第5話 岩山の大魔術師…見習い?(後編1)

「バカ言ってんじゃねー。俺はオマエの弟子になったつもりも、従者になったつもりも無いわ!さすがにあの岩山で魔獣のエサになるのは可哀そうだと思ったから、ここまで連れて来てやったんじゃねーか。メシも食わせたし、これ以上の義理はない!」


 俺は言い切った。

 そもそも現在の所持金からして、二人でいたらアッと言う間に無くなるだろう。

 するとレミアールは、急に大きな目に涙を浮かべ、そして大声で泣き始めた。


「うわああぁ~ん!ワタイ、家から遠く離れてこんな所まで連れて来られて、そのままパン二個だけで放り出されるなんて!しかも利用するだけ利用したら『もう用済みだ』なんて!ひどい、ひどいやんかぁ~っ!」


 そのあまりの泣き声の大きさに、ギルド中に人間が俺たちを見る。


「おい、そんな大声で泣くな!他の人が見てるだろ!」


「ワタイが動けないのをいい事に、岩山の上で無理矢理……さらに誰も知らない村に連れてこられて……ここで捨てられるなんて、あんまり、あんまりやぁー!」


「おい、何言ってんだ、誤解を招くような事を言うな!」


「だって、全部本当の事やんか!ワタイがあの岩山の上で動けないでいたら、ハヤテが、ハヤテがいきなりやって来て、そしてワタイを無理矢理……ワタイ、イヤだったのに!イヤだったのにっ!」


 レミアールはテーブルに突っ伏して、ここぞとばかりに大声でそう言い放った。

 ご丁寧に俺の名前を二回も強調して叫びやがって。

 俺が周囲に目を走らせると、まさしくギルド中の人間が俺たちを見ていた。

 しかも明らかに俺を非難する目だ。


「あの見慣れない男、何者なの?一緒にいる小さい女の子は大泣きしてるけど」


「あの女の子の言葉遣いからして、きっと遠く離れた村から連れて来られた子ね。もしかして人攫いか少女専門の奴隷商人かしら?」


「あんな小さい子を連れ回して弄ぶだけ弄んで、邪魔になったから置いていく気?なんて酷い男……」


 ギルドの窓口のお姉さん達は、何やらヒソヒソと話している。

 食堂のオバチャン達もだ。

 その目は明らかに「幼い少女への性犯罪者」を見る目だ。

 二階の宿泊所からも人が出てきていた。

 マズイ、この状況は非常にマズイ。

 俺はこれからもこのギルドにはお世話にならねばならないと言うのに、ここで周囲の顰蹙ひんしゅくを買うのは非常にマズイ。


「解った、解ったよ。オマエが納得するまで、俺も一緒にいるよ。だからもう泣くのはやめてくれ。頼む。みんなが見てるんだよ」


 レミアールは両腕に埋めた顔を少しだけ上げて、俺を横目で見た。


「ちゃんと我の世話をするか?」


「わかった、世話をするよ」


「我を敬い、崇め奉るか?」


「わかった、するする」


 レミアールは両腕で顔を隠しながら、俺にだけ解るようにニヤリと笑った。

 ペロッと小さく舌を出す。


 このクソガキャ~。


 だが俺にはここで打つ手はない。


「とりあえず今日の泊まる所を探そう。オマエも協力してくれ」


 俺がそう言うと、レミアールはまだえづく演技をしながら立ち上がった。



 俺は周囲の白眼視の中、再びカウンターに向かう。

 オバサンも今は俺を白い目で見ている。


「あの、このギルドに泊まる事も出来るって聞いたんですけど?」


「一人一泊、三十ディナ!」


 オバサンは鼻をフンと鳴らしながら言った。

 三十ディナ、日本円にして三千円くらいか。

 素泊まりとしては高くはないが、今の俺はそんな金はない。

 二人だと六十ディナだしな。


「それって、もう少し負けてもらうことは出来ませんか?」


「出来ないね。これはギルドの決まりだから」


 それだけ言うとオバサンは俺に背を向けて行ってしまった。


「はぁ」


 俺はタメ息をつきながら食堂を出た。

 後ろにはトボトボとレミアールが着いて来る。


「で、どうするのだ?」


「どうするって、コッチが聞きたいよ。オマエ、どっかタダで泊まらせてくれるような所、知らないか?」


「我だって知らん。ここは初めて来た村だしな」


「クソッ、まったく使えないな、コイツ」


「使えないのはオマエだ!それから我の世話をするのはオマエの仕事だ、忘れるなよ、さもないと……」


「わかぁ~った!わかってるよ!仕方ない、こうなったらどこか農家の軒先でも貸してもらって……」


「アンタ達、今夜泊まる所がないのか?」


 振り返ってみると、そこにいたのはさっき俺が硬貨を売ったオジサンだった。

 追加で日本円硬貨を買ってくれるのか?

 俺はちょっと期待したが、彼が提案したのは別の話だった。


「金が無いなら隣の教会に行ってみたらどうだ?いつも泊めてくれるとは限らんが、教会は時折哀れな旅人に一夜の宿を提供してくれる場合がある。とりあえず頼んでみたらどうだ?」


 俺に信仰心はまったく無いが、この際はどんな宗教でもありがたい。


「ハァ、ありがとうございます」


「それとアンタはハヤテさんと言うのか?アンタは色々と面白い物を持っていそうだ。どうしても金が必要となったら、ワシの店に来なさい。イイ物があれば買ってあげよう。ワシの名前はハンス・シュリストス。そこの通りでよろず屋をやっている」


その老人・よろず屋のハンスさんは、それだけ言うと自分の店の方に歩いていった。



この続きは今日夕方に公開予定です。

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