第21話 バレンタインデーちょっと前に
「初めてだね。九条君と学食来るの」
「そうだっけ?」
俺は高原さんと学食で昼食を取っている。どう見ても目立っている様だ。男子からの視線は痛いし、女子からは興味の目で見られている。
「高原さんが学食に誘うなんて珍しいけど?」
「うん、もうはっきりしようと思って」
「何を?」
「昨日みたいな事が有るのは、いい加減な態度でいる私がいけないから。だから……もうこうして九条君の事好きだってはっきりすれば告白少なくなるかなって」
「「「きゃーっ」」」
「ねえ聞いた」
「もちろん」
「ついに学年一の美女が告白したわよ。九条君が好きだって」
「聞いた、聞いた」
言いやがった。仕方ないか。
「高原さん、俺も君が好きだ」
今更なんだけどな。お互い好きだって言っているし。
「「「きゃーっ」」」
「九条君もよ」
「これは一大ニュースよ」
「くっ、遅かったか」
「ああ、俺もそう思う」
「心配するな。お前達じゃ相手にもされない」
「「お前もな!!」」
「ふふっ、周りが賑やかね」
「まあな」
「じゃあ、いつも手を繋いでいる事も公開しようか」
「構わないよ」
「「「もう駄目ー!!!」」」
男子がテーブルの顔をぶつけている。
「前から付き合っていたんだね」
「そう見たい。いつからなのかな」
「聞いてみよか」
同じクラスの子が近づいて来た。
「ねえ九条君、ちょっと良いかな?」
「何?」
「いつから高原さんとお付き合い始めたの?」
「えっ、付き合っていないけど」
「だ、だって今好きだってお互い言っていたよね」
「ああ、でも高原とは友達だ」
「あのさ、好きだってことは、付き合っているって事だよね」
「そうなのか?」
高原さんが俺を見ると
「九条君とはお付き合いしていますよ。お友達として」
「はっ?」
女の子が元のテーブルに戻った。
「どういう事?」
「分からない。はっきりしたのは、お互いが好きだって事」
「いつから」
「聞くの忘れた。もういい!」
俺達をめぐる喧騒が学食の中で渦巻いている中、俺は高原さんと一緒に学食を後にした。
「なんであんなに騒いでいるんだ?」
「さあ、分からないわ。でももういい。皆の前ではっきり好きだって言ったから」
「そうだな」
二人で学食行ったので少し話を聞いていると
不味いわ。完全に一歩先を行かれた。何とかしないと。浅川さん曰く
その日の放課後、図書室を出た俺達は、一緒に校門を出て駅に向かった。
「ねえ九条君、今度の日曜日、午前中買い物に行きたいの。一緒に行って。その後我が家って事で。後話もある」
「別に良いけど。何買うんだ?」
「まあ、それは当日」
私は、その日家に帰った後、お父様の帰宅を待ってリビングにいた。
「ただいま」
「お帰りなさい。あなた」
お父様が帰って来たようだ。私は玄関に行くと
「お父様、お話が有ります。お時間頂けますか」
私の顔をじっと見ると
「分かった。リビングで待っていてくれ」
「はい」
十五分程して、お父様がお母様と一緒にやって来た。
「綾香、話とはなんだ?」
私は両親の顔をじっと見ると
「好きな人が出来ました。その方は私を一生守ってくれると言っております」
「そうか」
「今度、お会いして頂けますか」
「綾香、会う前に聞きたいのだが。その男とは?」
「はい、私と同じクラスの九条慎之介さんです」
「…………相手は私と会うと言ったのか?」
「いえ、まだ彼には話しておりません」
「そうか。その人はお前が高原産業の一人娘だと知っているのか」
「はい、私は彼のお父様とご挨拶しました。その時、お父様の事もご存じでした」
「当然だろうな。九条財閥と我が社は密接な関係がある」
「しかし向こうの父親とはもう会っているのか。むーっ」
「はい、彼の家に連れて行ってくれとお願いしまして。ほんの軽い気持ちだったのですが。その時九条君のお父様が私に会いたいと言っておられたようで」
「彼と会う事に何か問題でもあるのですか?」
「会う事には問題ないのだが。……どうしたものか」
日曜日
俺達は、ショッピングモールの有る駅で午前十時に待ち合わせた。
改札を出て待っていると
「九条くーん」
手を振りながら改札を出て来た。この前と同じように薄茶色のコートを着て白いファーを首に巻いている。足には茶色のロングブーツだ。
「待った?」
「ちょっとな。でもまだ十分前だ」
「ふふっ、ありがとう。行こうか」
彼女が足を向けたのは有名なデパートだ。
「ここ、今日は一緒に入ってね♡」
うっ!こいつどういうつもりだ。
「無理だ、ここで待っている」
「駄目、来て」
「しかし、俺は何も出来ないぞ」
「いいから、私が選んだものを見てよ。水着の時も出来たじゃない」
お店の前で言い合いをしている俺達をご婦人達が声を出さずに笑っている。このままでは仕方ない。
手を引かれて奥の方に連れて行かれた。ちらりと値段見るとご婦人の物は男と違い高いな。
「ねえ、これなんかどう?」
自分の体に合わせる様に俺に見せて来る。色は黒だ。
「ちょ、ちょっと色が濃いような」
「じゃあこっちは」
今度はピンクだ。
「うっ、いいんなじゃないか」
早くこの場を去りたい。
「じゃあ、もう一つ。これは」
今度はブルーだ。
「それもいいんじゃないか」
ほとんど目を瞑っている。
「ねえ、目を開けて見てよ」
細目に開けると
「ふふっ、この二つね。レジに行って来るからここで待っていて」
「ちょっ、ちょっと、ここで待てというのか」
「直ぐだから」
売り場に背を向けて天井を見ている。どう見ても周りのご婦人が、クスクス笑っている。
数分後、
「お待ちどう様。さっ行こうか」
俺は危機を脱しそうだ。
ローラアシュレイという喫茶店に入ると
「お前、どういうつもりだ。あんなとこ連れて行って」
「だって、私が着る下着見て欲しかったから」
「な、何でおれが見る必要が有るんだ」
「だって、いずれは見る事になるでしょ」
「へっ!どういう事?」
「そういう事」
会話が通じてない感じだ。ちょっと早いが、
「昼食食べないか。今なら空いているし」
「そうだね」
昼食を取りながら
「今日、私の家に来てくれるでしょ」
「行くけど」
「お父様に会って欲しい」
どういう意味でいっているんだろう。
「九条君が私の事一生守るって言ってくれたよね。だから会ってほしい」
俺も馬鹿ではない。意味は分かる。しかし父さんには、まだ知り合って十ヶ月だ。結婚なんて考えていないとあの時言ってしまった。
それに俺達はまだ十六才。結婚を決めるのは早いだろう。しかし…………。
「分かった。会うのは構わないが……。その……難しい話は無しだぞ」
「難しい話って?」
「その……将来の約束とか」
「…………九条君、私が好きだって言ってくれたよね。一生守るって言ってくれたよね。あれ嘘だったの?」
「嘘じゃない。でも今から両親相手にはっきりする必要あるか。高校卒業までに決めれば」
「それじゃ遅いのよ」
「どういう意味だ」
「高校卒業までに相手を見つけないとお見合いさせられ好きでもない男と結婚させられる」
っ!なんてことだ。高原さんにそんな裏事情があるなんて。俺と同じじゃないか。
「なあ、高原さんは一人娘だよな」
「うん」
「それって俺が婿に入るって事か?」
「そうなるかもしれない」
「なるかもしれない?」
「私は九条君次第」
「…………」
これは重たくなったぞ。
―――――
さて、難しい話になって来ました。でもまだ恋人人同士じゃない?
次回をお楽しみに
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。
感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします。
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