第3話 それぞれの事情


 放課後、俺は図書室で窓際の席に座りながら外を見ている。


 今日は散々な日だな。朝から高原に声を掛けられて、周りからおかしな視線を向けられるし、昼飯の時は変な女に声を掛けられ、挙句高原が襲われそうになったのを助ける。

もっと静かに過ごせないのかよ。


 何気なしに教科書を取出しダラダラと今日の復習を始めた。期末テストの時あたふたしない為には、予習と復習さえして置けば、そんなに悪い点数を取る事はない。

 別に高原みたいに学年トップで有る必要はない。今は十位以内に入っていればいい。


しかし、父さんはなんであんな事を言って来たんだ。



「慎之介、高校三年までにお前が生涯連添う女性を見つけてこい。出来なければ高校卒業後見合いをして貰う」

「何言ってるんだ父さん。高校の後はまだ大学が有る。大学卒業しても二十二だ。その間に見つけておいてもいいだろう」


「駄目だ。十八になった時、婚約者がいる事がこの九条家のしきたりだ」

「しきたりって言ったって……俺の代で変えてもいいだろう」


「駄目だ。我が九条家は藤原北家から続く家柄。戦後財閥解体に遭ったが私の父、お前の祖父九条上総の介が解体された財閥を元に戻し、私の代で基盤を安定化させた。

 お前は、それを継いで更に発展させなければならない。その為には十八までに身を固めこの九条家の為に生きなければいけない。分かっているな」


「それは小さい頃から聞いています。しかし十八までに身を固めるという話は、この前聞いたばかりです」

「中学までのお前に言っても辛いだけだろう。私も同じだった。十八までに私の目に適う女性を見つけなさい」


「…………」




 十八までにって高校生の身分で知り合う女性なんてたかが知れている。九条家に見合う女性なんてこの高校に居るのかよ。


 まあ、範囲広げれば年上という考えもある。年上ではいけないと言っていなかったが。しかし…………。見合いか。それのが気楽じゃないのか。どうせ、お飾りだろう。




 図書室の常連は大抵が、勉強か趣味か本を読んでいる連中だ。ここは静かでいい。だが、そろそろ時間だ。


ガラガラガラ。


 図書室の扉を開けて真直ぐ俺の所にやってくる奴。何も言わずに俺の隣に来て覗き込む。

「あれ、復習しているんだへぇーっ!」


顔も上げずに

「別にいいだろう」


カリカリカリ。


「私もしようかな」


カリカリカリ。


 下校時間五分前の予鈴がなる。常連達が退室し始めた。俺も何も言わずに教科書とノートを鞄に入れて立とうとすると


「ちょっと待ってよ。私も片付けるから」

「…………」

別に一人で帰れば良いのに。


「出来た、さあ帰りましょう」

「…………」


何故か下駄箱まで一緒に来るとそのまま駅まで一緒になった。


「なあ、お前といると目立つよな」

「違うでしょ。あなたといると目立つのよ」

「そんな訳無いだろう。今日だって告白されたじゃないか」

「あ、あの時は、ありがとう。助かったわ」

「まあいいけど」



「ねえ、お願いがあるの」

「なに?」

「私が、呼び出されたら、後ろから付いて来てくれない。今日の様な事が有ると困るから」

「はあ?!何言ってんの。別の奴に頼めばいいじゃないか」

「あんたしかいないのよ」

「なんで?」

「男の人に声掛けたのってあなただけだから」

「理由にならないね。断る」


「どうしても駄目?」

「駄目だ」

「じゃあ、私が誰か悪い子に襲われても良いっていうの」

「…………。なんだよそれ。自分はモテます。いつも告白されます。でも断れば暴力を受けるかもしれません。だからボディガードになって下さいっていうのか」

「当たり!」


「俺にメリットなんてない。強い男が出て来て俺が怪我したらどうするんだ」

「負けないでよ」

「はあ?!」


結局馬鹿な会話をしている内に駅についてしまった。

「じゃあな」

「ねえ、考えといて」

じっと俺を見上げている。全くなまじ可愛いから困ったもんだ。


「ねえ。お願い」

「…………分かったよ」

「じゃあ、連絡先交換しよ」

「なんでだよ」

「いや、色々有るでしょ。連絡とか」


押し切られてスマホの連絡先を交換してしまった。


「じゃあね~」


まったく、なんなんだ。




 ちょっと無理頼んだかな。でも今の所彼しか頼れないし。あれだけ体大きいんだから大丈夫でしょ。それに連絡先交換できたし。



 九条君と駅で別れた私はそのまま電車に乗った。まだこの高校に入ってから三ヶ月弱。これといって一緒に帰る友達もいない。


 クラスの中には話せる子はいるけど一緒に帰る程仲良くはまだなっていない。学校のある駅から私の家のある駅まで四つだ。大した距離ではない。

 そして駅から歩いて五分位歩くと我が家が見えてくる。


「ただいま」

「お帰りなさい綾香」


 私の母親は、見た目だけでは年の離れたお姉さん位に見える。美しく綺麗だ。大学も優秀な所を出て、大学卒業と同時にお父様と見合いで結婚。


 直ぐに私が生まれた。お嬢様育ちだが、一応家事は一通りこなせる。お手伝いに大分任している所有るかもしれないが、私は普段いないから分からない。


 お父様は、高原産業の代表としてグループ全体を率いている。本当は私が男なら跡継ぎは問題なかったのだが、私が生まれた。何故か二番目が出来ない。


 もう二人共若くない。子供を作るのは無理だろう。お父様は私に婿を取らせ、この高原産業を継がせると言っている。


 夫となる男性を見つける時間は高校卒業まで。理由は聞かない。お父様がそう言うからには訳が有るはず。それに逆らう事は出来ない。


見つけられなければ高校卒業と同時に見合いをする予定になっている。やだな見合いなんて。

 大体、十八までって言ったら行動範囲はあの高校だけじゃない。いるのそんな人?


―――――

文中に出て来る藤原北家につきましてはあくまで小説の中の事であり、史実とは全く関係がございません。ご理解の程お願い致します。


九条君も高原さんも重い運命背負っていますね。大変です。


次回をお楽しみに


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価(★★★)頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

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