第4話 岩山の大魔術師…見習い?(中編)
空腹のせいか、それともハッタリがバレるのが恐いのか、それ以後のレミアールはあまり口を開かなかった。
石コロだらけの砂漠を一時間ほど走ると、やがて周囲は草原に変わった。
さらに三十分ほどで集落らしきものが見えてくる。
外周をグルリと先を尖らせた杭の防御柵で囲っている。
道はそのゲートらしき所に続いていた。
大雑把に丸太で作った門だが、動物などは入り込めないだろう。
その傍らに槍を持った二人の男がいた。
中年の男性と若い男だ。
「旅人か?このルーデン村に入りたいのか?」
中年の男性がそう聞いてくる。
「ああ、そんな所だ。入れて欲しい」
俺がそう言うと、男は黙ってゲートを開いた。
「随分と珍しい乗り物に乗っているが、それは何だ?」
若い男がCBRをしげしげと見つめ、興味深そうに聞いてくる。
「コイツは機械仕掛けの馬みたいなもんだ。バイクって言うんだ。俺の国では普通に乗られている」
中年の男性が片手で「行け」と指し示す。
俺も片手を上げて挨拶を返し、ゲートを通り抜ける。
「柵や門があるのに、ずいぶん簡単に通してくれるんだな」
俺の疑問にレミアールが答える。
「ここは街道上にある村だからな。簡易的な関所の役目もあるが、人や物資の自由な往来を止める事もない。彼らの役目は、魔物や獣、それから盗賊団を村に入れぬこと、そして他国の軍隊を見張ることだ」
「俺ら旅人は簡単に通しても構わない、って事か?」
「ああ、一人くらいの間者を防ぐことより、人々や物資の往来を妨げる害の方が大きい。そもそもこんな僻地の村に間者が入ったところで、何の問題もないしな」
「『関所の役目もある』って言っていたけど、するとここを通って大きな町に行くのか?」
「そうだ。国は大抵はそういう作りになっている。首都の周りを地方都市、地方都市の周りを大きな町、さらにその外側に村だ。そんな事も知らないのか?」
「ああ、この土地は初めてなんでな」
俺のあいまいな答えに、レミアールは不思議そうな顔をした。
畑の中を抜けると、すぐにまた防御柵と門がある。
先ほどの柵よりは頑丈そうだが、やはり獣相手にしか役に立ちそうもない。
先ほどと同様に二人の男が門番として立っていた。
「旅人か?村に入るのか?」
「ああ、入れて欲しい」
やはり同様の問答を繰り返して、門は開かれた。
その時、後ろのレミアールのお腹が、また「ぐう~」と大きな音を立てた。
そう言えば俺も腹が減っているなぁ。
「村の中で食事が出来るところはあるのか?」
「出来るよ。この村は辺境だけど、たまに魔物討伐の騎士団や冒険者が来るからな。冒険者ギルドが食事や宿を提供してくれる」
冒険者のギルドがあるのか。テンプレ通りだな。
もっとも職業毎の共同組合はあって当たり前か。
冒険者みたいな危険な職業なら、その共助組織も必然的に作られるのだろう。
「冒険者ギルドってのはどこにあるんだ?」
「村の中央広場に行けば、すぐにわかるよ」
「ありがとう」
俺は礼を言ってバイクを再び走らせた。
村の中はメインの通りは石畳になっていた。
おそらく荷車が通りやすいように舗装されているのだろう。
村の中央広場には大きな泉があった。
どうやら荒野の中に泉があったから、ここを中心に人が住み着いて村となったのだろう。
俺は泉の前にバイクを停めると周囲を見回した。
するとレミアールが一つの大きな建物を指差す。
「あれが冒険者ギルドだ。建物の前に『剣とスコップのクロス』がシンボルとして掲げられている」
俺はCBRをその店の前に止めた。
ちなみに隣の建物は教会らしい。
レミアールは抱き上げて下ろしてやる。
空腹のあまりフラフラなレミアールを連れて、俺はギルドの中に入った。
どうやら一階は全般的に食堂兼酒場、その横にギルドとしての窓口がある。
そして二階が宿泊施設になっているようだ。
俺は空いているテーブルにレミアールを座らせると、食堂のカウンターに向かった。
少し太めの中年女性が気付いて俺の前に来る。
「アイ、何にするんだい?」
カウンターの横にあるメニューには様々な料理名と値段が書かれていた。
白カミソリ魚のフライ……2ディナ50メソ
デデナメクジ魚の油炒め……90メソ
ザルデン・フラワーの塩茹で……1ディナ20メソ
捻れ蛙の唐揚げ……3ディナ
茶麦パン……60メソ
他にも「夜鳴き鳥のソテー」だの「鬼牛のステーキ」があるが、どちらも10ディナを越えているからきっと高いのだろう。
この単位なら1ディナは100メソって所か?
だが俺は間抜けな事に、そこで始めて気付いた。
この世界の通貨を持っていないのだ。
俺はサイフを取り出して確認した。
中身は五千円札が一枚、千円札が二枚、五百円硬貨が一枚、百円硬貨が三枚、あとは十円と五円と一円硬貨が数枚、あとは銀行のキャッシュカードとクレジットカードだ。
「あの、これで何か買えませんかね?」
俺はサイフの中から三百円を取り出した。
だが食堂のオバサンは眉をしかめた。
「アンタ、こりゃこの国の通貨じゃないよ。悪いけどこれじゃあ売れないね」
そりゃそうだろうな。
俺はスゴスゴとテーブルに戻ると、突っ伏しているレミアールに尋ねた。
「おい、レミアール。おまえ、金は持ってないか?」
「師の食事の用意は従者の仕事だろう。我に尋ねるべきではない」
俺、いつからコイツの従者になったんだ?
もっとも最初に「喜捨」とか言って金をせびられた時点で、こいつが一文無しなのは予想できたが。
俺はもう一度小銭をテーブルの上に広げてみた。
思わずタメ息がでる。
そりゃそうだよな。
異世界に来て、いきなりこの世界のお金を持っているはずがない。
こんな事なら、女神にある程度の所持金を用意して貰えば良かった。
その時、そばを通りかかった初老の男が話かけて来た。
「アンタ、珍しいコインを持っているな?そりゃ他国のコインかい?」
「ええ、まぁ」
「こりゃ銀貨か?」
五百円硬貨と百円硬貨を指差して尋ねる。
「いや、確か白銅だったと思うけど」
「ちょっと見せて貰えるかね?」
俺がうなずくと、男は五百円と百円の硬貨と手に取ってしげしげと見つめた。
「ほぉ~、こりゃあ中々よく出来ているコインだな。細部までキッチリと刻印が出ている。掘られている文字も珍しい。どうだろう、このコインをワシに売って貰えないか?ワシはコイン集めが趣味でな」
「いくらで買って貰えます?」
地獄に仏とはこの事だ。
俺の顔はさぞや喜びに満ちていただろう。
後から考えれば、もうちょっとジラして値段を吊り上げれば良かったんだが。
「あんたの持っているコイン、1セットを30ディナでどうだろうか?」
おそらくさっき見たメニューの感じから、1ディナは百円くらいだろう。
という事は三千円くらいか?
五百円玉、百円玉、十円玉、五円玉、一円玉、全部で616円だ。
それが三千円に換わるなら大分お徳だ。
「オッケー、売りましょう!」
交渉成立。俺はオッサンの気が変わらない内に、五種類の日本円硬貨を押し付け、変わりに30ディナを受け取った。
さっそくカウンターに行き食べ物を買う。
と言っても買ったのは一番安い茶麦パン(60メソ)を四つだ。
なにせ所持金はこの30ディナで全てなのだ。そして他に金を得られる手段もない。贅沢はできない。
俺とレミアールはパンを二つずつ、貪るように食った。
「い、偉大なる大魔法使いラスモリーの末裔であるこの我に……ハグハグ……たったパン二つしか献上できんとは……モシャモシャ……何とみすぼらしい弟子か……ハムハム……これも試練であろうか」
「るっせー、俺がいつオマエの弟子になったんだ?文句があるなら食うな!それから三つ目のパンに手を出すんじゃねー!二人で四つなんだから二個ずつに決まってるだろーが!」
満腹にはほど遠いが、二個のパンを胃に収めた俺は立ち上がった。
「それじゃあな、レミアール。ここまで連れて来てやったんだ。文句はないだろ?後はまた修業を続けるなり、自分の家に戻るなり、好きにすればいい。達者でな」
するとレミアールは素早くの俺のジャンバーを掴んだ。
「何を言う。貴様は我の弟子にして従者なのだ。こんな所に師を置いていくなど、許されることではないぞ!」
「バカ言ってんじゃねー。俺はオマエの弟子になったつもりも、従者になったつもりも無いわ!さすがにあの岩山で魔獣のエサになるのは可哀そうだと思ったから、ここまで連れて来てやったんじゃねーか。メシも食わせたし、これ以上の義理はない!」
俺は言い切った。
そもそも現在の所持金からして、二人でいたらアッと言う間に無くなるだろう。
この続きは明日7:20頃に公開予定です。
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