第19話 二人の隙間その二


私浅川ひいろは、九条君と一緒に学食に来ている。彼はB定食、私はA定食を食べている。


「九条君、偶には良いでしょう。学食」

「そうだな」

 頭の隅に高原さんの事が気になるが、今日は告白の誘いも無かったようだから構わないだろう。


「いつも購買のパン買って食べてるね」

「まあ、簡単だからな」


「えっ、学食の方が簡単でしょ?」

「でも、こうして一杯人がいるとちょっと気になる」

「そうかあ、九条君はだから教室で食べているんだ」

「まあな」


「ねえ、いきなりなんだけど、今度の土曜日学校終わったら一緒に遊ばない?」

「遊ぶ?」


「遊ぶって言っても、ファミレスで話をするとかって感じ。散歩でも良いけど今寒いし」

 あえて高原さんの事は無視して聞いてみた。


「今度の土曜日の放課後?」

何か入っていたっけ?高原さんは日曜だろうから良いかな。


「良いけど」

「ほんと!じゃあ、学校終わったら一緒に帰ろうか?」

「いやそれはちょっと。駅で待ち合わせじゃ駄目か?」

「何か問題あるの?」

「だって男子と女子が一緒に学校から帰ったら色々誤解されるし」

「でも九条君いつも高原さんと一緒に帰っているじゃない」

「…………」

 あれは何となくそうなっているだけで。


「まあ、いきなり無理言っても仕方ないから駅で待ち合わせしよ」

「そうしてくれ」



 食事も終わり目的も達成した私は、

「そろそろ戻ろうか」

「そうだな」



 案の定そそくさと教室に帰って行った。やっぱりね。高原さんの事気にはしているんだ。でもこの位なら大丈夫。




 俺は浅川さんと学食で食事を取った後、急いで教室に戻った。


っ!高原さんがいない。不味い。急いで教室を出て外履きに履き替えて校舎裏や体育館裏に行ったがいない。

不味い。他に思い当たるとこが無い。


もう一度教室に戻っていなかったら女子に聞いてみるか。


 急いで教室に帰ると高原さんが何も無かった様に席に座っている。浅川さんはいない。


直ぐに彼女の側に行って小声で

「どこか行っていたのか?」

「えっ、ちょっと花摘みに」

「そ、そっか。良かった」

「心配してくれたの?」

「まあな」

 ふふっ、浅川さんと学食に行くなんて言うから気になったけど、私がおトイレに行っているだけで心配するなんて。




その週の金曜日の放課後、いつもの様に図書室に居る。何も言わずに座って本を読んでいるだけだ。


下校の予鈴が鳴ると

「帰ろうか」

「ああ」


 いつもの様に一緒に校門を出ると

「ねえ、明後日の日曜なんだけど家で用事が有るんだ。明日の放課後会えないかな?」

「明日の放課後?!」

「どうしたの。そんなに驚く事」

「いや、何でもない。明日の放課後は俺もちょっと用事が有って」

「そうなの」

 おい、そんなに寂しそうな顔するな。


「でも、用事終わったら連絡するから」

「じゃあいいわ。待っている」


先に浅川さんと約束したからな。断る訳にも行かないし。




 次の日授業が終わると高原さんが小さく手を振って先に帰って行った。浅川さんもいない。教室の中の人が少なくなったのを見計らって俺も学校を出た。


 駅に着くと浅川さんが改札の側で待っていた。俺に気付くと

「九条君!」

手を振っている。目立つことは止めてくれ。


「浅川さん、待ちました?」

「少しね。別に良いけど。さっ行こっか」

「えっ、何処へ?」

「だからファミレス。学校のあるこの街じゃ誰が見ているか分からないでしょ。だから私の家が有る街のファミレスに行こ」

「分かった」




 私高原綾香は、九条君が一緒に帰れないという事で学校の帰りに本屋に立ち寄った。好きな小説が出る日だからだ。本当は彼と一緒に来たかったのだけど。


 本を買い終わった後、急いで家に帰っても仕方ないと思い、少し別の本も立ち読みして駅に向かった。


あれ、九条君。側に居るのは確かクラスの浅川ひいろさん。二人で改札に入って行った。彼の今日の用事って浅川さんと会う事だったの。


とてもショック。私って人がいるのに。なんで?でも今日用事終わったら連絡くれるって言っていたから気にしない方が良いのかな。




 ふふっ、思った通り高原さんが私達を見つけた。少し九条君と改札に入らずに話していた甲斐が有った。





私達は私の家のある街のファミレスに居る。

「ねえ、九条君のご両親って何しているの?」

「えっ、なんで俺の両親の事聞くの?」

「うん別に深い意味はない。何となく聞きたかっただけ」

「まあ、話しても良いけど。父さんは自営業だよ。母さんは専業主婦。そんなとこ」

 なんか聞いている事と違うな。でも嘘ついている様には見えないし。


「私のお父さんはサラリーマン。お母さんはパート。普通のサラリーマン家庭。九条君のとこは自営業なのか。何しているの?」

「なあ、あまり自分の家の事なんて話したくないんだけど。聞く必要あるの?」

 不味い不機嫌になっちゃった。


「そ、そうだね。ごめん。他の話しよ。高原さんの事聞いても良い?」

「いいけど」

「彼女と付き合っているの?」

「付き合っているってどういう意味?」

「えっ、いや。その普通に友達になってそれからどっちかが告白して仲を進めるというか」


「まあ、高原さんとは友達だ。告白って必要なのか」

えっ、人を馬鹿にしている様ではないけど。まさか。ほんとに知らないの。これはチャンス。


「えっとね。例えば、私と九条君がお友達でそれから九条君が私に付き合って下さいって言って恋人同士になるの」


「告白したら急に恋人同士になるのか?なんか不自然だな。俺は告白するのは下心ぐらいにしか思っていなかったんだがな。

それに友達から恋人になるって気持ちの問題だろ。何か言う必要有るのか」


「ちょ、ちょっと全然違うよ。一応の儀式だよ。それも大切な」

「そうなのか」

 でもなんて言えばいいんだ。もう付き合っているし。


「じゃあ、例えばだ。友達でも手を繋いでいる奴っているだろう。あれは?」

「うーん、まあいるね」

「キスしている奴もいるだろう」

「それはいないと思うけどな」

「…………」

 順番間違えたか?


「でも、例外もあるよ。例えば先にしちゃってから恋人同士になるって手もある」

「いや、それはまずいだろう」

 この前はそれだな。


「だから、友達から恋人になるには二択だよ。友達のどちらかが告白して恋人同士になるか、その……しちゃって恋人になるか」

 もう遅い感じだな。今更付き合えは無いよな。



「あっ、こんな時間だ。もう帰らないと。ねえ外暗いから送って」

「確かに暗いな。いいよ」


 ふふっ、やったあ。結構早く行きそうだな。彼女とのんびりしている間に私が九条君を。



「ねえ、寒いから手つないでいい?」

「えっ、いやそれは」

「だよね」

 流石にだめか。


「私の家ここ。今日はありがとう。今度家に遊びに来てね。じゃあまた」

「ああ」


 浅川さんってなんか積極的と言うか、はっきりモノ言うというか。まあクラスメイトだからいいか。こんな人がいても。


―――――


九条君、隙だらけですよ。


次回をお楽しみに


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

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