第4話 ボディガード
「おはよう九条君」
「おはよう高原さん」
朝それだけ言うと彼女は両手で腰まで伸びる綺麗な黒髪を片手で耳の後ろにあげた。
そして自分の席に戻って行く。
そうか今日は昼休みか。
高原さんの無茶ぶりな約束事。私が告白される時は必ず後をつけて来て。もし相手が乱暴しようとしたら私を助けてという約束だ。
だが、高原さんがいつ告白されるなんて俺には分からない。そこで決めた事。
朝挨拶に来て髪の毛を片方だけ耳の後ろにあげたら昼休み。両方の耳の後ろにあげたら放課後に告白されるということだ。
おかげで俺は昼休みを教室で過ごさなければならなくなった。
「なあ九条。高原さんって毎朝お前の所に挨拶だけ来るよな」
「ああその様だ」
「何か心当たり有るか?」
「さあ、俺にも分からん」
「そうか」
まさか、あんな約束事を隣に座る水島に言える訳もない。
最近は高原さんが俺の所に朝挨拶に来る風景は日常になったのか誰も気に留める事は無くなった。
昼休み、高原さんが出て行く。仕方なく俺もトイレにでも行く振りをして席を立つと彼女の後をつけた。
校舎裏に行く様だ。なんで告白は校舎裏なんだろうなんて馬鹿な事を思いながらついて行く。
彼女が校舎裏に行った。俺は校舎の陰から覗いていると
「高原さん。好きです。お付き合いして下さい」
「断ります」
「誰か付き合っている人がいるんですか」
「いませんけど、お断りします」
綺麗な瞳できつく相手を見つめると
「分かりました」
と言ってサッと去って行った。
あの約束してからこれで何回目だろう。毎週の様に告白されているんじゃないか。
あっ、こっちに来た。
「ありがとう」
それだけ言うと彼女は何も無かった様に一人で教室の方に向かう。
何となく馬鹿らしいが、約束したものはしょうがない。早く彼氏でも見つけてくれるか告白を受け入れてくれればこんな事しなくてもいいのに。
ふふっ、九条君って律儀よね。必ず見ていてくれる。だから私も安心して断れる。助かるな。今度お礼しないと。
もうすぐ学期末試験。それが終われば夏休み。何か考えようかな。
俺は学期末試験のまでの間に更に二回の告白に付き合わされた。特にヤバそうな場面は無い。まああれがたまたまだったんだろう。
学期末試験前一週間はクラブ活動が禁止になる。
例によって俺は放課後図書室に居るが、試験対策だろう。いつもよりずっと人が多い。だがなぜか俺の隣は空いている。
ガラガラガラ。
いつもの事だ。俺の方に黙って来ると何も言わずに座った。
「試験対策?」
「ああ、これでも高校生だからな」
「分からない事あったら聞いても良いわよ。私もここで勉強するから」
流石学年トップだ。余裕だな。
「分からない所が有ったらな」
「別に分かっていて聞いてもいいのよ。ふふふっ」
何なんだこの女。今の笑いは何だ。まあいい。勉強するか。入学して初めての学期末テストだ。少し真面目にやらないとな。
カリカリカリ。
カリカリカリ。
下校五分前の予鈴が鳴った。図書室に居た子達が一斉に帰り支度を始める。俺はいつも最後の方に出る。
「帰らないの?」
「帰るよ」
隣の住人が帰り支度を終えてせかしている。これもいつもの事だ。一人で帰れば良いのに。
結局、また駅まで一緒だ。だが何か用事が無い限り話はしない。駅まで行くと
「じゃあ、また明日」
「ああ」
これだけだ。変な奴に引っかかったものだな。なまじ可愛いから困ったものだ。だから断れない。これも俺の性か。ふふっ、情けない。
学期末試験が終わった。予想通り高原さんは一位。俺は七位だ。点差は二十五点。どうしようも無い。
直ぐに夏休みになる。夏休みとか長期休みの場合、我が家はする事が決まっている。まあ、夏休みの宿題を先に終わらすのもいつもの事だが。
担任の先生が夏休みを告げた。一学期が終わりだ。
「九条、夏休みどうするんだ」
「ああ、俺の所は決まりごとが多くてな。あんまり自分の時間取れないんだ」
「本当かよ。可哀想にな」
「じゃあ、九条。また夏休み明けにな」
「ああ」
水島が嬉しそうにクラスの他の連中と一緒に教室から出て行く。面白いんだろうが俺は群れるのが苦手だ。一人がいい。
今日も一応図書室に行く。中に入るといつもの常連も少な目だ。毎日決めている窓際の席に座ると外を見た。皆嬉しそうな顔をして帰って行く。まあ普通そうだよな。
ガラガラガラ。
あれ、今日も来たぜ。
「九条君、帰らない」
「もう少しここにいる」
「ふーん。ねえ、夏休み予定入っているの?」
「ああ、ほぼびっしりだ」
「何、友達と遊びの予定?」
「いや、家の予定だ。俺が自由になるのは夏休みの宿題をやっている時位さ。それも最初の二週間だけだ。後は自由時間は無い」
「何それ。何するの?」
「別に良いだろう。よその家の事だ」
「ねえ、一日で良いから都合付けてよ」
「なんで?」
「いいから。ボディガードのお礼もしたいし」
「ああ、そんな事ならいいよ」
「……分かった。じゃあ、私が九条君と会いたいからって言ったらどう?」
「世の中物好きもいるものだ」
「結構へそ曲がりね。そうよ私は物好きよ。付き合いなさいよ」
なんだ。この女は。これだけはっきり断っているのに。これじゃあ埒があかない。仕方ないか。
「分かったよ。いつだ。但し、明日から二週間以内だぞ」
「分かったわ。じゃあスマホで連絡する。ねえ皆もういないわよ。帰ろうよ」
「一人で帰れば良いじゃないか」
「君は私のボディガードでしょ」
「…………」
どういうつもりだ。この女。鞄からは何も出していない。仕方なく席を立つと確かに図書室の中は誰も居なかった。
例によって、駅まで行く。何も話さない。ただ並んで歩いているだけだ。
「じゃあ、後で連絡するね」
「ああ」
彼女は改札を入って左に曲がった。
ふふふっ、夏休みの約束取り付けたわ。でも九条君の家って?
―――――
さて、夏休みこの二人どうなるんでしょうか。
次回をお楽しみに
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価(★★★)頂けると投稿意欲が沸きます。
感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします。
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