第37話 フェンリルVSミリア

「騎士団がかなり厳重な捜索を行なってるから王都に帰る時は気を付けて。

あと、ウォーカー達は幾つかの国に分かれて移動した。

そのお陰で少しは減ったけど、まだかなりの数がいる」


「ありがとう、気を付けて帰りますね。フェンリルもありがとうございました。今日は助かりました」


『・・』


 返事のないフェンリルに少し寂しい思いをしながらミリアはナナの家に帰った。


(なんか怒らせちゃったのかな?)



「ただいま」


「おう、おかえり。遅かったじゃねえか」


「えっ?」


 エプロン姿のナナの横には、口の周りをミルクだらけにしたフェンリルが尻尾を振っていた。


「フェンリル、どうして?」


『我は我の思うままよ、驚いたであろう?』


 自慢げな顔をしている(ような気がする)フェンリルだった。




 鉱山の採掘は順調でノッカーとの関係も以前と同じ。

 休憩した後にジャムを置いておくといつの間にか無くなっており、次に行った時は空の壺が置いてあるそう。




 ミリア達三人と一匹はハーミットへ向けて出発することになったが、玄関には大きなリュックを背負ったナナが立ち塞がっている。


「俺を置いていこうなんざ十年早いぜ」


「もう二十年以上経ったがな」


「煩え、ガンツは黙ってろ! 俺は弟子見習いを鍛える為についてってやるんだからな」


「えっ? 俺」


「・・マックス、お前後で説教な」




 急遽増えたナナを先頭に一行は黙々と山を登って行った。


「おー、あの岩懐かしいっすねぇ。あの衝撃で元のままとか凄いっすねえ」


「何? 守り石がどうした?」



 行きにも利用した山小屋で夕食を食べながら、マックスはヘルやフリームスルスの話をナナに話した。


「里に着いた時それを話せば、みんなミイのことすぐに信じたんじゃねえか?」


「馬鹿言え、誰が信じるかよ。益々胡散臭がられるだけだ」


「・・そうかもな。なら、これからは里は天気に悩まされずに済むんだな。

そいつは朗報だぜ」





 山を越えて神殿に辿り着いた。マックスの希望で『遠見の部屋』を覗いてみることにした。


「凄え、ほんとに見えるんすね」


 バコンとガンツに殴られて頭を抱えしゃがみ込んだマックス。


「声がでけえんだよ」



 山を降りてはじめての野営。


「少し時間が早いけどこの辺りで野営しない?」


 ミリアとナナは目配せして頷きあった。


「フェンリル、ちょっといいかなぁ」


 周りを見回しながら呑気に尻尾をフリフリしていたフェンリルは、危険を察知したのか少しずつ後退りをはじめた。

 ミリアもジリジリと距離を詰めていく。


「ずっと山の中を歩いたでしょう? そろそろ体を綺麗にした方が良いと思うんだけど」



『・・我に構うな』


「そうはいかないわ、だって凄く・・臭いの」


『我は・・池を探してくる』


「ダメダメ、石鹸もあるしスッキリ綺麗にさせて欲しいの」


『我に勝てたらな』


「分かった、どちらかが降参するまでね」



 フェンリルは前傾姿勢で唸り声を上げた。ミリアが【ウォーターボール】を連打するとフェンリルは高くジャンプして回避。

 そこを目掛けて【ウォーターボール】・・。


 二人の戦いは続きフェンリルは次第にびしょ濡れになってきた。


 飛ぶ【ウォーターボール】躱す【ウォーターボール】・・・・。



「魔法ってあんなにずっと使い続けられるんだ。羨ましいぜ、俺もやってみてえ」


「馬鹿、ありゃミイが別格なんだよ。普通ならとっくに魔力切れで座り込んでらぁ」


「でも、すっごく楽しそうっすね」



『そろそろ良いであろう、気が済んだか?』


「降参?」


 その後ミリアが作った浴槽もどきでしっかりと耳の裏まで洗ったフェンリルを風魔法で乾かした時、こっそりさわさわ・・。


(これが噂のもふもふ・・ああ、しあわせ)



 ミリアはこっそりと幸せを噛み締めたが、拗ねたフェンリルはしばらくの間側に寄ってこなくなった。



「なあ、野営の飯って干し肉「黙って食え、文句があったら食うな。お前の考えは合ってる、今が普通じゃないだけだ」」


 ガンツに言葉を遮られたナナは、

「だよな、ミイがいなきゃこんなに持って移動なんか出来ねえもんな」

と、呟き続けていた。


 今日のメニューは温かいパンにハムと野菜を挟んだ物・チーズを乗せて焼いたお肉・サラダ・スープ。

 ミリアは今リンゴを剥いている。


「おやっさんも行きはぼやいてたっす。男の浪漫とか」


「なんか凄えわかる。でも美味いから良いよな、うん」



 今夜一晩野宿すれば明日は宿屋に泊まれるという日、ナナが恐る恐る聞いてきた。


「ミイちゃんってほんとの名前はミリア? デーウとの戦いの後マックスがミリアって叫んだ。ガンツも聞こえてたんだろ?」


「ナナ、やめとけ。詮索すんじゃねえ」




 この後ハーミットに戻ったら、ミリアを探している騎士団の話がガンツ達の耳に入るだろう。

 その時変に詮索して回れば危険になる可能性がある、そう判断したミリアは少しだけ話をする事にした。


 今回は家出娘の捜索とは訳が違いそうだが、ナナは首を突っ込んできそうな危うさがある。



「隣の国ローデリアから、悪い奴から逃げてきたって感じかな?

ハーミットに着いたらミリアって名前を聞くことがあるかもしれないけど、誰にも言わないで欲しいの」


「何があったんだ? 俺に出来る事はないのかよ」


「ナナさんありがとう。敵はローデリア王家だから関わらない方がいいわ。

・・私はちょっと珍しい薬を作れるんだけど、それを狙ってる奴がいて。

ペリの話ではハーミットが随分と物騒になってるらしいから気を付けてね」



「ウォーカーは何をしてるんだ? ミリアが困ってるのに助けに来ねえのかよ」


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