第8話 二学期の始まり


 今日から二学期。


無難に夏休みを過ごしたと思っている俺は鞄の中に入っている完全に終わらせた夏休みの宿題に満足をしながら教室に入って行く。


高原さんもう来てるのか。チラッと彼女を見ながら自分の席に着くと案の定彼女が近づいて来た。


「九条君おはよう」

「おはよう高原さん」


ふふっ、なんか九条君に声を掛けるだけで胸がキュンとする。まさかね。


今日は髪の毛を触らずに自分の席に戻って行った。今日は告白は無い様だ。


 前まで高原に朝挨拶されるだけなら何も無いのだが、彼女の席に戻る後姿を見るとちょっと胸がぐっとくる。なんだこれ?


 そんな事は無視しようとして席に置いた鞄から中身を取り出そうとした時、

「九条、ちょっといいか」

「何だ?」

廊下を指さしている。


「どうした水島」

「おい、見たぜ。お前がショッピングモールで高原さんと朝からデートしている所」

「っ!」

「いつからなんだ。教えろよ。隣の席のよしみで口外はしないから」


 不味い所を見られたな。

「水島、お前以外に誰か見たか」

「いや、他にも学校の友達がいたが、気付いた奴はいない」

どうするかな。適当に教えておくか。騒がれても困るし。


「ああ、高原さんと会ったよ。でも友達として会っただけだ」

「ふーん、偉く仲良く見えたがな。えっ、お前高原さんと外で会う位仲のいい友達な訳。いつから?」

「夏休み前位からかな」

「でもあの雰囲気、どう見ても恋人同士のようだったけど」

「気の所為だよ」


予鈴が鳴った。


「また後でゆっくり聞かせてくれ」


ガラガラガラ。

担任の先生が入って来た


「はい、皆さん体育館に行って下さい」


白井由紀子(しらいゆきこ)先生。独身。スレンダーなボディで胸は大きく、ショートヘアで眼鏡をかけている。男子生徒に人気がある。

今日もタイトスカートが大きなお尻ではちきれそうだ。


 例によって、校長先生の話が有った後、行事連絡が有って教室に戻った。

少ししてから先生が入って来た。


「皆さん、席替えを行います。このくじ箱の中に席位置が書いてある紙が入っているので廊下側の一番の人から取りに来て下さい」


 今の席はあまり良くない、出来れば窓側の列に行きたい。あいつとも距離が有った方がいいだろう。

 俺のくじ順は四番目。前に出ると何故か先生が俺の顔をじっと見ている。それを無視して箱の中に手を入れて、考えずにサッと紙を一枚取った。


 顔が緩んだのが分かる。そう窓際一番後ろの席だ。完璧だ。これで二学期は気持ち良く座っていられる。

 窓側の一番後ろの席の人が引き終わると


「はい皆さん。それでは新しい席に移動して下さい」


 俺は早速、新しい自分の席に移動した。窓の外を眺めながら、これは良いと思っていると横から


「九条君、宜しく。隣の席になったね」

「っ!」

「何豆鉄砲食らった鳩みたいな顔して」

「酷い言い方だな」

「ごめん、でも結構驚いていたわよ。そんなに嬉しいの私が隣になって」

「誤解受ける表現するな」

「いいじゃない、友達なんだから」


「ねえ聞いた。高原さん、九条君に積極的よね」

「うん、私もそう思う」

小声で話しているのが聞こえる。言わんこっちゃない。


「はい、移動終わりましたね。それでは夏の自由研究分だけここに持って来て下さい。後は各担当の先生に渡してね」


 なんかこの先生、小学校と間違えていないかな。


三限目からは通常授業だ。と言っても夏休みの宿題の回収や答え合わせだけだが。

やがて午前中が終わると高原はクラスの女の子達とお昼を始めた。

 良かった。一緒に食べよなんて言われたらどうしようと思っていた所だ。


 俺は学食に行く為立ち上がると

「九条、一緒に学食行こうぜ」

水島が誘って来た。偶には良いか。


「ああ、行くか」


ここの学食は悪くない。購買もそうだが結構ボリュームのある定食が多い。もちろん女性向けのヘルシーな定食もあるが。

 B定食の食券を買って並んでいると

「九条、見ろよ」


 言われた方向を見ると一学期の時、校舎裏の花壇のベンチに座っていた……確か本城薫とかいう子が、友達を連れてテーブルで食べている。


「どうかしたのか」

「いや、中々派手だろう。ここは進学校だぜ。とても勉強しに来たとは思えないよな」


確かに、シャツは第二ボタンまで外し金髪、少し強めの化粧、爪も派手なデコをしている。だが見かけと中身は違う可能性もあるからな。


 俺達が定食をトレイに入れて彼女達の側を通って空いているテーブルに着こうとすると


「あっ、九条君。ヤッホー」


なんだ、ここは山じゃないぞ。


「薫あんたあの人知っているの?」

「うん、一学期の時ちょっと一緒に昼ごはん食べた仲」

「えっ、後で紹介してよ。結構かっこいいじゃない」

「考えとく」

「えーっ、いいじゃない」


 俺達はテーブルについて食べ始めると

「九条、お前顔広いな。まさかあの本城まで知合いとは」

「誤解だ。何も関わりない」

「だけどあいつお前と一緒に昼飯食ったと言っているぜ」

「いや校舎裏の花壇の前にある同じベンチの端と端で食べてただけだ」

「何かそんな風には聞こえなかったが」


 やっぱり明日から学食は止めるか。



授業も終わった放課後、例によって図書室に行く。窓側の席で外を見ていると


ガラガラガラ。スススッ。コトン。


高原が隣の席に座った。


「えへへ、教室でも図書室でも窓側で隣同士だね」

「…………」


「何か言ってくれてもいいじゃない」

「分かった」

「…………」


 俺は鞄から本を取出して読み始めると

「何読んでいるの」

「西部戦線全史」

「何それ?」

「第二次世界大戦のヨーロッパ各所における戦いの指揮を執った将官達の視線が描かれている」

「ふーん。なんか難しそうね」

「そんな事ないよ。戦争は良くないが、現場指揮から学び取る事も多い。特にこれからはね」

「九条君。そんな事必要なの?」

「いや、これから…………止めとくよ。個人的な事だ」


 下校の予鈴がなった。

「さっ、帰ろうか」

隣の住人は、ササっと帰り支度を済ませると俺の横顔を見た。

「帰っていいぞ」

「なんで?一緒に帰ろ」

「…………」


また仕方なく駅まで一緒に帰った。何も話さずに。ただ変に胸がぐっと来ている。どうしたんだ。


―――――

 

さて恋愛未経験者でも分かりそうなものですが。

この二人進展するの大変そうです。


次回をお楽しみに


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価(★★★)頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

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