第13話 クリスマスイブはまだ遠い


 高原さんと駅で別れホームで電車を待っていた。


「九条君」

どこかで聞いた声に振向くと


「一限目の後そっちのクラスに行ったんだけど、取り込み中だったみたいだから」

「本城さんか、何か用事?」


「九条君、クリスマスイブ何か予定入っている?」


高原さんの事は気になったが、

「今の所は何も」

「ほんと、もう高原さんと約束しているかと思った。ねえ、私の友達が九条君とクリパしたいんだって。

 今年のイブって土曜でしょ。学校終わったらどうかな。学校の近くのカラオケでやろうって事になっていて」


「えっ、クリパ!いや、俺そう言うの好きじゃないから。ごめん」

「えーっ、でもそんなに多い人数じゃないよ。私と友達二人とその彼氏の四人なんだ。だから九条君入れても五人。騒ぐ人たちじゃないから」


困ったな。そういうの参加した事無いし。

「返事、来週の火曜まででいいよ」

「そうか、考えとく」

俺はその場繕いのつもりで言った。


 家に戻り自室に入って鞄を机の上に置いてベッドに横になると


 どうするかな。クリパなんてあまり行きたくない。きっぱり断れば良かった。考えとくと言っただけだから月曜日断るか。


 高原さん。誘って欲しかったのかな。いや自分のうぬぼれに溺れるのは良くない。でもこのままだと不味いよな。

 電話してみるか。俺はスマホを手に取ると



『もしもし、九条です』

『九条君!高原です』

『済みません、突然電話して』

『……そんなことない』


『あの、クリスマスイブの事なんですが』

えっ、それで掛けて来てくれたの!もしかしたら。


『はい』

『高原さんは、予定入っていないんですか?』

『入っていないです』

『誰かと会うとかないんですか?』

『ありません』

ちょっとでも会う気が有ればこんな言い方しないだろう。やはり俺の自惚れだったのか。


『そうですか。電話かけて済みませんでした』

えっ、誘ってくれないの?

『ちょ、ちょっと待って』

『何か?』

『ううん、なんでもない』




翌日、今日もお誘いは無い様だ。


昼休み、前の方に座る賑やかな女の子達が高原さんのとこにやって来た。


「高原さん、来週の土曜日なんだけど何か予定入っているかな」

「来週の土曜日?」

「クリスマスイブなんだけど、学校終わったら女の子達でクリパしようって話が有って。高原さん参加しない?」


何故か、高原さんが俺をチラッと見て来た。

「そうよね。高原さん九条君と一緒だよね」


「いえ、参加します」

「えっ、いいの。じゃあ詳しい事は後で」


誘った女の子が席に戻ると

「ねえ、誘えちゃった。ほぼ駄目だと思ったのに」

「うん、信じられないけど。これで楽しくなりそう」


 何故か、高原さんが俺をまだ見ている。何となく気まずいのでトイレに行こうと席を立って廊下に出ると


「九条」

「水島か」

「高原さん、誘っていないのか」

「そうだが」


「良いのか本当に。お前高原さんのボディガードだったよな」

「そんな事は無いが、まあそんなものだ」

「高原さん誘われたクリパ、よそのクラスの男達も来るんだぞ」

「なんで、そんなこと知っている?」

「俺も誘われたけど彼女いるから断った。でもちょっと内容聞いてみたらって事だ」

「…………」




 いつもの金曜日だと高原さんは俺と一緒に帰り日曜日の約束をするはずだが、今日は先に帰ってしまった。彼女だって用事あるんだろう。


 俺はいつもの様に図書室に行って窓際の席に座って外を見ていた。何か気まずい。いつもの調子じゃない。



 その週末は高原さんとデートをしなかった。連絡もしていない。何となく気になってはいるが、こちらから何かすると言う訳にもいかない。


 そして翌月曜日、朝登校するといつもの様に高原さんは席に居た。机に鞄を置くと


「九条君おはようございます」

髪の毛を両手で耳の後ろにあげた。今日は放課後か。

「おはよう高原さん」


 俺は、購買でパンと牛乳を買って教室に戻ると高原さんがいない。まあ、用事でもあるんだろう。と思いながらパンを食べ始めると


「おい、九条」

「なんだ、水島」

「おまえ、高原さんが告白される時はいつも付いて行くのに何で今日は行かないんだ」

「なに。どういう事だ?」

「こっちが聞きたい。今高原さんは校舎裏のベンチのある方へ歩いて行ったぞ」

俺は食べかけにしたまま、直ぐに教室を飛び出した。


 あれだけ大事にしていて何でイブ誘ってねえんだ?




 俺は急いでベンチのある校舎裏に行き、見えない様にそっと覗いた。まだいる様だ。


「高原さん、この前は断られましたが、やっぱり諦めきれません。お付き合いして下さい」

「近藤さん、お断りしたはずです」

「でも、九条とは付き合っていないんですよね。クリスマスイブだって俺達のパーティに来るって聞いてます」

「えっ?!」


「九条が高原さんをイブに誘わない様な甲斐性のない男なら、俺の方が絶対あなたを幸せに出来ます。お願いします。付き合って下さい」

頭を下げて頼み込んでいる。


「…………」

 不味いな。でも出る幕じゃないし。



「近藤さん、イブに誘われないからって関係ありません。私はあの人が好きです。他の方とお付き合いする気は全くありません」


 うっなんて事言っているんだ。


「そこまで九条の事を。分かりました」

 近藤がこちらに向かって来る。不味い。


「あっ、九条。何で高原さんはお前なんかに!」

そのまま教室の方へ戻って行った。



「来ていたんですか」

「なんで、教えてくれなかった。万一有ったらどうするんだ」

「今日の朝教えたはずです」

「でも今日は両耳に髪の毛掛けたじゃないか」

「あれは本当です。放課後もあります。最初に一度片方を耳に掛けた後、両方を掛けました」


「そうなのか。悪かったな」

「九条君こそ、もし私が暴力を振るわれたらどうするんですか」

「俺が守る」

「分かりました。私を守ってくれるんですね。一生」

「えっ、一生?」

「一生じゃないんないんですか?」

「……分かったよ」


「確認できてよかったです」

高原さんは、そのまま教室へと戻って行った。


 なんか言わされたな。



 ふふふっ、一生守るって言わせた。でもまだ告白されていない。イブにも誘われていない。そう言えばイブは断らないと。



 放課後、いつもの様に高原さんが告白される様子を見ていたが、断られると簡単にあきらめてくれたようだ。


「九条君、帰りましょう」

「ああ」


―――――


何か変な二人です。


次回をお楽しみに


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

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