第34話 再考


「お父様どういうおつもりですか。私に慎之介さんともう会うなとは?」

「言葉の通りだが」

「ふざけないで下さい。私は慎之介さんと別れるつもりはありません。もしお父様が彼と別れろというのであれば、私はこの家を出ます」


「何を馬鹿な事言っている。一人で何が出来る?」

「慎之介さんは言ってくれました。一生私を守ると。ずっと側にいてくれると。私は彼の所に行きます」


「高原家はどうなる?」

「お父様の好きなようにすれば宜しいではないですか。慎之介さんと別れろと言っている人の事等私には関係ありません」


「そこまで言うのか」


「失礼します」

目の前にいる人達を睨むと体を引いて通り道を開けてくれた。




 翌日教室で

「慎之介さん、おはようございます」

「おはよう綾香」

「少しお話が有ります」


 彼女に黙ってついて行くと廊下とのぼり階段の隙間で

「昨日、お父様に言いました。このまま慎之介さんと会う事が出来なければ家を出ると」

「お父さんは何て?」

「返答は有りませんでした」


「むーっ、じゃあ今日から俺の所に来るか?」

「そうしたいのは山々ですが、表門も裏門も高原家の者が見張っています。校門を出ればすぐに車に乗せられてしまいます」


 朝の予鈴が鳴ってしまった。


「綾香、時間が無い。昼休み話そう」

「分かりました」



 そして昼休み。

教室で二人で昼食を取った後、校舎裏の花壇のあるベンチに来ていた。


「しかし、どうするかな。校門を強行突破しても俺の家に行く事は分かっている。もし事が大きくなって九条家と高原家がぎくしゃくするのは避けたい」

「分かっています。でも慎之介さんは私を一生守ってくれるのですよね?」

思い切り俺の目を見て行って来た。


「当たり前だ。出なければ綾香のお父さんの前であんな事言わない」

「…………どうしましょうか?」


「綾香、学校には毎日来れるのか?」

「それは大丈夫だと思います。流石にお父様も私の勉強を邪魔するつもりはないようですから」

「それならいいが。毎日会っていれば策も出るだろう」

「帰り道慎之介さんと一緒に帰れないのが残念ですが」

「図書室にぎりぎりまでいるしかないな。もう一度父さんに相談してみる」




 その日の夜、俺はもう一度父さんに話をした。


「また無策な事を。慎之介お前らしからぬ行動だな。それでは私も同じ事を言う。高原さんに全く代替案を考えさせない言い方だ」

「はい、ぶつかるだけになってしまいました。しかし妥協案と言っても両方とも跡取り。この事実は変えようもありません」


「そうなのか。例えば仕事の事だが、お互いの主張がぶつかった時、妥協案を見出せなければ、人々は今こうして平和に暮らせないと思うがな。

まだ思慮が足りないのではないか?もっとよく二人で考えて見る事だ」


「二人?」

「お前はこの件を一人で勝手に決めるつもりか?高原さんの娘さんの考えも無しに?」

「分かりました。……二人でよく考ええみます」


 俺は案が無いまま父さんの書斎を出た。



 ふふっ、慎之介にとって案外いい経験になるかもしれない。この程度の事で悩んで貰っては困るからな。




 次の日、教室に入ると綾香がいなかった。

 俺は急いで廊下に出てスマホで連絡を取ろうとしたが出ない。不味いな。まさかの強行手段に出たのか。昨日綾香は学校には来ることが出来ると言っていたが。



 綾香はぎりぎりになって教室に来た。

「慎之介さんおはようございます」

「おはよう綾香。遅かったな」

「ええ、その話はまた後で」




昼休み、食事後また校舎裏の花壇の所に来た。

「慎之介さん、今日遅れた理由は、私を家の車で送って来たからです。電車ならばこんな事無かったのですが。

 お父様は私が学校に行くつもりで慎之介さんの家に行く事を気にしている様です」


「そう言う事か。綾香この前君のお父さんに会った時の話は俺も失策だと思う。父さんにも言われた。そこで考えたんだが。

 俺と綾香は高校卒業後婚約する。そして大学卒業後結婚する。但しここからが大事だ。綾香は高原家の後を継いでくれ」


「えっ、どういう事?」


「つまり九条の名前で綾香が高原産業のトップになるという事だ。君のお父さんが承諾するかは説得しないといけないが。その上で子供が出来たら高原家の跡取りとする事を約束する」

 綾香が顔を赤くして下を向いてしまった。


「俺は九条家の後を継ぐ。綾香には悪いが子供は二人作る。もう一人は九条家の跡取りとする」

綾香の顔の赤みが増したような?俺も恥ずかしいけど。


「その上で綾香は九条家の外部取締役として入って貰う。俺は高原産業の外部取締役として入る。もちろん君のお父さんが許せばだが。他の事も色々あるだろうが両方とも創業一族だ。大体の事は乗り切れるはず。これを今日父さんにもう一度話してみる」


綾香が顔を起こして俺の顔をじっと見ている。そして

「赤ちゃんは三人でも良いですよ」

「…………」

二人で顔を赤くした。高校二年生の会話じゃない様な?




俺は帰宅すると直ぐに父さんの所に行って綾香と話した事を説明した。


「慎之介、詰めは甘いが取敢えずそれで話してみろ。高校生の子供が考えた事として高原さんも一考するだろう」

「分かりました」




それから一か月後、俺は再度綾香のお父さんと会い同じ話をした。


「九条君、前よりは良いが詰めが甘い。そもそもその約束、高校二年生十七才の子供が口にしたところで誰が信用すると思う」


「それは……」

 確かに言う通りだ。俺は返答できなかった。


………………。


「だが、聞くに値した。その気持ち信用するぞ」

 彫りが深く目の奥から俺の心の中を見通すような眼光で見て来た。


「はい、ありがとうございます」


「綾香、九条君との付き合い許そう。九条君、高校卒業までには私と九条さんがそして社会が納得する内容を持って来なさい。そうすれば綾香との婚約認めよう」


「お父様!」

「ありがとうございます」

「では下がりなさい」

 先程の顔ではなく親の顔になっていた。


―――――


さて、目の前の危機は去りましたが。


次回をお楽しみに


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

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