第18話 二人の隙間

 

私浅川ひいろは、入学してから同じクラスにいる九条慎之介という人に興味を持った。


いつも一人でいる。決して群れようとしない。クラスメイトが遊びに誘っても断る。唯一水島輝信だけには少しだけ心を開いている様に見える。


私も群れるのは好きじゃない。ただ高校という新しい社会の中で生きて行く為には迎合するという事も大事だと知っている。だから女子のクラスメイトとは適当に付き合っていた。


九条君とはその内声を掛けようと思ったていた。もちろん友達としてその先も考えて。


でも気が付いたら高原さんという成績学年トップ、その上学年一の美女と朝の挨拶をするようになっていた。


そのまま見ているとどうも高原さんが告白されようとする時はいつも彼が追いかけている。高原さんと何か約束をしているみたいだ。


それがはっきり分かったのは近藤政臣という他のクラスの男子が公開告白した時に分かった。休日は毎週の様に会っているという事も。


でもまだ十分九条君をこちらに向かせるチャンスはある様に見える。それは彼と高原さんの距離感だ。


近い様で決して近くない。そう二人はまだしていないという事が会話の中ではっきり見えた。


そして私に運が巡って来たと思ったのは、三学期の席替えの時彼の隣に来れた事だった。


だから私はこのチャンスを利用して彼に近付こうと考えた。そして彼が高原さんと駅で別れた時、私は思い切って彼に声を掛けてみた。


そしたら何と彼の住んでいる駅と私の家のある駅は隣同士だという事が分かった。これは運が向いて来たと考えていいだろう。




「ひいろ、何考えているの」

「えっ?」

「ぼうっとしていたよ」

 今私は、クラスメイト二人と一緒にファミレスに来ている。学校の帰りのおしゃべりだ。


「そ、そう」

「また九条君の事考えていたの?」

「別に」


「そう言えば九条君って凄いお金持ちなんでしょ」

もう一人の子が話しかけて来た。


「どういう事?」

「実言うと私も九条君の事気になって、ちょっとググッってみたんだ。そしたらなんと九条財閥の跡取りと出ていたの」

「ほんとそれ、ガセじゃ無ないの?」

「ほんとだよ。ちょっと待ってね」

彼女はスマホを弄り始めた。


「見てこれ」

「あっ、ほんとうだ。凄い、中途半端じゃない。なるほどねえ。だから高原さんか」

「どういう意味」


「高原さんは高原産業社長の一人娘。そういう事よ」

「なるほど。私達には縁のない世界か。羨ましいな」


でも跡取り同士なら…………。私は普通の会社員の娘。嫁ぐことは出来る。案外チャンス有るかも。失敗してもともと、やる価値あるか。


「ほら、ひいろ。またぼうっとして」

「えっ、そんな事ない」

「そう言えばひいろ、今度九条君の隣の席だね。いいな」




二人と別れた帰り道、私は彼をどうしたらこちらに顔を向かせる事が出来るか考えた。

まずは私に興味を持って貰う事。そしてチャンス有れば…………。実行あるのみね。



翌日、九条君が登校すると高原さんが近寄って来た。そして朝の挨拶をする。

これを何日か見ているとある事に気付いた。高原さんが耳に髪の毛を持って行く時、昼休みか放課後に高原さんが教室を出るとついて行くという事を。


 つまり、彼女が告白される時は、意図的に彼に教えているんだ。という事はその仕草が無い時は、彼はフリー。


 今日高原さんは挨拶だけだった。でも九条君は購買に行って帰ってきた後、一人で食べている。チャンスだ。


「九条君、一緒に食べても良いかな」

「えっ?」

「あっ、隣でだけど」

「別に良いけど」


 食べ終わると彼は高原さんをチラッと見ている。彼女が本を取出して読み始めると何故かホッとした様に食べ終わったごみを捨てに行った。


「九条君」

「あっ、浅川さん」

「ちょっと良いかな」

「?……」


「少し話したいなと思って」

「別に良いけど」


「九条君、いつも購買だね。学食は使わないの?」

「そんな事ないけど」

「じゃあ今度一緒に学食で昼食取らない?」

「……良いけど」

「明日はどう?」


「ちょっと分からない」

「ふーん、いつわかるの?」

どうしてこんな事聞いてくるんんだ?高原さんの件が無ければいいか。


「一限目が終わった頃には分かる」

やっぱりな。

「じゃあ、そん時声掛けるね」


 彼は放課後必ず図書室行く事も分かった。でもその時は高原さんが必ずいる。だから彼と話を出来るチャンスは、高原さんボディガードの無い昼食の時か、高原さんと駅で別れた時。充分時間は有る。




九条君が朝登校すると高原さんが来た。挨拶だけだ。今日は、高原さんのボディガードは無い様だ。


一限目が終わった時

「九条君、今日学食どうかな?」

 彼はチラッと高原さんを見た。


「別に良いけど」

「じゃあ、そうしよう」



午前中の授業が終わり、

「九条君、学食行こう」


高原さんがチラッとこちらを見た。どうするかな。彼を見た後、自分のお弁当を取り出した。

「浅川さん、行こうか」



―――――


 平穏は終わりを告げるかな?


次回をお楽しみに


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。


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