やっぱり付き合っているんじゃないですか」

「いえ、言い間違いです。九条君とはお付き合いはしていません」

「じゃあどうして、二人はショッピングモールでそんなに仲のいいことしたの?」


高原さんが黙ってしまった。仕方ない。

「あれは、たまたま駅で会って、僕から声を掛けたのがきっかけなんだ。高原さんと付き合っているなんてないよ」

「ふーん。そうなんだ」


納得が全く言っていない雰囲気で前の女の子達のいる場所に戻って行った。

「ねえ、あれは怪しいわよね」

「うん、限りなく黒に近いグレーよ」

「これは後でね」

「「うん」」


女子達聞こえているぞ。

高原さんがこちらを見て何とも言えない顔をしている。



その日の放課後、例によって図書室に居ると入って来た。何も言わずに隣に座ると俺の耳に顔を近づけて

「今日はこのまま帰ります。夜連絡します」

「わかった」



 その日の夜、午後八時食事も終わり自室で復習をしているとスマホが震えた。高原さんだ。


『もしもし』

『高原です。今話せますか?』

『いいよ』

『ちょっと教室の雰囲気が不味いですね』

『そうだな』

『朝の連絡は無くすことが出来ませんが、一緒に帰るのは止めようと思います。残念ですけど』

『そうだな』


『その代わり毎日こうやって連絡しても良いですか?九条君の声を最近無性に聞きたくなるんです』

『いいよ。俺もだ。不思議だな』

『そうですね』

それから三十分位話をして切った。


 分からん。彼女と話しているとなんか胸がぐっとくる。それに俺も彼女の声を聞きたい。


 これってまさかな。だが良く分からん。




 どうしたのかしら。九条君と話していると胸がぐっと詰まる様な感じ。側に居たくなる。これって、まさかね。でも…………。


 学校では、普通の顔をして朝の挨拶だけする。二学期に入ってから三回告白を受けたけど全て断った。いつも彼が見ていてくれると安心していられる。


だけど、スマホだけでなくやはり会って九条君と話したい。手も握りたい。だから


『ねえ、九条君今度の日曜日会わない?』

『不味いんじゃないのか』

『九条君、私と会いたくないの?』

『学校で毎日会っている』

『そういう事じゃなくて。それに学校じゃ話せないし。駄目かな』

『……見られたらどうするんだよ。この前だって』

『また、開き直ればいいじゃない。付き合っていないんだから』

ちょっと、胸がズキッとした。


『そうだな。じゃあ会うか』

『九条君、私と会いたい?』

『ああ、会いたいよ』

『そっか。じゃあ私の家に来る?』

『いやそれは止めておく』


『そうだね。じゃあ、ショッピングモールも有る駅で午前十時に』

『分かった』



 朝十時に十分前、ショッピングモールのある改札の出口で待っていると高原さんがエスカレータを降りて改札に向って来た。


 また決めているな。黒のミニスカートに横文字の入った白いTシャツ。ロングの紺ジャケットで茶色の靴を履いている。


 耳には素敵なイヤリングをして唇を赤く塗って、腰まである綺麗な髪の毛は後ろでまとめられている。


「九条君、おはよう。待った?」

「いや、さっき来たばかりだ。まだ十分前だし。しかし今日も素敵だな」

「ふふっ、久々のデートだから気合入れちゃった」

「そ、そうか。デートだもんな」


「先に映画見ようか」

「いいよ」


「あれ見たい」

日本の若手俳優と女優の恋愛物だ。今日は良いか。

「ああ、そうしよう」


 自動発券機で指定席を取った。やはり結構混んでいる。スクリーンから見ると中段の右端だ。まあ、仕方ない。


 始まって少しして俺の手を掴んで来た。仕方ないか。でもいつも思うが女の子の手は柔らかくて小さいな。


 やがてクライマックスが近づいてキスシーンになると、俺の手を両手で持って

「っ!」

 自分の胸に持って行きやがった。なんだこの柔らかいのは。Tシャツだから露骨に手に感じる。チラッと横目で見ると真剣に見ている。気にしている様子はない。

 やがて終わると明りが付く前にさっと手を離した。


 上映が終わり半分近くの観客が入り口から出て行ったので、俺達も出ようとすると

うんっ、俺の顔をじっと見ている。

「何か俺の顔に付いているか」

「ううん、何でもない」

「なあ、さっきの」

「なあに?」

「いや何でもない」


 ふふっ、思い切り彼の手を私の胸に押し付けてあげた。プールで見ているから良いよねこの位。でも映画見ていたらどうしても彼の手を掴みたくなってそれでつい。



 その後、昼食にした。今度は辛味系のお店だ。辛い物も好きらしい。

真っ赤に煮立ったスープに色々な具が入っている。二人共海鮮だ。


「あつつっ」

ふうふう言いながら美味しそうに食べている。


「どうしたの。私の顔ばかり見て。食べないの?」

「食べるよ」

「そんなに私の事気になるの?」

「どういう意味だ?」

「別に何でもないわ。この後買い物付き合って」

「良いけど、俺が一緒に居れる所を頼む」

「ふふっ、大丈夫よ。下着買いに行くだけだから」

「…………」

 ふふっ、可愛い。今日買うのは靴なんだけどね。


「本当に下着なら俺帰るぞ」

「冗談よ。靴が欲しいの。また選んで」

「俺は分からないって言っているだろう」

「でもワンピだって水着だって、あなた好みの素敵なものだったよ」

「なんだ、その俺好みというのは?」

「言葉通り」


 俺達は食べ終わると彼女が

「さあ行こうか」

「ああ」


結局ここは俺が払った。何か前と同じじゃないか。


―――――

 

そろそろ二人共自分に気付き始めましたかね。


次回をお楽しみに


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価(★★★)頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

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