第17話 彼女の部屋
初詣をした神社から歩いて十分位で高原さんの家に着いた。車止めがある大きな家だ。
「ここ、九条君の家と比べると小さいけどね」
「いや、普通に大きいだろう。俺の家は昔からの家だから」
「ふふっ、そうね」
門をくぐり少し歩くと玄関が有る。
「ただいま」
廊下を歩いてくる足音がする。
「お帰りなさい綾香」
俺をじっと見ている。
「お母さん、この人が話をしていた九条慎之介さん」
「初めまして九条です」
「初めまして綾香の母です。上がって下さい」
「九条君上がって、そこのハンガーラックにコート掛けて」
言われた通りにする。高原さんもコートを脱ぐとウールのセーターに茶色のスカートを履いていた。
「ここに掛けて」
二人でコートをハンガーラックにかけるとそのまま廊下を歩いて突き当りの洗面所で手洗いとうがいを済ませてから手前左にあるダイニングに入った。
「あれ、お母さんは?」
「うん、自室にいるのかな」
「…………」
「直ぐに支度するからちょっと待っていてね」
高原さんは冷蔵庫から出して来た料理を電子レンジとオーブンを使って温めると皿に盛りつけた。冷たい料理はそのままだ。
「私の手料理。口に合うと良いんだけど」
テーブルに並んだのは、モッツアレラチーズとルッコラとトマトを挟んだサラダの皿、スモークサーモンをクレソンで色添えした皿、鶏肉を油で焼いた後、スライスにしてこれも良く水切りされたレタスの上に乗せている。後は暖かそうなビーフストロガノフ。
「お昼だからこれ位かなと思って」
「十分だよ。驚いた。高原さん凄いね」
「凄くないよ。さあ食べて」
料理はどれも美味しかった。高原さんの倍は食べたような気がする。
「ご馳走様。美味しかったです」
「どういたしまして。今紅茶入れるからちょっと待って」
紅茶がティーポットに入ると
「私の部屋に行こうか」
「えっ、いいの?」
「なんで。九条君も自分の部屋に入れてくれたでしょ。同じ」
いやいや、男の部屋と女性の部屋では意味が違う様な?
紅茶のセットは俺が持って二階に上がり直ぐ側のドアを開けた。うっ、女の子の匂いが!
「さっ、入って」
白とピンクをベースにした可愛い部屋だ。ドレッサーやクローゼットそれに机や本棚がある。部屋の真ん中にはローテーブルが置かれている。
「ここに置いて良いか?」
「うん」
「どうかな私の部屋?」
「どうかなって言われても女性の部屋に入るの初めてだし」
「ふーん、そうなんだ。じゃあ九条君の主観でいいよ」
「ま、まあ可愛い部屋だなって」
「気に入ってくれた?」
「うん気に入った」
どういう意味で聞いているんだ?
彼女がティーポットから二つのカップに紅茶を注ぐと
「どうぞ」
片方のカップを俺の前に出してくれた。
紅茶を飲みながら少し沈黙が続く。
こんな時、どうすればいいんだ。経験値ゼロだからな。
「九条君」
じっと俺の顔を見ている。
「うん?」
「ねえ、男の人と女の人が付き合うってどういう事かな?」
それ俺に聞くの!
「分からないよ。恋愛経験ゼロだし」
自分の過去を恨みたい。
「私達さ。手も繋いで。お互いが好きだって分かっていて。その……キスもしていて……」
そそそと高原さんが近づいて来た。何?
俺の側に来ると唇を合わせて来た。
今日はちょっと長い。あっ、まずい。彼女口を開けて来た。どうすりゃいいんだ。
えっ、えっ、もう仕方ない。
えっ、えっ、彼が舌を……。
あっ、胸に手が。少し位良いけど。
あっ、段々……。
「ちょっ、ちょっと待って」
「…………」
「ねえ、しても良いけど。その前に。……私達お友達だよね」
「うん」
「でもこういう事って友達じゃなくて、そのもう一歩進んだ気持ちになってからでしょ」
「よく意味が分からない。友達で、仲が良くて、手も繋いで、キスもして他に何かある?」
「だから、その九条君から私に言う事あるでしょ」
「……好きだって言ったし、一生守るって言ったけど」
「だから……、もう今日は駄目!」
分からん。
もう、なんで言えないのよ。ここまで進んでいるのに。えっ、もしかして知らないとか?!
「九条君、聞いても良い」
「何を」
「その男の人と女の人が友達になって恋人になるってあるでしょ」
「ああ」
「その友達と恋人の間に二人で言うステップが有るじゃない」
「そうなのか」
この人本当に知らないのかな。これは不味いかも。
「だから、その好きだとか」
「言っている」
「君を守るとか」
「言っている」
「後もう一つあるでしょ」
「分からん」
「分かった。九条君が分かるまで私の大切なものあげない」
「へっ?!」
俺は何を言えばいいんだ。何が彼女を怒らせた?
また、すすすっと寄って来た。
「でもこれは良いよ」
唇を塞がれた。思い切り手を背中に回された。彼女の大きな胸が俺の胸に当たっている。ちょっと理性壊れそう。
なんか随分長かった。
「ふふふっ、私待っているからね」
「…………」
それから趣味の事とか話した。
「あっ、もう五時だ」
あっという間に時間が過ぎたようだ。
「俺、そろそろ帰る」
「そうだね。駅まで送って行くよ」
「そしたらまたここまで送ってこないといけない」
「そっか。そうだよね」
「じゃあ、もう一度」
ちょっとだけ唇を合された後、俺の背中に手を回して。
「ちゃんと言ってね。待っているから」
「う、うん」
高原さんの家を後にして何となくこっち方向だろうとい感じで何とか駅に着き家まで帰ったが、結局高原さんが求めているものは分からなかった。
―――――
九条君、恋愛小説でも読みなさい!
次回をお楽しみに
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。
感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします。
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