第10話 開き直り



 俺達は、学校での朝の挨拶以外は夜のスマホで話を続けた。そして日曜日のデートもあくまで友達という事で毎週の様に会った。


 十一月も過ぎた頃


 朝、登校して教室に入ると

「九条おはよ。ちょっといいか」

「おはよ水島」

廊下を指さすので付いて行った。


「九条、お前達本当に付き合っていないのか?」

「俺達って、相手は高原さんの事か?」

「お前他に居るのか?」

「いない。何でそんな事聞くんだ」


「俺の付き合っている子の友達が、お前達を日曜日見たと言っている。他にも同じような事を言う奴がいてな」

「暇な連中だな。俺達が会おうが会うまいが勝手だろう」

「そうはいかないんだよ」

「なんで?」


「高原さん人気があるは知っているよな。その連中がなんで付き合っていないのにあんなに会うんだって言っている」

「別に良いだろ言う高原さんが誰と会おうが」

「高原さんが誰と会おうがそれはいい。問題はお前としか会っていない事だ」

「それがどうかしたのか」

「それが…………」


予鈴が鳴ってしまった。席に戻ると

「九条君おはよう」

そう言って髪の毛を片耳にあげた。

「おはよう高原さん」

今日は昼休みか。人気あるな。



午前中の授業が終わり昼休み。俺は急いで購買に行き、パンと牛乳を買って来ると席に戻った。まだ高原も昼食中だ。




 昼食も終わりそろそろ教室を出るかと思っていたが、


いきなり男の子が教室の前の入口から入って来た。最初キョロキョロしていたが、何かを見つけた様にこっちに真直ぐ来た。


「高原さん、俺は近藤政臣。あなたが好きです。付き合って下さい」


「「きゃー。公開告白よ」」


「お断りします。あなたとはお付き合いしません」

「なぜですか。付き合っている奴がいるんですか」

「いません。それに私はあなたの事を全く知りません」

「なら友達からでいいです。俺の事知ってもらいます。付き合って下さい」

「しつこい方ですね。お断りしますと言ったはずです」

 流石に高原が頭に来たのか相手を睨みつけた。


それでも相手は続ける。

「あなたは付き合っている人はいないと言っているのにこの男と毎週デートしているじゃないですか」


なんか急にこちらに振って来やがった。


「あなたには関係ない事です」


「おい」

俺の事か。


「お前には負けない。必ず高原さんを俺のものにしてみせる」

「彼女はものじゃない」


「聞いた。九条君、高原さんの事彼女って言ったわ」

「聞いた。聞いた」

「これは確定ね。もうグレーじゃないわ。黒確定ね」


俺が立ちあがって睨みつけるとそのまま教室を出て行った。



「九条君ちょっと」

高原さんが席を立つ。そのまま付いて行くと校舎の裏の花壇の所まで来た。


「面倒な事になったわね。ここまでしつこい人が出て来るとは」

「まあ、君は持てるからな」

「他人毎みたいに言わないでよ」

「…………」



「ねえ、いい加減にはっきりさせない?」

「なにを」

「……良いわ。あなたがそのつもりなら」

そのまま教室に戻った様だ。


 しかし、俺に何を言えって言うんだ。そもそもあいつだって、俺の事どう思っているんだ。……そんなつもりないだろうに。


 一言言ってくれれば済むものなのに。でも彼って私の事どう思っているんだろう。友達のまま……?



その日の夜


プルル。プルル。

高原さんだ。


『もしもし』

『高原です。今日はごめんなさい。急にいなくなってしまって』

『別に良いけど。君の方こそ大丈夫なのか。あの後何も無かったか?』

『うん、別に。帰りも何も無かった』

『そうか』


『ねえ、明日の放課後ちょっと付き合ってくれない』

『えっ、そんな事したら余計目立つだろう』

『それを逆手に取って大っぴらに会う事にする。もう他人が何言おうが関係ない』

『開き直ったな』

『だって会いたいし。九条君だってそう思っているでしょう』

『まあな』




翌日の放課後、


「九条君行こっか」

「ああ」


「ねえ、高原さん九条君誘ったよ」

「うん、そうだね」

「付き合っていないって言っているけど」


「でもクラスメイト、友達でしょ」

「そう言う考えもあるけど。クラスメイトだからって好きでもない男の子と毎週会う?」

「絶対に会わない」

「でしょう」

「じゃあ、あの二人の関係は?」

「「さあ?」」



 俺達はいつものショッピングモールのある駅に降りてからデパートの方へ足を向けた。

「どこ行くんだ?」

「ちょっと付いて来て」

「…………」



「ここなら学生は来ないわ」

「まあ、確かにな。しかしいつもこんなとこには来れないぞ」

「今日だけ」


ここは紅茶一杯でも千五百円はする高級ティを飲ませてくれるお店だ。紅茶の葉を機械を使用せず、葉摘みから葉揉み乾燥など全て人間の手による製法だ。ティポットに入るまで全工程が人間の手による。でもこんな所に来なくてもいいのに。


「ねえ。これからどうする」

「今からか?」

「違う。私達の関係」

「友達じゃあ駄目か?」

「あなたはそれでいいの?」

「…………」


 何を難しい事聞いてくるんだ。そんな事俺が答えられる訳無いだろう。


「あなたがはっきりしてくれるなら私はそれで良いと思うんだけど」

「…………」


 何で言ってくれないの。やっぱり私の事、友達までしか思っていないのかな?



 それから三十分近く何も話さずに紅茶だけを飲んでいた。



「なあ、一つ聞いて良いか」

「なに?」


「俺の事好きか?」

「好きって言ってるじゃない」

「それは友達としてか、それとも…………」


「そんな事私に言わせないでよ。あなたこそ私を好きなの?」

「好きだと言っているだろう」

「それは友達として、それとも…………」


 くそっ、返して来やがった。


……………………。


「帰ろうか」

俺は無言で頷いた。



デパートから外に出ると真っ暗だった。

「ああーあ、暗くなっちゃった」

「まあ、陽が短くなったからな」


俺の顔をじっと見ている。

「ねえ、送ってよ」

「……良いけど」



 それから俺の家の方に二つ戻った駅で降りた。

「学校から近いな」

「ええ」


 急に手を繋いで来た。


「おい」

「寒いから」


駅から十分程歩くと大きな家が見えて来た。周りは暗い。急に立ち止まった。

「ねえ」


 俺の前に来てじっと俺を見ている。なんのつもりだ。……なんて可愛い顔しているんだ。


 俺の制服を掴んで少し背伸びして目を閉じた。


 これって!でもどうすればいいんだ。あっ、一度目を開けた。またじっと見ると目を瞑った。


 もう知らねえぞ。


 高原さんの肩を優しく掴んで少し体を曲げて唇を合せた。少しだけそうしているとそっと彼女の方から離した。


「ありがと。もうここで良いわ」


 そのまま、大きな家の方に歩いて行った。

 

―――――


はて、どうなっているのかな?


次回をお楽しみに


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る