第15話 九条君の家に行く


 俺は高原さんを送って行った後家に帰った。今度は唇を拭いている。門をくぐり玄関を上がり

「ただいま」


タタタタタ。


妹の雅が走って来た。


「お帰りなさい。お兄様」

「ああ、ただいま」


「ふふふっ、お兄様の体から女性の匂いがします」

「えっ、俺はつい自分の体を嗅ぐと


「ふふっ、やっぱり。意中の方なのですか?」

「はっ?」


雅は笑いながら自室に戻って行った。


一応父さんに礼を言っておこう。父さんの私室に行き


「慎之介入ります」

「入れ」


父さんは本を読んでいたようだ。


「父さん、今日はありがとうございました」

「そうか。今日会った女性はいつ会えるのだ?」

「明日、家に来ます」


「そうか、早いな。もう見つけたのか」

「いえそこまでは」

「そうなのか。まあいい。楽しみにしているぞ」

「明日は遊びに来るだけです。会うのは控えて頂けると」

「何故だ?」

「それは…………」


確かに父さんが有ってはいけないという事はない。

「分かりました。午後から来ます。来ましたらお声を掛けます」

「分かった」




 翌日午後一時に彼女の家のある駅に向えに行った。一人でも来れるだろうが一応気になる。

 二人でそれから八駅。学校ある駅からでも六駅だ。


「九条君の家って学校から結構と遠いんだね」

「ああ、本当は今の高校に入る予定じゃなかったんだけどな。誘われて一緒に受けた奴が落っこちて俺が受かったから仕方なく、こうなった」


「そうなんだ。私は意識して今の高校受けたから」

「なるほど、だから学年トップか」

「それは関係ないと思うけど」



話ながら歩いているとあっという間に家に家の門に着いた。


「ここだよ」

「えっ、ここ」


 目の前には大きな門が有った。両脇には高い塀がそれぞれに五十メール位はある。さっき歩いて来た時、横に有った長い塀、百メートル以上あったけど、あれはこの家の塀だったんだ。


「入って」


 門をくぐると玄関まで手入れされた庭が十メートル近くある。玄関に誰かいた。


「お帰りなさいませ。慎之介様」

「ただいま」


「あっ、こちらお手伝いの紀野さん」

「初めまして。紀野でございます。旦那様より慎之介様のお世話をするようにと申せ使っております」

「……高原綾香です。宜しくお願いします」


なにっ、慎之介様のお世話って?



 玄関を入ると大きな上り口と屏風が置いてあった。両脇に廊下が通っている。


「あっ、お兄様。お客様ですか?」


髪の毛が背中まであり、九条君と同じ切れ長の美しい目をしている。背はもう私を同じ位あるかもしれない。



「雅か、俺の友達の高原綾香さんだ」

「初めまして高原綾香です」


妹さんは玄関に正座して頭を下げ

「初めまして、妹の九条雅です」


 それだけ言うと廊下を歩いて行った。家が大きいので何処にいったか分からない。


「上がって、高原さん」

「あっ、はい」



俺は、廊下を歩いて自室に連れて来た。


 長い廊下を歩くと廊下に添う様にある庭はよく手入れされた。



「ここだよ。俺の部屋。入って」


いいのかな。入っちゃって。

「どうしたの?」

「ううん、何でもない」


入ると

「広い!」

「ああ広さだけだけど」


ドアを開けると正面角に机と椅子が有った。それに沿って本棚が三つ、クローゼットが二つ。真ん中にソファとローテーブル。壁に沿ってベッドが置いている。


「ソファに座って」

「ありがとう」


「九条君の家って大きいのね」

「ああ、昔ながらの古い屋敷さ。今いる住居の後ろにも色々建っているけど、まあそれはその内」

「ねえ、こんな事聞くの失礼かもしれないけど、九条君のご両親って何をしているの?」

「俺の両親?」

「あっ、言いたくなかったら別に良いけど」


コンコン。


九条君がドアを開けると

「暖かいお茶を用意しました」

「ありがとう。俺が持つからいいよ」

「畏まりました」


 彼は先程挨拶してくれたお手伝い紀野さんからお茶とお菓子の載ったお盆をローテーブルに置くと

「悪いな。コーヒーとかでなくて」

「ううん、いいよ」


彼がお茶を注いでくれるととてもいい香りがした。


「さっきの話だけど、俺の家は大昔からある武家の家。あまり言いたくないけど九条流武術の宗家で、仕事は色々な産業に関連企業を持っている九条財閥の本家。そして俺はこの家の跡取り。簡単に言うとそんな感じ」


「九条財閥!」

「知っているのか?」

「え、ええ」

 お父様が会社を経営している関係で少しは知っているけど。九条財閥は群を抜く大企業。そして彼はその跡取り。彼は私を一生守るって言ってくれたけど。


コンコン。


「慎之介様」

彼がドアを開けて紀野さんから何か言われている。何か不味そうな顔をしているけど。



 ドアを閉めると

「高原さん、悪いんだけど父さんと会ってくれるか?」

「えっ!お父様と!」


「いや、そんなに大変に考えないで。昨日連れて来るって話したら、会いたいって言われて」

「…………」

「ああ無理ならいいよ」


ここは顔を覚えて頂いた方が。

「分かりました。お会いさせて下さい」



廊下を通り、何処を歩いているか分からない奥の間の方に行くと大きな障子の前で止まった。


「慎之介です」

「入れ」


「高原さんこちらへ」

「はい」


 私は中に入ると大きな和風のローテーブルの前で着物を着て座っている男の人が見た。

顔の彫りが深く、目は九条君と同じ切れ長だけど深い目。

しっかりとした鼻で一文字に締まった口。九条君と同じがっしりした大きな体をしていた。


九条君と一緒に正座して座ると


「父さん、こちらが俺のクラスメイトの高原綾香さん」

「高原綾香です」

しっかりとお辞儀をした。


「九条総一郎だ。高原と言うと高原和正殿の娘殿か?」

「はい、父をご存じですか?」

「ああ、高原産業には少なからずお世話になっている。確か一人娘と聞いているが?」

「はい」

「そうか」


 父さんは何考える様にしながら高原さんを見つめていると


「慎之介。もう下がりなさい。高原さん、今日はお会い出来て良かった」


 私は再度正座したまま頭を下げると、そのまま部屋から出た。


 彼の自室に戻りながら、九条財閥の跡取り。少し不味いかも。どうしようかな。あれ私何考えているんだろう。


「高原さん」

「えっ!」

「いや歩くの急に止めたから」

「あっ、庭が綺麗だなと思って」

「…………?」

 何考えていたんだろう?



 私は、彼の自室に戻ると

「九条君は、お正月はどうするの?」

「どうするのって。年賀の挨拶に来る人達に父さんと一緒に挨拶するだけ。俺は何もしないけど」

「そうなの。じゃあ時間ある?」

「ごめん、毎年三日間目一杯なんだ。だから時間取れるとしたら四日か五日位だけど。それも家族と一緒なんだ」


やはりね。まあそうだろうな。

「そうか。じゃあ、一月に入ったら最初の日曜日。一緒に出掛けない?」

「正月早々何処へ?」

「正月と言ったら初詣だよ。駄目かな?」

「いいよ」

「じゃあ、その時ね。後学校での事だけど、朝の挨拶の時の事、続けて貰って良いかな?」

「ああ、一生守るって言ったからな」

「そ、そうか。一生守ってくれるんだよね」


 その後、色々な事を話して午後五時に彼の家を出た。私の家に着く頃には大分暗くなるので送って貰った。もちろんいつもの事もして貰った。



 俺は家に帰り家族と一緒に夕食を取っている時、父さんから

「慎之介、お前は高原綾香さんを嫁にするつもりか?」

「何言ってるんだ。まだ知り合ったばかりだよ」

「それなら良いが」


 どういう意味だろう。



 翌日は二学期の終業式。学校長のお話と成績表を貰い、既に出されている冬休みの宿題を頭に抱えながらそのまま帰路に着いた。今日は図書室には行かない。


 隣にいる高原さんが

「九条君、昨日はありがとう」


何か意味深な音で言うといつもの様に何も言わずに駅に行き別れた。


―――――


 まだ、告白もしてないけどね。


次回をお楽しみに


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

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