第16話 三学期の始まりと初詣


高原綾香視点


 去年の暮れに九条君の家に遊びに行った。どんな家に住んでいるのか。家族ってどんな感じなんだろう。程度の興味だけで彼の家に行きたいと言ったら簡単にいいよと言われたので行ってみたら


 まさか九条財閥本家の跡取りだったは。カードの件といい、レストランの予約それに食事のマナー、確かに納得するものだ。


 私が初めて好きになった人。もしかしたらこの人でもと少しだけ思った。キスまでしてしまったのに。


 後二年と少し。今更他の人に乗り換えるなんて出来ない。でも私も跡取り、婿を迎えなければいけない。どうすれば。


 お正月も会いたかったけど、彼は家の事情で会えない。何となく過ごした正月だった。


 告白はされていないけど彼に好きと言っている。彼も好きと言ってくれている。でも友達。




どうすればいいのか分からないままお正月も過ぎ三学期が始まる。今年はカレンダーの都合で金曜日が始まりだ。


 私はいつもの様に教室に行く。早く登校する方なのでまだ人は少ない。席に着くと本を取出して読み始めた。


 やがて時間が過ぎ、人が多くなると教室の中も賑やかになって来た。そして彼が登校して来た。


「九条君、おはようございます」

「おはよ高原さん」


 今日は髪に触れない。下駄箱の中には何も入っていなかったからだ。



 学期の始まりは恒例の校長先生のお話と席替え。今回彼は廊下側二列目の後ろから二番目。私は廊下側から三番目の前から四番目。どうせなら後ろから二番目になれば彼の隣に行けたのに。残念。





九条慎之介視点


 高原さん何か陰のある朝の挨拶だったな。去年の終業式の時もそうだったけど。家に連れて行ったのが良くなかったのだろうか。


 席替えで高原さんと離れてしまった。まあ朝の挨拶は何とかなるだろう。あっ、高原さんが隣の男の子に話しかけられている。なんだこの気持ちは。



「九条君」

「はい?」

「浅川ひいろです。宜しくね」

「ああ、宜しく」


 髪の毛は肩まで有ってやや丸顔の目がぱっちりした子だ。胸もまあまあ普通。

「九条君ってしっかり見るのね」

「いや、ごめん。そんなつもりじゃなくて」

「そんなつもりって、どんなつもり?」

「…………」

「ふふっ、冗談よ」


 それだけ言うと前を向いてしまい、それきり何も話してこなかった。




放課後


 俺はいつもの様に図書室に行く。そしていつもの窓側の席に座ると直ぐに高原さんがやって来た。


「九条君、日曜日の件なんだけど」

「…………」

断られるのか。初詣。


「初詣午前中に行かない。その後私の家に来ないかな?」

「別に良いけど」

「良かった。初詣、私の家の駅に午前十時で良いかな?」


 ちょっと早い感じもするが

「いいよ」


そのまま彼女は俺の横に座って本を読み始めた。




下校の予鈴が鳴ると図書室常連の生徒達も帰り始めた。

「九条君帰ろ」

「ああ」

ゆっくりと立って本を鞄の中に入れると図書室を出た。


 例によって何も話さずに駅まで行くと

「九条君、じゃあ日曜に」

彼女は手を振って改札に入った。


俺も改札に入ってホームで電車を待っていると

「九条君帰り?」


声の方に振り返ると今日席が隣になった浅川ひいろがいた。


「高原さんと仲良いね。付き合っているの?」

「仲は良いと思うけど付き合ってはいない」

「じゃあ、私が立候補してもいい」

「えっ、いきなりだね」

「そお、でももう三学期だよ。ずっと見ていたけど高原さんと仲が良いから付き合っているとばかり思ってた。

だから声掛けられなかったんだけど、席が隣になったのも何かの縁かなと思って、声掛けて見たんだ」


 電車がホームに入って来た。二人で乗ると吊革に摑まって外を見ていると

「九条君の降りる駅って何個目?」


色々聞いてくる人だな。


「六個目だよ」

「そうなんだ。私は五個目。案外近かったんだね。今度遊ばない?」

「遊ぶ?」

「うん、散歩とかでも良いけど」


「……散歩位なら」

「そっか、良かった。ねえ、初詣行った?」

「行ってない」

「じゃあ二人で行かない。今度の日曜日とか」

「今度の日曜日は用事がある」

「じゃあ、明日の午後、学校が終わった後」

「制服着ているし、午後は嫌だな」

「そうか。じゃあその内ね」



 少し話をしている内に彼女の家のある駅に着いた。

「じゃあ九条君またね」


 賑やかな人だな。高原さんとはまた違った個性だ。




日曜の朝、俺は約束通り高原さんの家のある駅に行く。駅で八つ目結構遠い。改札には十分前に着いた。


 あっ、高原さんがもう居る。改札を出ると

「おはよう九条君」

「おはよう高原さん」


今日も綺麗だ。淡い茶色のコートに首にはファーを撒いて黒のブーツを履いている。何を着ているかは分からない。


「行こうか」

「えっ、何処に?」

「神社に決まっているじゃない」

「ここにあるの?」

「うん、あるよ」



歩いて十五分。しっかりとした大きな鳥居。有名な神社の様だ。拝殿まで結構ある。

「随分並んでいるな」

「そうね。まだ八日だからね。九条君は家族でどこかお参りするの?」


「正月はしない。夏休みに京都に行った時、お参りする神社があるから」

「そうなんだ。えっ、京都まで行くの?」

「ああ、毎年我が家で夏休みの一週間別邸に泊る。その時にお参りする」

 別邸?別荘の事かな。


「そうなんだ。一週間何しているの?」

「皆バラバラだよ。両親は普段出来ない二人だけの散歩とかしているし、妹の雅はバイオリンやピアノを弾いている。俺は自然の中を散歩するだけ」

「へえーっ」

 凄いな。一般人の感覚とちょっと違う。


 話をしている内に拝殿に着いた。お参りした後、


「おみくじ引かない?」

「良いけど」


ガラガラ。


筒に入っている棒を取り出すと番号が付いている。その番号の中にあるおみくじを取り出す。


「九条君は?私は中吉」

「俺も中吉だ」

「ふふっ、仲良いね」

「そうだな」


彼が嬉しそうに笑っている。おみくじは待ち人待てば来ると書いてある。どうなるのかな。



「九条君、家に行こうか。実言うと昼食用意してあるんだ」

「えっ、でも悪いよ」

「もうしてあるから。行こ」


―――――


さて、浅川ひいろさんどう動くのかな?


次回をお楽しみに


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

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