第22話 強行突破!(前編)
「向こうから誰か来るぞ!」
一斉に振り向いた俺達は、雨の中で前方に目を凝らす。
確かに何かが蠢いているのが見える。
「おい、全員すぐに馬車に戻れるようにしておけ」
リックがそう指示を出した。
これが魔王軍なら、荷馬車の護衛隊程度ではひとたまりもない。
……魔王軍か……
俺は魔王軍をこの目で見た事はないが、どんな怪物の集まりなんだろう?
俺のCBRで逃げ切れる相手だろうか?
だがここにいる荷馬車隊を見捨てて、俺だけ逃げる訳にもいかない。
……どうすれば……
そう思った時、前方の蠢くものの中でキラッと光って目に入ったものがあった。
『Y字型の上に丸がついた紋章』だ。
「プライス王国の紋章だ!騎士団だ!」
周囲からホッとした安堵の声が漏れる。
俺も思わず肩の力が抜けた。
だが騎士団の様子がハッキリするにつれ、俺達は再び不安に捕われて行った。
騎士団はボロボロだったのだ。
軍旗は千切れ、兵士達の鎧は傷だらけでよろめくように歩いている。
中には武器さえ持っていない者もいた。負傷者も多数見られる。
明らかに敗走してきた後だ。
騎士団は俺達の前に来ると、先頭の男が口を開いた。
「補給部隊か?頼む、俺達を馬車に乗せてくれないか」
その男自身も顔に傷を負っており、右目を包帯で覆っている。
「そりゃ構いませんが、俺達が運んできた荷物はどうするんで?騎士団のための武器や食料なんかですよ」
「そんなもの、今さら必要な訳ないだろ!」
騎士団の男は叫んだ。
「見れば解るだろ?俺達はもう戦える力は残ってないんだ!兵士だって半数がやられてしまった。残った半数だって負傷者だ。今頃になって武器や食料が届いたって遅すぎるんだよ!」
「ですが兵士を乗せるためには荷物は降ろさなければならない。ここで物資を放棄したら、それは魔王軍に奪われる事になりやせんか?」
「知った事か!」
リックの問いに、騎士団の男は吐き捨てるように言った。
「わかりやした。運んだ荷物を捨てようがどうしようが、それはソッチの勝手ですからね。ですが『騎士団が荷物を受け取った』という書類にはサインを貰いますぜ。俺達は危険を冒してここまでやって来たんだ。『仕事をやり遂げた』事はキッチリさせてもらいましょう」
騎士団の男はリックと共に後方の荷馬車へ向かった。
後からも続々と騎士団の兵士がやって来た。
多くの人間が傷ついている。
無事な者も負傷兵を支えるのに手が一杯だ。
俺は近くでヘタり込んでいた兵士の一団に声を掛けた。
「この中で白百合騎士団はどこに居るんだ?」
「白百合騎士団だって?」
男は疲れたように俺を見上げた。
「アイツラならココにはいないよ。白百合騎士団は敵の追撃を食い止める役だからな」
「ヤツラは
「あの団長の下で付き合わされた連中は悲劇だよな」
「今頃は全滅してるんじゃねぇか?」
……コイツラ、一緒に戦って来た仲間じゃないのか……
俺はこの連中に無性に腹が立った。
だがここで動こうとしない連中をを相手に、言い争っても仕方が無い。
白百合騎士団は補給もままならないと聞いた。
だったら俺のバイクに積んである分だけでも届けてやろう。
俺は近いにいた年配の御者・ハントに声を掛けた。
「まだ戦場に白百合騎士団はいるそうだ。彼らが殿で敵を食い止めているらしい。俺は自分のバイクに積んである分だけでも、彼らに届けようと思う。今から出発するから、それをリックに伝えておいてくれ」
それを聞くとハンクは強く頷き、自分が肩にかけていたカバンを俺に掛けた。
「これを持って行ってください。この中には回復薬や傷薬、そしてステータス異常を回復する薬が入っています。必ず役に立つでしょう」
「ありがとう。助かるよ。それからリックには、俺の戻りは気にしなくていいと伝えて欲しい。危ないと思ったらすぐに撤退してくれと」
どうせリックじゃ俺の事なんか気にも留めないと思うが、後で「オマエを待っていたせいで被害が出た」と言われるのも厄介だ。
「わかりました。ハヤテさんも気をつけて」
俺は片手を上げるとCBRに跨り、この先のバルアック高原を目指した。
雨の降り方はどんどん強くなっている。
もはや豪雨と言ってもいいレベルだ。
道がぬかるんでくるため、バイクがスリップし易い。
荷物の重さもあり走りにくい事この上ない。
そもそも国境近くのため、道路自体が整備されていないようだ。
そんな中、大木の陰に隠れるようにして一塊になっている一団がいた。
十人ほどの兵士達だ。
一人が持っていた盾に『プライス王国』の紋章が見えた。
俺は彼らの横にバイクを止めた。
「おい、アンタラは白百合騎士団のメンバーか?」
みんながグッタリとしている中、一人が辛うじて頭を上げた。
「あ、ああ」
「他の連中はどうした?」
「わからない。俺達はみんなが逃げる時間を稼ぐため、何とか最後尾で踏ん張っていたんだが。最後に敵の猛攻撃を受けて分断されてしまって……」
「何人生き残っているか、解らない状況なんだ」
他の男が下を向いたまま答えた。
「ここの団長はどうしたんだ?」
俺は気になっている事を尋ねた。
だが誰も返事をしない。
「おいっ!」
すると誰かがボソッと答えた。
「団長は……連れて行かれたよ……」
「おそらく、魔王軍に……」
俺は絶句した。
そもそもこの騎士団を救う事が、俺の目的だったはずなのに。
「今頃、団長も副団長もみんな……」
「殺されたのか?」
俺は力なく言うと、他の男がそれを否定した。
「いや、ヤツラは残忍だと聞く。捕虜はすぐには殺さないかと。拷問にかけて情報を全て引き出した上、手足を切り落として見世物にするとか、武器なしでドラゴンと戦わせるとか、残忍な方法で処刑されるらしい」
俺はそれを聞いて、一筋の希望が見えた気がした。
「それじゃあ、まだ団長は生きているって事だな?」
「おそらく……おい、アンタ、何をする気だ?」
荷物を降ろし始めた俺を見て、男は尋ねた。
「俺は団長を助けに行く。それが元々の依頼だからな」
「本気か?殺されるぞ!」
「さすがにそこまで命を張る気はない。だが最後尾のアンタラが敗退しているのに敵の追撃が無いと言う事は、今夜は敵も夜営しているって言う事だろ?油断しているはずだ。そこで団長を助けるために偵察をしてくる。可能ならは彼を助け出す」
俺はそう言いながら、ここまで持って来た荷物を積み降ろした。
「ここに矢と剣がある。回復薬もだ。みんなで使ってくれ」
その中から二本の剣を二十本入りの矢筒だけ取り出して、背中にくくりつける。
ボウガンも一丁手に取り、バイクのサドルバッグに突っ込んだ。
「これだけは貰っていくよ。俺も武器なしじゃ心細いからな」
兵士達は俺を見上げた。
一人が信じられないと言った様子で尋ねる。
「あんた、何者なんだ?」
「俺はただの運び屋だ。ただし街道最速の運び屋だ。イザとなったら魔王軍だって俺には追いつけないさ」
俺は少しハッタリを交えて答えた。半分は自分を奮い立たせるためだ。
そう、俺は異世界でも街道最速の男だ!
この続きは、明日夜8時過ぎ公開予定です。
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