第33話 先延ばし

更新が遅れて済みません。


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 本当は俺と綾香との事で父さんと話さないと思っていたが、中々切り出せないでいた。高校生の俺には重すぎる。そもそも何を話せばいいかも分かっていなかった。


 綾香とは話したが深く考える暇もなくGWが終わると直ぐに中間テストが来た。


 二年生一学期の中間テストだ。範囲はそんなに広くない。普段復習予習は一応しているので、軽く見直す程度で良いと考えていたのだが、


「慎之介さん、一緒に勉強会しましょう」

「いや俺はそんなにしなくても」

「駄目です。このテストが終われば進路ガイダンスがあります。同じ大学に行きたいのです」

「いや綾香が頑張れば、俺見ているから」

「そんな事言うのですか。ひどいです」

 寂しそうな目で俺を見て来る。


 綾香はGWで俺の家に遊びに来てから何故か精神的密着度が高くなったような気がする。


「分かったよ」

「では、今日からでも図書室で勉強会です」



「ねえ、なんかあの二人一段と濃くなった感じしない」

「するする。特に高原さん、九条君べったりだよね」

「うん」

「やっぱり早くアプローチしておけばよかったかな」

「そうかもね」


 いつもの賑やかな三人の女子が話しているが、最近は気にもしなくなった。


 放課後、いつもは俺が先に行くが今日は一緒に図書室に行く事にした。いつもの様に窓際の椅子に二人で並んで座って


「慎之介さん、図書室では復習を重点的に行いましょう」

「分かった」



 中間テスト直ぐに終わった。結果は、

一位 高原綾香

八位 九条慎之介


「学年末の落込みを何とか戻せましたね」

「でも中間だからな」

「学期末も同じようにやればよいのではないですか」

「えっ!」

 参った。今中間テストが終わったばかりなのにもう期末テストを考えているとは。



 中間テストの喧騒も収まったある日、何故か父さんに呼ばれた。


「慎之介、高原の娘さんとはどうなっている?」

「どうなっていると言われても」

「そうなのか、随分深く親しくしているそうじゃないか。今から新しい女性を見つけるのか。あのお嬢さんを反故にして?」

「いやそれは」


「もしお前が高原産業の一人娘を妻とする気が有るならば、早く動いた方が良いぞ」

「父さん、どうしてそんな事を言うの?」

「問題を先延ばししても後になって手が詰まるだけだ。問題が大きいほど、早くからその解決の為に準備する事が肝心だ」


俺は父さんに話してみる事にした。

「父さん、俺は綾香と結婚したい。だが相手もまた跡取りで婿を向かえないといけない立場です。はっきり言って手詰まりです」

「そうか、手詰まりとは打つ手を全て打ち終わって解決できなければ手詰まりだろうが、お前の場合、何か手を打ったのか?」

「いえ何も」


「では手を打ってどうしようも無かったら来なさい」




 俺は次の日の放課後、綾香と会って父さんと話した事を説明した。


「手を打つか。でも慎之介さんどんな手を打つつもりですか」

「それがまだ頭に思い浮かばなくて」


「では、私のお父様に直談判するのはいかがですか。直接私を下さいって」

「えっ、それって。綾香はいいの。下手すると家から出れなくなるよ」

「慎之介さんが助けてくれるんでしょう」

「うーん。…………」

「えっ、助けに来てくれないのですか?」

「いや、そんな事はないが」

「どちらなんです?」

「助ける!」


「では決まりです。今度のお父様の都合を聞きます。それに合わせて来て下さい」

 うっ、何か乗せられたような?


「分かった」




 そして三週間後、七月の始め俺は高原産業社長高原和正さんを訪ねた。自分自身が相当に緊張しているのが分かる。まだ高校二年の分際で将来娘さんを妻にしたいと頼むんだ。緊張しない訳が無い。


今日は高原さんのお父さんの書斎に通された。


「私に話が有ると綾香から聞いているが?」

「はい」

「…………」


「綾香さん、お嬢様を将来僕の妻としたいと思います。ついては私が十八になった時、綾香さんとの婚約を許して頂きたくお願いに参りました」


 相手の目を見て話した後、思い切り頭を下げた。


「九条君、君は自分の言っている事が分かっているのかね。綾香は高原家の一人娘だ。婿を取りこの高原産業を継いで貰わなければならない。そして跡取りも。この事をどう考えている?」


「……はい、綾香さんの立場は十分に分かっています。しかしそれでも僕は綾香さんを妻としたいのです」

「私の問いの答えになっていない。質問の意図も分からないのかね」

「いえ、分かっています。はっきりいます。高原産業の跡取りに綾香さんは諦めて下さい。別の方を考えて頂きたい」


「ほう、高原産業経営一族の血を私の代で終わらせろと言うのか。話にならない。帰ってくれ。綾香とも今後付き合うのは止めて貰う」


「お父様!」

「綾香、私はもう少し気の利いた話を持ってくると思っていた。この程度の話で綾香を渡せなど笑い話だ。お前が嫁ぐに足りない男だ。別れなさい」


「そんな!私は家を出ます」

「何を言っている。とにかく九条君今日は帰り給え。綾香、明日から九条君とは会わない様に」


「ふざけないで下さい。九条君行きましょう」


 いきなり数人の男が現れて綾香の前を塞いだ。そして一人は俺が玄関に行くように促している。


 俺は男達に対して綾香の側に行こうとしたが、

「九条君止め給え。君が叶う相手ではない」

「どうですかね」



「止めて慎之介さん、ここで争ったら本当に会えなくなる」

「綾香!」

 俺も九条流武術の跡取りだ。相手が数人なら負ける気はしないが、綾香の言う通りだろう。


「分かった。高原さん、今日は引き下がるが俺は綾香を諦めるつもりはない。明日からも会う」


 そう言って綾香の家を去った。


―――――


 ありゃりゃ、九条君もう少し考えていけば良かったのでは。


次回をお楽しみに


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

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