第2話 教室で話しかけられる


 俺は昨日高原さんに教室で話しかけてもいいと言ってしまった。はっきり言って後悔している。なんであんな事許したんだろう。


 入学してから間もないのに随分と告白されている子だ。そんな子が話しかければそれだけで注目が集まる。

 それにあの子は教室で男子に話しかける姿を見た事ない。不味いな。


 そんな事を考えているとあっという間に教室についた。俺の席は廊下側の後ろから二番目。嬉しくない席だが、一番前よりいい。


「おはよ九条」

「おはよ水島」


 水島輝信、俺の左隣に座っている男だ。このクラスの中では、良く話す方だろう。

席に着くと早速鞄から本を取出して読み始めたが、


トントン!


誰かが俺の机を叩いた。顔を上げると

「九条君おはようございます」

「っ!……ああおはよう」

「なあに、その驚いた顔は。昨日約束したでしょ。教室で話しかけても良いって」

「言いはしたけど……」

「今は朝の挨拶だけよ。また後でね」



「ねえ、見た。高原さんが九条君に声掛けたよ」

「うん、あの二人何かあるのかな」

「付き合っているとか?」

「まさかあ」


やっちまった。だから良いなんて言わなきゃ良かったんだ。


「おい九条。お前高原さんと知り合いなのか」

「まあクラスメイトだからな。水島お前だって知合いだろう」

「いやそういう意味じゃなくて」


予鈴が鳴ると直ぐに先生が入って来た。先生助かったよ。



午前中の授業が終わると

「九条、今日はどうする。学食行くか?」

「いや、止めとくよ。今日は購買でいい」

「そうか、じゃあ俺は行って来るわ」

「おう」


 水島の後ろ姿を見ながら俺も席を立ち購買に向かう。学食も良いが偶にはパンと牛乳だって悪くない。


 少し並んだが、お目当てのカツサンドとカレーパンは買う事が出来た。俺達向けなのか値段の割には結構でかい。


 何処で食べるかな。教室はうるさいし。仕方なく校舎裏の花壇のある前のベンチに行くと先客が有ったが、別に構わない。


三人座りなので端っこに座って先客に背を向けて食べ始めると


「ねえ、あんた誰?」

「…………」

なんだこいつ。自分から名前言えよ。


「ねえ、名前聞いてんだけど」

「人の名前聞く時は自分から名乗れ。それに今昼飯中だ。後にしてくれ」

声の方に顔向けず無視して言うと


「ふーん、凄い態度だね。まあいいわ。食べ終わるの待っててあげる」

無視してくれよ。


 二個のパンを食べ終わり牛乳も飲み終わったので、うるさい先客を無視して立ち去ろうとすると


「ちょっ、ちょっと待ってよ」

 やっと顔を声の方に向けると金髪で少し化粧している胸の大きな女の子が座っていた。


「なんですか。俺食べ終わったので、もう戻ります」

「ちょっと、さっき言ったでしょ。名前教えてよ」

「いや、そういうのは自分から言うもんでしょ」

「ふん、そうね。私は本城薫(ほんじょうかおる)。一年B組よ。あんたは?」

「九条慎之介。A組だ。じゃあな」

「ちょっ、ちょっと待ちなさいよ。名前教えたんだから少し位話していきなさいよ」

何なんだ。ボッチ女か。相手にすると面倒そうだな。


「いや、俺用があるから」


 あーっ、行っちゃった。まあいいか。背が高くてちょっとイケメンだったから声掛けたのにな。

 でもこんなとこに昼食べに来るなんてなんか理由あるのかな?私も戻るか。



 スマホで時間を見るとまだ二十分位ある。図書室でも行くか。こっちが早いな。俺は校舎裏をそのまま抜けて図書室のある棟に行こうとすると声がしている。


 あれ?どこかで聞いた声が、俺は校舎裏からそっと覗くと


「高原さん、好きです。付き合って下さい」

「お断りします」

「誰か付き合っている人いるんですか?」

「別にいないですが、あなたには関係ないでしょう」

「だったら友達からでも」

「断ったはずです」


いきなり手を掴まれた。

「止めて下さい」

「下に出ていればつけあがってよ。おらっ」


あれは不味いな。

「おい、止めろよ」


こっちを振り向いた。

「誰だてめえは?」

「誰でも良いだろう。女の子にそんな事するんじゃない」

「ふざけるな」


 高原さんの手を離し、いきなり俺に殴りかかって来た。


 全く、今日はついていない。仕方なく、殴りかかって来た腕を軽くいなして避けると男はそのまま後ろを向いたままだったので、尻を蹴ってやると頭から地面に突っ込んだ。


「まだ、やるか」

「くそっ、覚えてろ」


そのまま逃げ去ったので、後ろを向いてみると高原さんが座り込んでいた。


「大丈夫ですか」


頭をコクコクしながら

「大丈夫、助かったわ。ありがとう」


俺の顔を上目遣いに見ている。どうしたんだ。

「ねえ、こういう時は、男の人は手を差し伸べて起こしてくれるものでしょう」

「はぁ?!」


世の中そんな決まりいつ出来た?くそっ、まだ見ている。


「分かったよ」

俺が手を伸ばすと起き上がる様にして胸に飛び込んで来た。


「おい!」

「えへへ。お礼よ」

「何だ?」

「分からないの?まあいいわ。とりあえず教室に戻るまで一緒にいて。あいつが戻ってくるかもしれないし」

「そんなことないだろう」

「分からないでしょ」



 仕方なく教室のある棟の側まで来ると

「もういいだろう」

「ええいいわ。じゃあね」


なんなんだよ。あいつ。



 あれ、あの背の高い奴、九条君だっけ。高原さんと仲良いんだ。へえーっ。

なるほど、だからさっき私の誘い断ったのね。


―――――


九条君、今日は日が悪かった様ですね。


次回をお楽しみに


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価(★★★)頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

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