第38話 両方の父との対面


「父さん、慎之介です。綾香さんに来て貰いました」

「入れ」


 俺達は襖を開けて中に入る。父さんは大きなローテーブルの向こうに座っていた。


 俺は反対側に座ると綾香がしっかりとした作法で正座した。父さんはその所作をしっかりと見ている。


「父さん、高原綾香さんです」

「高原綾香です。本日はお会いして頂き大変ありがとうございます」


「うむ、私が九条総一郎だ。今日は良く来てくれた。早速だが慎之介、お前が高原さんに約束したいという内容をもう一度言ってくれ」

「はい。

 俺と綾香は高校卒業後婚約する。

 そして大学卒業後結婚する。

 綾香は高原家の後を継ぐ。九条の名前で綾香が高原産業のトップになる。その上で子供が出来たら高原家の跡取りとする事を約束する。

 俺は九条家の後を継ぐ。綾香とは子供を二人作る。もう一人は九条家の跡取りとする。

 その上で綾香は九条家の外部取締役として入って貰う。俺は高原産業の外部取締役として入る。

 父さん。以上です」


「綾香さん。慎之介の言った事。あなたの思いと相違ないかな?」

「はい、全くありません。慎之介さんの思いは私の思いです」

「ほほっ、そうか。そうか。だそうだ高原さん」

「「えっ!!」」


 父さんの書斎の横の襖が開いた。高原産業社長、高原和正さんが現れた。

「お父様」

「綾香、今行った事本当だな!」

「はい」

 私は自分のお父様の顔を真剣に見た。これほど真剣にお父様の顔を見た記憶はない。


 そして高原さんがローテーブルの横に座ると父さんの方を見て軽く頷いた。


「では、話は済んだようだ。慎之介、綾香さん席はもう外して構わない。ここからは大人の話だ」


「えっ、でも」

「慎之介。お前達の気持ちは高原さんも私も良く分かった。儂と高原さんがお前と綾香さんの保証人になろう。

 但し、万万が一別れる様なことあらば。二人の父を裏切る事になる。その様な事にならぬように慎之介、綾香さんを大事に一生守りなさい。そして常に自分を律しなさい」

「はい。

 綾香行こうか」

「はい」


 俺達が父さんの書斎を出て行くのと入れ替わりに顧問弁護士が中に入って行った。何故か中から笑い声が聞こえる。



 俺達が俺の自室に戻ると直ぐに紀野さんがお茶を持って来てくれた。

「ありがとう。紀野さん」

「慎之介様、ご挨拶して宜しいですか?」

「えっ、良いけど?」

「高原綾香様、慎之介様のお世話をさせて頂いております紀野と申します。これからは私の事を紀野とお呼びください。宜しくお願いします」


 そう言うと俺の部屋から出て行った。


「…………」

「…………」


「あの、慎之介さん。頭がついて行っていないんですけど」

「俺もだ」


「でも、これで私達は決まったのですよね」

「そうらしいな」

「そうらしいって。先ほど慎之介のお父様が言っておられましたよね。大事にしなさいって。もっとしっかりとして下さい」

「はい」

 うっ、女性って自分が安定するとしっかりするって聞いたけど本当だな。


「何を考えていたんですか」

「い、いや。嬉しいなと思って」

「ところでもう一つ大切な事があります」

「何だっけ?」

「ここまで話が進んだ以上、大学は私と一緒ですよ」

「はい」

 うーっ、勉強したくない。



 それからは、週に三日塾へ行き、日曜はデート出来たが、他の日は勉強デートと言う事になってしまった。まあ、毎日会えるから良いけど。


 そして一学期末テストの結果が張り出された。

一位高原綾香

二位九条慎之介

三位・・


「ふふふっ、まだまだですね」

「えっなんで。二位だよ。もう良いじゃないか」

「私言いましたよね。私より上になって下さいと」

「だって綾香一位じゃないか。上無いだろう」

「よく見て下さい。私は満点まで後七点足りません。慎之介さんにはその七点を埋めて貰います」

「えーっ!」



「ねえ、最近、高原さん九条君の専任教師みたいな感じ」

「そうだね」

「でも、凄い話しているよね」

「私達には関係ないわ」

「そうだ、そうだ」


 女子諸君俺もそう思いたい。


 その後数日して夏休みに入った。例によって直ぐに夏休みの宿題に取り掛かる。場所は俺の自室だ。

 もう両方の親の公認だ。最近は綾香が我が家に来ると雅が少し不満顔しているが気にしない事にしている。


「はあ、なんかもう毎日勉強だな。流石にストレス溜まる」

「では、私でストレス解消しますか。いつでもいいですよ。慎之介さん♡」

「えっ、い、いや。…でもしよか」


 声を出さない様にしているが偶に漏れてしまう。ちょっと恥ずかしい。


 ふふっ、最近堪らない位気持ちいい。突き抜ける様に体が痺れる時がある。あれが堪らない。もっとして慎之介さん。


 最近、綾香すっかり好きになった様な気がする。俺もそうだけど。良いのかな。



「あっ、綾香、起きて」

「うん、慎之介さんどうしたの?」

「午後六時過ぎてる」

「あっ、今日の分終わっていない」

「だって、綾香が激しく求めて来るから」

「慎之介さんもです」

 二人で顔を赤くしてしまった。


「とにかく、今日はここまで。残った分は自分で片付けよう。後三日しかないから」

「そうしましょうか」


 急いで洋服を着る。もう前みたいに別々に着るという事は無くなった。でも綾香が下着を着る時だけは、流石に見てしまう。

「慎之介さん。またにしましょう」

「あっ、そ、そうだな」


 ふふっ、慎之介さん、私が下着を着る時の顔、今度鏡でも見せてあげようかしら。


 綾香の家までは一時間程掛かる。今日は午後七時半になってしまった。玄関まで送って行くと

「慎之介さん。また明日」

「ああ、迎えに来る」




 家に帰るともう八時半を過ぎている。これから食事をして風呂に入り残りの宿題をしないといけない。


 取敢えずダイニングに行って夕食を取ろうとするとリビングから父さんが来た。

「慎之介、今年の我が家の夏休みだが、綾香さん連れて行っても構わないぞ。向こうが良ければだがな」

「えっ?!」


あれは我が家の家族だけで行くものだ。綾香とは婚約もしていない。どういう事だろう。


―――――


次回をお楽しみに


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

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