第29話 州都アーレン(前編)

(お詫び)

公開が遅れてすみません。

予約投稿分を勘違いしていました。

これからは毎日公開するようにしたいと思います。

(遅れたらごめんなさい)



 正午キッカリ。

 街の人が見守る中、俺は中央広場を出発した。

 三時間前の午前九時に、リック達の騎馬と騎竜が出発した場所だ。


 出発の瞬間を、俺はレミとミッシェルと一緒に見ていた。

 特に何かを仕掛けている様子はない。

 だがミッシェルは別の考えのようだ。


「ここで仕掛けるほどバカじゃないだろう。何か罠を張るとしたらアーレンから先だ。行き先はどこになるか、私たちには解らないのだからな」


 俺が出発する時も、ミッシェル、レミ、そしてカナンの三人は心配そうにしていた。

 だが勝負は既に始まっている。後は全力を尽くすしかない。


「せめて私が護衛に付いていければいいのだが……」


 ミッシェルは残念そうにそう言った。

 だがこの勝負は一人一騎とそう決まっていた。


「大丈夫だよ。州都に行き、偉い貴族の御用聞きに行くんだろ?そんな危険な場所のはずはないさ」


 俺は明るくそう答えた。

 レミは俺の右耳につけた通信用魔法具を確認した。


「ちゃんと聞えてるけ?」


「ああ大丈夫。聞えているよ」


「大きな街には必ず『魔術師協会』があるっち。その近くで話かけてくれればワタイに聞えるけ、忘れないで連絡するやん」


「解った。連絡するよ」


 そんな俺にカナンが声をかける。


「いざと言う時の携帯食は、このケースの中に入れておきますから。ドラゴンの油袋も一緒に入っています」


 CBRのタンデムシートには、荷物を運ぶためのキャリング・ケースを取り付けている。

 丈夫なツタと皮の上から植物性の樹脂を塗った丈夫なケースだ。


 なお今回はどこまで走らねばならないのか不明だ。

 それに備えてガス欠にならないように、燃料の『ドラゴンの油袋』を持って行く。

 火を吹くドラゴンは胸に油袋を持っている。

 このドラゴンの油がほぼガソリンと同じ成分なのだ。

 それを1本、約十リットルのガソリンを予備として持って行くのだ。

 これもカナンが準備しておいてくれた。


「ありがとう。世話をかけたな」


 俺が礼を言うと、カナンは恥ずかしそうにその場を離れた。

 周囲を見ていると街の連中が、俺の様子を見物しながら何やらワイワイ騒いでいる。

 彼らはやっぱり俺とリックの勝負で賭けをしていた。

 どうやら55対45で、俺が少し劣勢らしい。

 街の人としては、地元で長い間やってきたリックを応援したい気持ちもあるのだろう。


 ミッテンの強固な城壁の門を抜け、俺はアーレンに続く街道を走った。

 さすがに地方一の商業都市であるミッテンから州都アーレンに続く道だけあって、街道はよく整備されている。

 道も全て「小石と砂に石灰岩の粉を混ぜた舗装」がされているので、CBRでも十分に走る事ができる。


 問題はこの世界の馬と騎竜の性能だ。

 ミッシェルの話によると、この世界の馬は俺の世界の馬より少し足が早く、しかも長距離を走れるらしい。

 最高速度は約時速七十キロ、一日の走行距離は百キロを越えると聞いた。

 騎竜の方は最高速は時速百キロを越えるそうだが、耐久力はそこまではない。

 一日の走行距離は九十~百キロといった程度という話だ。


 ちなみに俺は三時間遅れでミッテンを出発したが、ミッシェルの話どおりにはその時間にはリック達の騎馬と騎竜はアーレンに到着している事になる。

 俺はアーレンへと続く道を快調に飛ばしていた。

 天気も良く、道の両側にはボプラのような木が植えられている。

 そして街道沿いは多くの果樹園が作られていた。

 通行人や荷馬車が多いのは邪魔だが、それも活気だと思えば腹も立たない。


 さすがに州都と近隣一の商業都市を結ぶ街道だ。

 今まで走ってきた「山賊やモンスターが出る山や森の中の道」とは訳が違う。

 レミ達も「夜でなければ危険はない」と言っていた。

 俺はツーリング気分で気持ち良くCBRを走らせて行った。


 アーレンにあるマルクスラバッハ辺境伯の屋敷に到着したのは、午後一時二十分だ。

 人や荷馬車が多かったため、思ったよりは時間がかかってしまった。

 応対に出たのは獣耳を持った獣人系の執事だった。


「特別輸送屋のハヤテ様ですね。お待ちしておりました」


 そう言うと彼は恭しく、一通の封書を俺に差し出した。


「リック様との勝負についてはお聞きしております。ハヤテ様にお渡しするのはこの封書です。これを南の海岸沿いにある保養地・サン・ビフィエルにある旦那様の別荘までお届け下さい。そこで旦那様のサインを頂き、この屋敷まで戻っていただきます。中身を私が確認して代金を支払いますので、それを持ってミッテンのハルステッド商会まで届けてください。それがゴールです」


 俺は封書を受け取ると、ジャンバーの内側に仕舞いこんだ。


「解っているとは思いますが、途中で封書を開けたり、または紛失したり汚損した場合は、任務失敗と見なされます。十分にご注意ください」


 執事は鋭い目付きで俺を睨む。

「主人の大切な封書を粗末に扱う事は絶対に許さない」と言った雰囲気だ。


 俺はうなずきながら、ポケットからこの国の地図を取り出した。

 次の目的地であるサン・ビフィエルは、ここアーレンからまっすぐ南に200キロほど行った所だ。

 海岸沿いの街でこの国の保養所・避暑地としては有名な町だそうだ。


「サン・ビフィエルに行く道は三通りあるんだな。ザルム山地を通って一直線に行く道。それを東に迂回する道。一度首都アルケポリスに出てからサン・ビフィエルに向かう道」


「そうです。ザルム山地を通る道は最短で120キロ。ですがザルム山地は有名なドラゴンの住処です。ここを通るのは危険極まりない。アルケポリスに出る道は最も安全で道路もいいですが、距離は200キロを越えてしまいます。一般的なのは東に迂回する街道です。道もそこそこ整備されている上、距離も150キロとそこまで遠くない。普通は東の迂回路を通りますね」


「リックの配下もその道を行ったのか?」


「はい、そうです。今から一時間ほど前に、ここを立たれました」


「わかった、色々とありがとう。それじゃあ帰りにまた来るんで、その時はよろしく」


 俺は簡単に挨拶をすると、マルクスラバッハ辺境伯の屋敷を後にした。


 晴れている街道を南に向かう。

 州都アーレンから出ている道は、どの道もよく整備されている。

 舗装もされていて快適だ。


 アーレンを出て十キロちょっと過ぎた当りだ。

 リックの配下の騎馬と騎竜が見えた。

 CBRの排気音でヤツラも気付いたらしく、コッチを振り返る。

 そして猛然とスピードを上げ始めた。

 さっきまでは普通に歩いていたのに。

 俺も軽くアクセルを捻る。

 スピードメーターは120キロを示した。

 すぐに二人に追いつく。


「お先に~」


 声を掛ける間だけヤツラと並走する。

 まぁちょっとした嫌味かな。


 馬も騎竜も確かに早かった。

 どちらも時速70キロは越えている。

 俺が引き離しにかかると、騎竜の方は速度を上げてきた。

 ほほぉ、言うだけあって頑張るじゃないか。

 俺は意地悪な気持ちになっていた。

 騎竜が追いつくか追いつかないかの速度でバイクを走らせる。

 騎竜は時速100キロを越えても喰らい付いてくる。

 なるほど、かなりのスピードだ。


 だがそこは生き物と機械。

 最初から勝負は目に見えてくる。

 五百メートルも行かない内に、騎竜も騎馬もスピードが落ちてきた。

 なるほど騎竜のトップスピードは時速110キロ、騎馬の方は時速75キロくらいか。

 俺は軽く左手を上げると、二騎を引き離していった。


この続きは、明日7:20頃公開予定です。

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