第34話 ノッカーの意外な好み
「右に行きゃ鉄が出る広い場所に行き当たる。んで、左は結構歩くが銅の産出場所に行ける」
ナナの言葉を聞いてミリアは索敵の範囲を出来る限り広くしてみた。
右には幾つかの空間があり、左は分かれ道は分かるがその先が見えない。
鉱石の存在はミリアには分からないが、壁面の中には硬さの違う石があちこちにあるように思えた。
生き物の気配もノッカーらしい気配もしない。
「下に降りるのはどっち?」
「左だ、途中で分かれ道がある」
「なら取り敢えず左の分かれ道まで行ってみましょう」
足元に用心しながら緩い坂道を下っていった。下に降りれば降りるほど空気は冷たく淀み圧迫感が押し寄せて来る。
次の分かれ道で立ち止まった時ふと何かの気配を感じた気がした。
ミリアが意識を集中していると、残念な事に気配が遠ざかってしまった。
(ノッカーかな? でも、岩の中じゃなくて宙に浮いてた気がする)
下に降りる道を選び一行は黙々と歩いて小さな広場に辿り着いた。
「ガンツ、ここは何?」
「休憩場所だな。この後結構深く潜るからよ、飯を食ったり荷物を整理したり」
「ふうん、それで壁にフックがいくつも取り付けてあるのね」
「ああ、休憩中にランプを蹴っ飛ばす奴が結構いるからよお。魔導ランプは高価だってのに」
「ふうん、ねえ私達もちょっと休憩しない? 初めて入った坑道で疲れちゃった」
「しょうがねえなぁ、まあ初めての奴には結構キツいかもな」
ミリアは早速お茶のセットを出してマックスにお湯を頼み、座り込んでお菓子や果物を出していく。
「ガンツ、この山で出ない鉱石ってあるの?」
「大概出るな。宝石もちらほら出ていい値で売れるし、まあヒヒイロカネは出ねえがな」
「ヒヒイロカネねえ、ガンツは見たことあるの?」
ナナとグレンにお菓子を勧めた。今日のメインはアイスを乗せて蜂蜜をかけた
「ねえに決まってんだろ。武器でも見た事ねえよ」
マックスが入れてくれたお茶を受け取り一口飲んだ。最近マックスはお茶を入れる腕前が上がった気がする。
「私持ってるよ」
「「「「はあ?」」」」
「兄さんに幾つか貰ったの。将来武器が必要になったら使えって」
《嘘だね、そんな事あり得ない》
ミリアの背後で声がしてガンツ以外の四人が固まった。
「誰か知らないけど酷くない? 私は嘘なんてつかないもん」
《兄さんって奴に騙されてる! ヒヒイロカネはあの国からは出しちゃいけないって決まってるんだ》
「何事にも例外はあるものよ。ガンツ、これがそのヒヒイロカネ」
ミリアがアイテムバックから取り出した鉱石をガンツに渡すと、全員が目の色を変えて鉱石を見つめヒュッと息を吸い込んだ。
「凄え、これがヒヒイロカネ・・」
《騙されてる! 絶対に嘘だ》
「見に来てみたら? 兄さんは嘘をつかないから」
どこからともなくミリアと同じくらいの背丈の男の子が現れた。
肩の辺りまである濃い茶色の髪は少し汚れ薄いブルーの目をしている。シャツとズボンに編み上げ靴を履いている姿は坑夫とよく似ている。
ガンツが掌に乗せた鉱石をノッカーに差し出すと、仔犬を気にしながら恐る恐る近づいて来たノッカーが鉱石を覗き込んだ。
《本当だ、ヒヒイロカネ。これ頂戴、僕のコレクションに丁度良い》
「うーん、ノッカーにはドワーフが長い間助けて貰ってるって聞いてるしなぁ。
でももう手に入んないかもしれないし・・。
ガンツから借りた杖がすごく使いやすかったから、杖を作るのも良いかなって思ったり」
《ねえ、10分の1でいいんだ。貰うのはそれって決まってる》
ノッカーはミリアの側に来てしゃがみ込んだ。
「でもこれはここで採掘したわけじゃないしなぁ。
そうだ、情報料にしない?」
《情報料?》
キョトンと首を傾げるさまは小さな子供にしか見えない。
「うん、ここで何故喧嘩が起きたのか知りたいの」
《あれは・・意地悪されるから言えないよ》
悲しそうな顔をしながらもヒヒイロカネをチラチラと見ている。
ガンツはノッカーを無視して鉱石を光に透かしたり叩いてみたりと研究に余念がない。
「やっぱりボギーなのね」
《なんだ、知ってたんだ。狡いよ》
「もしかしたらって思ってただけ。さっきもいたでしょう? ほら、分かれ道の先に」
《あいつはしょっちゅう出入りしてる。気を付けないと僕のコレクションを持ってっちゃうんだ》
いくつか鉱石を持っていかれたのだろう。ノッカーはしゃがみ込んだまま溜息をついた。
「足を踏んだのはボギーね。ここには今私達しかいないから大丈夫」
《そうだよ。で、喧嘩がはじまったんだ。喧嘩とか大っ嫌い》
「私もよ、特にここは声が響くでしょうしね」
《そのせいでここはつまんない場所になっちゃったんだ》
「ありがとう。待っててくれて」
《ここのドワーフは優しいから好きなんだ。時々沢山分け前をくれるし、僕の席をちゃんと空けておいてくれる。
そこの男はダメダメだけどね》
ノッカーが突然グレンを指さした。
「へ? 俺?」
ヒヒイロカネとノッカーを交互に見ていたグレンが素っ頓狂な声を出した。
《しょっちゅう物を落としたりコケたり。煩くてしょうがない》
「あっ、すんません」
心当たりがあるグレンはぺこぺこと頭を下げた。
《そこの女の子はいつも甘い匂いがして好き。あれは何の匂い?》
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