✖✖の薬を作ったら牢に入れられました。

ハーミット王国、ガンツの本領発揮

第38話 ミリアに足りないもの

「兄さん達は奴らに見張られてる。ディエチミーラは活動休止してても目立つし。

助けてくれるって言ったんだけど、自分で解決したいからって断ったの。

これは私の戦いだから」

「ディエチミーラってＳランクの？　ウォーカーって言やぁリーダーじゃねえか。

お前、ほんとのランクはなんだ？」

「Ａランク。でも寄生してランクを上げたようなものだから、Ｃランクの今の方が正しいと思う」

「「「正しくねえよ！」」」

「ＡどころかＳでもいける、間違いねえ」

「ガンツ、ありがとう。目標は奴らをやっつけて実力でＳランクになってディエチミーラに参加する事だから」

「ミイに一番足りねえもんは《自信》だな」

『ミリア、この先に武装した騎士団が巡回しておる』

　ミリアは顔を青褪めさせて立ち止まった。

『捕縛狙いで、八人が全員騎乗しておる。人間にしては戦える方じゃ、統率もとれておるし』

「どうした？」

　ガンツが斧に手をかけて周りを窺いながら聞いてきた。

「この先の村に騎士団がいるってフェンリルが」

「ミイを探してる奴か？　でも、隣の国なんだろ？」

「ハーミットはローデリアと交隣国だから手を結んでるっぽいの。

ローデリアがどこまで情報を開示したか、どんな風に話したのか分からない。

ここで別れましょう、犯罪者として探してるならみんなまで捕まってしまう」

「俺はミイを見捨てたりしねえ」

　ナナが赤い顔で拳を振り上げた。

「一人にならねえ方がいい。一人だと怪しまれる」

「私は依頼をこなしただけ。みんなを巻き込むわけにはいかないわ」

「俺は一緒にいる。ミリアを守りたいんだ」

「はーい、なんで呼んでくんないのかな？　ミイ、ちょっと酷くない？」

　突然現れたドリアードにガンツ達が唖然としている。

「精霊？　喋ってるし、超可愛い」

　可愛い物好きのナナの目がハートになっている。

「そう！　とっても可愛いドリアードのディーだよ。ぜんっぜん呼んでくんないから勝手に出てきちゃった。てへ」

　ふわふわクルクルとミリアの周りを飛び回りながら手に持った小さな木の枝を振り回している。

「これ、ミイの真似だよ。ふふ」

「ごめんね、ディーの事忘れてたわけじゃないんだけど」

「コンフェッティで許したげる。で、ここはディーの出番でしょ？　どこまで飛ぶ？」

「そうか、転移魔法ね」

「うん、ディーは一度に一人しか運べないからミイだけだよ」

「ちびっこいの、ミイを頼むぜ。安全なとこに飛ばしてやれ」

「ディー、ミリアをと「おじさんとナナにはディーって呼ぶ許可をあげます！　あんたはダメ」」

　左手を腰に当て木の枝をマックスに向けたディーはキッパリと言い放った。

「えっ、何で？」

「あんたの中には邪な想いがあるから。そう言うのは却下なのー」

　秘めた想いを暴露され衝撃を受けているマックスに気付かないミリア。

「ごめんなさい、先に行かせてもらいます」

　ガンツに借りた杖を返そうとすると、

「ああ、気を付けてな。街ん中はもっと酷えんだろ？　杖は工房に持ってこい、急ぐこたぁねえからな」

「はい、気をつけます。フェンリルはどうする？」

『我は勝手に転移する。ドリアードの転移の後に続く』

「フェンリルはミイが転移したとこに来れるから大丈夫だよ。じゃあはじめるよー」

　ディーがクルクルと回りながら枝を振る。キラキラと光がミリアの周りに降り注ぎ、ミリアの姿が薄れていった。

　ミリアがギルマスの部屋に転移すると、ソファにだらしなく寝転んで昼寝をしていたギルマスが転げ落ちた。

　すぐ後からフェンリルが仔犬の姿のまま転移してきた。

「ちっちびすけ、てめえどこから来やがった。あー、吃驚したー」

　床に座り込んだまま頭をガシガシ掻いているギルマスは、大きな口を開けて欠伸を一つ。

「ありがとう、ディー助かった。

ギルマスただいま帰りました、ガンツさん達はもう少し時間がかかります。

これ、達成依頼書です」

　ミリアはテーブルの上に依頼書を置いた。

「ディーの転移魔法か。人のプライバシーを無視した大胆な帰り方だな」

「おっさん、ディーって言っちゃダメって言ったのにー。もう忘れた？」

「ちびすけ、なんかちっこいのがまた増えてるぞ」

　フェンリルは部屋のあちこちをクンクンと嗅ぎ回っていたが、トコトコとギルマスの所までやって来て下からじっと見上げている。

「彼は友達です。名前はないです」

「あー、うん友達ね。

ちびの友達なら聞かねえ方がいいな。うん、超絶やな予感がするしよ。

それよりお前何やらかしたんだ？

騎士団がミリアって女を捕獲しようとして目の色変えてるぜ」

　ギルマスがフェンリルの頭を撫でようとすると、フェンリルは後ろに飛びすさり『グルル』と唸り声を上げた。

「仔犬はな、普通グルグル言わねえ。覚えておいた方がいいぜ」

　フェンリルはソファの上に飛び乗り丸くなって昼寝をはじめた。

「そこ、俺のお気に入りの場所だぞ。寝るなら別のとこ使えよ」

「グルグル」

「はあ、すんませんでした。こいつ想像よりもっとヤバいな」

「探してるのは家出した貴族の娘でしょう？」

「いや、今度のは犯罪を犯した元貴族の娘で、かなり高額の賞金首だ」

（ローデリアは形振（なりふ）り構わなくなった？

それとも私が何も言わず捕まるほど間抜けだって高を括ってる？）

　ミリアは身体が芯から冷たくなり、怒りが全身を駆け巡っていく。

　穏やかだったミリアの顔が無表情になった。

「どんな犯罪で？」