第24話 そして春休み

 

 ホワイトデーは、チョコをくれた皆に普通にハンカチを渡してお礼を言った。高原さんだけは、イヤリングを送った。


 とても喜んでくれたけどやっぱり驚いていた。でも妹の雅に相談したんだよ。ずれてたかな?


 今年も三月二十五日を迎え無事に一年生を終了した。四月からは二年生だ。俺の心の中では高原さんという気持ちが強くなっているが、当の高原さんは俺に不満が有るらしい。聞いても教えてくれない。


 あれから、彼女とは二度ほど体を合せた。決してムリムリじゃなくて雰囲気がそうしたから。ほんとだよ。


 終業式も終えた放課後


「ねえ、九条君。春休みに入ったね。どうしようか?」

「そう言われてもな」


「どこか行く?」

「それは流石に」

「我が家の別荘なら二人きりでいれるよ」

「へっ?!」

「ふふっ、冗談よ。でも毎日会いたい。それに偶には…………」

「…………」

 何をご希望なのでしょうか?


 春休み。宿題も出ない自由な休みである。当然暇を持て余すわけで…………。


 そんな事は無く、


「九条君、今日は何の映画見る?」


「九条君、今日は買い物付き合って?」


「九条君、今日は私の家に来ない?」


 そんな一日


寝ようとベッドでゴロゴロしているとスマホが震えた。


あっ、高原さんだ。


「九条君、明日ちょっと行きたいところあるの」

「いいけど。どこに行くの?」

「桜の花見に行かない?」

「お花見?」

「そう」

「良いけど」

 なんか不自然だな。


 翌日、俺は高原さんの家の最寄りの駅に朝十時に行った。改札を出ないで待っていてくれというので改札の内側で待っていると


「九条君、待った」

「まあいつもの時間に来た」


 白いスプリングコートの内側はクリーム色のニットと茶色のスカートと同色の靴。薄緑のバッグと少し大きな包みを持っている。


 首にはクリスマスの時に買ってあげたネックレスとホワイトデーの時にあげたイヤリングをしている。めちゃくちゃ可愛い。


「どう似合う?」

「とっても似合っている」

「そうか嬉しいな」


「その包み持つよ」

「ありがとう。今日のお弁当入っているんだ」

「そうか」


 二人で出かけたのは、四つ程学校から反対方向の駅。俺の所からは結構遠い。駅から十分程歩くと大きな公園が有った。


 正門の様な所をくぐり更に中に進むと右が駐車場で左が遊び道具がある芝生だ。白梅紅梅がもう季節終わりかなという感じだ。


 公園の入口から百メートルほど歩くと大きな広場があり、その中に桜の大木が何本も生えている。


 広場の真ん中は歩行出来るように石が敷かれていた。桜の下は家族連れや仲間同士で来たのか凄い賑わいだ。


「ここを通り抜けると、三百メートル位桜の木が滝の様に連なっている広場が有るの。そこに行きましょう」

「毎年来ているの?」

「小さい頃は親に連れられてきたけどここ数年は来てなかった。何処に座ろうか」


 周りを見渡すとこちらの広場はまだ空いている所が多い。


「あそこの木の下はどうかな」

 桜の木が大きくしだれて素敵な雰囲気だ。


「そうしましょう」


 高原さんが持って来たレジャーシートを広げて、お弁当の包みを置いて二人で座る。


包みからお弁当を取り出した。

「どうかな?」


 卵焼き、ブロッコリ、プチトマト、鶏もものから揚げそしておにぎりだ。飲み物は良く冷えた炭酸系飲料と麦茶だ。


「凄いよ。いつもながら感心する」

「ふふっ、ありがとう。さあ食べて」


 俺はまずは卵焼きを食べる。

「上手い、甘さが俺好み」

「良かったあ」


 それから次々と持って来たお弁当を味わった。

「美味しかったです」

「お粗末様でした。ねえ九条君。新学期から私お弁当作って行こうか」

「えっ、でも悪いよ」

「ううん、そうさせて欲しい」

 周りの人にはっきりと私と九条君の関係を認識させないと。


「それとね。頑張って名前呼びしたい。慎之介さんって。だから君も綾香って呼んで」

「えっ、いや恥ずかしい」

「私も恥ずかしいけど。そうしないと」

「そうしないと?」


「……去年のバレンタインデーの時、浅川さんや本城さん、それにクラスの他の子達も九条君にチョコ上げたでしょ。

 これは不味いなと思って。慎之介さんクラスの女の子の間で人気あるのよ。だから私の意思表示。慎之介さんは私の恋人ですって」


「ええーっ、知らなかった。俺なんかモテる要素ゼロだと思っていたから」

「ふふふっ、私が見初めたのよ」

「…………」


 桜の木を見ながら気持ちいい風の中にいると

「ふわぁー」

「眠いの?」

「美味しいもの食べたらちょっと」


「ふふっ」

高原さんがパンパンと自分の太腿の部分を叩いた。

「えっ、冗談?」

「ほんと、さっ、来て」


 いくらもうしているとはいえ、公衆の面前で彼女の膝枕は。

「何しているの。来なさい」


 母親ばりだ。仕方なく、いや遠慮なく、体をレジャーシートに少し伸ばしてそっと頭を彼女の太腿の上に置くと

ふにゅーっ、や、柔らかい。これは不味いかも。


「どうですか?」

「と、とっても良いです」


俺の頭をなでて来た。

「髪の毛サラサラですね」

 少しだけ眠くなってしまった。


 ふと目が覚めると俺の目の前に大きな山が二つ。ニットセーターだから余計強調されている。彼女も居眠りをしている様だ。これは不味い。


「高原さん。あの高原さん」


仕方ない。


「あの綾香さん」

「はい、何ですか慎之介さん。目が覚めましたか」

 やられた。


 その後しっかりと目が覚めるまで桜の木を見ながらそうしていた。


「少し、散歩しませんか」

「そうだな」


 頭を起こしてお弁当のゴミをまとめて袋に入れ、レジャーシートも二人で折り畳むと公園をくるっと回る遊歩道を歩いた。


「なあ、綾香さん」

「はい?」

「俺が君に伝えきれていない言葉ってなんだ?俺も綾香さんが俺の彼女だって思い切り思っているし、恋人同士でする事って一通りしているだろう」

「ふふっ、考えて下さい。言葉を楽しみにしていますよ」

「…………送るよ」

「はい♡」


―――――


 ちょっとラブな一日でした。


次回をお楽しみに


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

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