第36話 辺境の村シラバザーク
俺達は朝になるとすぐにシラバザーク村に向かった。
だが道はさらに悪路となり、一向にスピードが出ない。
さらに悪い事に、サイドカーが付いているいるため、一度ぬかるみでスタックすると中々脱出できないのだ。
そんなこんなで俺達がシラバザーク村に到着したのは、午後2時を過ぎている頃だった。
「ダメだ!部外者は村に入れない!」
村の門番は強硬に言い放った。
シラバザーク村は、村にしては今まで見たことがないほど立派な壁だった。
土台が石垣で上部は木製だが、高さだけでも五メートルはありそうだ。
所々に物見櫓まで建てられている。
俺はミッテンの市長の通行手形、そしてハルステッド商会の紹介状まで見せたが、門番を俺達を通そうとしなかった。
ハルステッド商会はこの村と魔石の取引があるにも関わらずだ。
最期はミッシェルが『貴族・ローゼンヌ家』の名前を出して、やっと中に入れて貰えたのだった。
それでも「日没までには退去するように!村には外部の人間を泊める事ができない!」と言われたのだ。
村の中にはほとんど人が出歩いていなかった。
子供が数人、遊んでいるのを見たくらいだ。
その子供達も俺達の姿を見ると逃げて行った。
村中の人が家の中で息を殺して、俺達を見ているような気がする。
村の外れまで来た。
俺達は西の門から入ったので、反対側の東門にたどり着いた事になる。
そしてこの先は岩山に続いてるらしい。
「国境の外れの岩山」に向かうにして、あまりに立派な門だった。
俺は二人を振り返った。
「何か分かる事はあったか?」
だがレミもミッシェルも難しい顔をしている。
「特には……ただこの先の岩山だと前に話した『雪男の花嫁』の所でも『魔の谷』にも行けるだろうな」
「それ以外にも、国境への抜け道もあるっち。それなら『風の魔神パアル』の生贄も考えられるやん」
「だがいずれにしても決定的な証拠はない……」
「お姉さんとお兄さん、何を探しているの?」
不意に背後から声が掛かった。
慌てて後ろを振り返る。
そこには一人の少年がいた。
顔に何か所か擦り傷とアザがあった。
ケンカでもしたのだろうか?
「いや、別に何かを探している訳じゃないよ」
そう俺は誤魔化そうとしたが、すぐにミッシェルがそれを否定する発言をした。
「坊や。この村に最近、誰かが来なかったか?銀色の髪の女の子だ」
「それってリシア姉ちゃんの事?」
俺達は息を飲んだ。
「リシアは、この村に来たんだな?今どこにいるんだ?」
そう聞いたミッシェルに少年は小さな声で言った。
「声が大きいよ」
俺達が一瞬黙ると、少年は俺達の顔を一通り見渡した。
「僕からは何も話せない。僕もこの村の一員だから。でもリシア姉ちゃんを助けて欲しい。それだけだ」
「おい、リシアはどこにいるんだ?いま彼女はどうしている?」
俺も押し殺した声でそう聴いた。
「この村にはいないよ。昨夜の内に魔の谷の入り口の小屋に移された。早く助けないとリシア姉ちゃんは『魔の谷の花嫁』にされてしまう。だから……」
「待て、『魔の谷の花嫁』とは何だ?いったいどういう事なんだ?」
「それは知らない。でも『魔の谷の花嫁』になって戻ってきた人はいないんだ。そして四年に一度、魔の谷に花嫁を差し出さないと、この村は滅ぶって言われているんだ」
「その魔の谷には、どうやって行けるんだ?」
そこまで話した時、少年は村の方に目をやった。
「ダメだ。村の人が僕に気付いた。もう行かないと!『魔の谷』には、この東門を見張っていて!今夜、必ず村人の誰かが行くはずだから」
少年はそう早口で告げると、俺達から逃げるように去って行った。
俺達はその後、村を出た。
少年の話以外は収穫を得る事は出来なかった。
俺達はバイクでいったん村から遠ざかり、村から気づかれないように大きく迂回して岩山に入り、離れた場所から村の東門を見張った。
山に入る前にサイドカーは外しておく。
夜八時を回った頃だろうか。
村の東門から松明を持った十人ほどの人間が出てくるのが見えた。
羊を二頭ほど連れている。
男達は岩山の中の道を進んでいった。
俺達はそれを別ルートで監視できる道を進んでいく。
草木のない岩山だから可能だ。
一時間ほど進んだだろうか。
上りの山道で急に視界が開ける場所が見えた。
周囲は険しい岩山に囲まれている楕円形の窪地だ。
短い半径が200メートル、長い方の半径が500メートルくらいだろうか。
底部は小さな砂漠のように砂が敷き詰められていた。
俺達は尾根の上から、楕円形の谷間の全貌が見える所に位置した。
ここからなら斜面を斜めに突っ切れば最短距離で谷に行けるだろう。
「あれが『魔の谷』か」俺がそう言うと
「谷って言うより、周囲を崖に囲まれた小さな砂地って感じだっち」とレミが呟く。
「そうだな。だがこの場所に追い込まれたら逃げ場は無さそうだ」とミッシェルはいかにも軍人らしい発言をする。
「あそこに小屋があるっち!」
レミが指を差した。
彼女の言う通り、谷の入り口に木造の小さな小屋が見えた。
白木の丁寧な造りの小屋だ。
そして真新しい。
まだ建ててから一か月と経っていないだろう。
「あの小屋にリシアはいるのか」
すると男達は小屋の前で二頭の羊をと殺し始めた。
そして流れる血を容器に受け、それを砂地に撒いていく。
次に殺した羊を小屋の前から谷の中央に向かって引きずっていく。
中央より入り口寄りに羊の死骸を置いたかと思うと、男達は一目散に入り口に向かって戻ってきた。
小屋の前にいた他の男達も、一斉に山道を戻っていく。
「いったい何が起こるんだ?」
俺がそう言った時だ。
低い地響きのような音が聞こえた。
最初はごく小さな音だったが、それが段々と大きくなる。
やがて俺達がいる尾根の方まで地面に微かな振動を感じる。
「あれを見ろ!」
ミッシェルが叫んだ。
見ると谷間の中央から、砂が泉にように吹き上がっている。
「なんだ、何が起こるんだ?」
俺がそう言っている間にも、砂地がまるで水のようにうねっている。
その中央は沸騰でもしているかのように、砂がボコボコと湧き上がっていた。
そして……その中から先が尖った触手が無数に生えてきたのだ。
「イワギンチャクや!」
レミが叫んだ。
「イワギンチャク?」
俺が聞き返した。
「そうだっち。あれは魔法属性を持つ砂漠に住む肉食生物だっち。ああやって砂の中に隠れているか、岩に擬態して、獲物が通りかかるのを待っていて捕食するんだやん。砂漠を旅する人間にとっては最も注意しなければならない生き物の一つだっち」
レミがそう叫びながら説明する。
「だけど、あんな大きなイワギンチャクは見た事も聞いた事もない……」
そう呆然とミッシェルが言った。
イワギンチャクの触手が何かを探るように蠢きだす。
そしてそれは羊の死体を見つけた。
「マズイぞ!イワギンチャクは羊を食い終わったら、血の跡を辿ってあの小屋を襲うだろう。今の内に助けないと!」
この続きは明日7:20頃に投稿予定です。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます