第5話 夏休みのデートかな?


 俺は自室でひたすら夏休みの宿題を消化している。こんなに出さなくてもいいのにって思う程、全教科から出して来ている。

 先生方、生徒の身にもなってくれ。


ブルル。ブルル。


 うんっ、誰だ。スマホが震えている。あっ、あいつだ。出たくないな。


「もしもし」

「あっ九条君、私高原。ねえ約束の件だけど。明日か明後日良いかな」


夏休みに入って三日目。約束は早く消化した方がいい。

「ああ、明日で良いが」


「じゃあ、学校のある駅から私の方へ来る三つ目の駅でいい」


ここから九つもある。仕方ないか。

「ああいいぞ」

「じゃあ十時に」

「分かった」


九時に出てぎりぎりか。仕方ねえ。


 翌日言われた駅に向かう。待たせるのは性に合わないので十分前には着く様に家を出た。


 五十分も掛かって指定された駅に着くと直ぐに分かった。ありゃ目立つわ。


 綺麗な髪を腰まで伸ばしはっきりした可愛い顔が少しだけ化粧しているのが分かる。

 花柄のワンピースにヒールの低いサンダルと薄緑色の可愛いバッグを肩から下げている。通りすがりの人がみんな見ていく。


 あっ、なんか声を掛けそうな輩がいるな。不味い早く行くか。


「あっ、九条君」

俺に気が付いた様だ。さっきの奴らは彼氏がいると勘違いしたのか諦めたようだ。


「おはよう九条君」

「ああおはよう」


「可愛い格好しているな」

一応褒めておこう。


「ふふっ、嬉しいな。ありがとう。早速だけど映画見に行こう。十時二十分から始まるから急ごう」

「えっ、まだ三十分あるよ」

「席取るの」



仕方なく付いて行くと

「ねえ、あれで良い」

彼女が指を差したのは、今流行りの外国の若手俳優のアクションものだ。


「ああいいけど」

恋愛映画よりは良いか。


「何か買うか」

「ううん、要らない」


 映画を見ている途中俺の手を掴んで来た。離そうと思ったがしっかりと掴んでいる。しょうがない。

 でも柔らかくて小さな手だな。


 映画がようやく終わると、彼女は手を離した。何も言ってこない。

そのまま、バッグを持って出ようとするので


「おい、今の」

「何、なんかしたの」

「い、いや何でもない」


 ふふっ、見ている時手を繋いだ。結構大きくてしっかりした手だ。でも私何でそんなことしたの?


映画館を出ると

「お昼食べよ。もう十二時過ぎだよ。お腹減った」

「そうだな。お腹空いて来た」

「何食べる」

「任せるよ」

女の子と入るなんて経験ない。任せた方がいい。


「じゃあ、イタリアンでいい?」

「いいよ」


連れて来られたのは、高校生がお昼食べる値段じゃない所だ。

「おい、高すぎないか」

「構わないよ。私が払うから」

「そうはいかない。割り勘で行こう」

「じゃあそれで」


 彼女が注文したのはパルミジャーノリゾット、俺は牛肉のカルパッチョとボロネーゼを頼んだ。


「へえ、九条君ってこういう所慣れているの」

「勝手に親が連れて来るんでな。そっちも慣れているじゃないか」

「えへへ、私も親に連れて来られるの」

「ふーん、そうか」


味は値段通りだった。

「ねえ、この後私の買い物付き合って」

「良いけど」

「じゃあ、行こうか」


 何となく流れで俺が払う雰囲気だ。仕方なく、俺はレジでカードを出して払うと何故か、店員が目を丸くしていた。

 何驚いているんだ。こいつ。


「えへへ、ご馳走様。でも高校生であのカードって、九条君って何者?」

「ただの高校生」

「ただの高校生があのプラチナカードは持てないよ」

「親が渡してくれている」

「ふーん」



その後、買い物に付き合う事になった。

「まずここね」

「外で待っているから買ってきてくれ」


「駄目よ。選んで」

「冗談だろう。俺が女の子の洋服なんか選べる訳がない」

「じゃあ、二択で私に着せたい服を選んで」

「なんで俺なんだよ」

「良いじゃない。さっ入ろ」


 何故か手を引かれてしまった。こいつこういうの抵抗ないのかよ。


 彼女が選んだのは、淡いベージュの胸元がフリルデザインのハイウエストのワンピースともう一つはウエストを太いベルトで締めつつドレープが綺麗なマーメイドシルエットのワンピース。前者が二万三千円。後者が二万だ。


「どっちがいい」

「こっちだ」

俺はフリルデザインを指さした。


「やっぱり、私もこっちだと思ったの。じゃあこれ買って来る」


大きなバッグを持った店員がお店の前まで持って来て高原さんに渡している。

「ふふっ、良かった。今度着て見せるね」

「なあ、いつもこんな買い物するのか?」

「うん、今日はちょっと買いたくて。お母さんには言ってあるから」

「そうか」



「ねえ、もう一つ買いたいものが有るの。こっち」



「おい、ここは」

「良いじゃない。ここも私に着せたい水着を選んで」

「お、お前何言っているんだ。俺が選べる訳無いだろう」

「良いじゃない。また二択にするから。あっ、これ持っていて」

また手を引かれた。おまけに先程のバッグは俺が持っている。


 くそっ、周りのご婦人からの視線が針の様だ。こういう時背が高いときつい。


「ちょっと待ってて」

「おい、俺を一人に…………」

行ってしまった。ここに居ろというのか。


もう外に出ようと思ったところで戻って来た。

「ごめん、中々選べなくて。どっちがいい」


一つはオレンジのフリルが付いたセパレート。もう一つは淡いブルーのビキニタイプだ。

両方とも一万を超えている。


「ふふっ、私見た目より胸大きいんだ。見てみる」

「何言っているだ」

「冗談に決まっているじゃない」


「じゃあこっちだ」

ブルーのビキニタイプを指さした。

「ふーん。こっちなんだ。じゃあ着てあげるね。買って来るからちょっと待っていて」

「俺外で待っている」

「うん」


今の会話どういう事だ。着てあげるって。俺はこいつと行く予定無いぞ。


「お待ち同様」

今度は自分で持って来た。

「じゃあこれで買い物は終わり。帰る前にお茶飲もうか」


入ったのは、ローラアシュレイ。まあここなら。うえっ、女の人だらけだ。


「どうしたの?」

「いや何でもない」


二人でダージリンとアールグレイそれに彼女はケーキを頼んだ。

「ねえ、九条君。もう一度会えないかな?」

「なんで」

「今日買ったワンピと水着見せてあげる」

「い、いや止めとくよ」

「えーっなんで。九条君に見せたくて買ったのに」

「…………」

こいつ俺を弄ってるんじゃないだろうな。


「他に見せる奴いないのかよ」

「いる訳ない。九条君だけ」

「…………」

どうすればいいんだ。


「どうっちにしろ。もう時間無いぞ。夏休みの宿題終わらせないといけないし」

「じゃあ一緒にやろうか」

「いやいい」

「えーっ、ねえ会ってよ」

上目遣いで見て来やがった。何だこいつ。やたら可愛い。


「じゃあ、こっちが日にち指定して良いか」

「うんいいよ」

「八月の二日。ここだけだ」

「了解。嬉しいな。また九条君と会える」

「なあ、俺なんかと会っていて楽しいか」

「うん楽しいよ」

「そうか」

参ったな。


―――――


あれれ、この二人付き合っていないはずだが。高原さん積極的だな。


次回をお楽しみに


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価(★★★)頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

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