第40話 気の合う二人

「狙いはダンジョンの攻略。ラスボスはドラゴン」



 ギルマスが首を傾げた。


「ダンジョンはまだ最下層に行った奴はいねえ。ラスボスが何かは分かってねえぞ」


「教えてもらったの、知り合いに」




「・・聞くか? いや、でもなぁ・・ちびの知り合いだろ、ヤバくね?」


 ギルマスが腕を組んで小声でぶつぶつ言っている。



「彼女の言う事だから間違いはないわ」



 彼女と言う言葉に引っかかったギルマスがチラッとディーを見たが、ディーはブンブンと首を横に振った。




「ディーはついてくー。そこの仔犬も一緒だよ。人間じゃないならいーでしょ?」


「ああ、テイマーとか精霊使いってのもいるからな。それは問題ない」



「ドラゴン討伐が出来たらディエチミーラとアッシュフォールのギルマスに推薦を貰う。ギルマスにもお願いできれば規定の《三人の推薦》が確保できるからSランク登録をするつもり。

それと同時に皇帝に謁見の願いを出せば叶うはず」



「ドラゴンの単独討伐証明・ダンジョン攻略の結果を持って三人の推薦があれば間違いねえな。

まずは・・攻略の準備だな。

ちびは外に出るな、外は騎士団がウヨウヨしてて女と見りゃ片っ端から引っ捕まえてやがる」



「でも食料とか薬草、武器の準備とかしたいので」



「ソフィアに手伝わせるか。覚えてるか?


  『虹色でピカでパリンです』


のソフィアだ。仮面を被ったあいつなら上手く騎士団を誤魔化してくれる。

準備はあいつに頼んで、ディーの転送でダンジョンの入り口まで行きゃ何とかなるだろ」



「ガンツさんの帰りを待って武器を作って貰いたいと思ってるんで時間がかかるかも」


「なら丁度いい。少しずつ準備すりゃあバレにくいからな。

その間はギルドの客間に籠っとけ」



「ありがとうございます。助かります」



「ドラゴンって具体的に何がいるんだ?」


「四十九階ヒュドラ、五十階ラドゥーン」



 ヒュドラーは巨大な胴体と九つの首を持ち、鋭い鉤爪を持った四本の手足と翼を持った竜。血には猛毒が含まれている。


 ラドゥーンはヒュドラの弟で不死の百頭竜とも呼ばれている。

 体は茶色く黄金の林檎を眠らずに守る百の頭を持ち、炎を操るドラゴン。



「そいつに単独で挑む、無謀というか馬鹿というか。まあ、ちびだからな。

さて、ソフィアを呼んでくるか」



 ギルマスが部屋を出て階段の上から怒鳴った。


「ソフィア、ちょい上がってきてくれや」




 下でバーンという大きな音がしたかと思うと、ドカドカと音を立てて階段を登って来る足音が聞こえた。

 ギルマスは椅子に座りしれっとした顔をしている。



 ソフィアが開いたままのドアをバシンと叩きつけて閉め怒鳴った。


「ギルマス、いつも言ってますが上から怒鳴るのはやめていた・・ミイちゃん、無事だったのね!」


 話の途中でソフィアがミリアに抱きついた。


「きゃあ」


 ソフィアの勢いで吹っ飛ばされたディーがふよふよと浮きながらムッとしてソフィアを睨んだ。


「おばさん、危ないじゃない! ディー潰れるとこだった」



 ミリアに抱きついたままソフィアがディーを睨み返した。


「おばさんじゃありません、ソフィアさんかお姉さんと呼びなさい!」




 二人の攻防を静観していたギルマスが首を傾げてソフィアに話しかけた。


「なあ、こんなちっこいのがふわふわ浮いてんのに吃驚しねえの?」



「あら、そう言えば。

こんにちは、私は悪辣非道で鬼畜な上司の元で受付嬢をしているソフィアと申します」


「こんにちは、私はミイの一番の友達でドリアードのディーよ。

おっさんにはディーって呼ばせてないの」


「何だか気が合いそうね。どうぞ宜しく」




「何かすげぇヤダ。コイツら妙なとこで仲間意識持ってないか?」


「ギルマス、何か御用でしょうか?」


 ソフィアはミリアに抱きついたまま聞いてきた。ディーはミリアの隣に戻って来て食べかけのコンフェッティに齧り付いた。



「ちびを暫くの間ここに泊まらせるんだが、色々準備が必要で「ミイちゃんのお世話ならお任せください。騎士団に見つからず準備しますから」」


「少し長くなるかもしれませんが宜しくお願いします」


「じゃあ早速客室に行きます? ここよりかなり綺麗だしね」



 ミリア達一行はソフィアの先導で部屋を移動する事になった。

 ミリアはギルマスにペコリと頭を下げ、フェンリルは可哀想な者を見る目でギルマスをチラ見して出て行った。



「さて、俺の仕事はガンツを安全に連れて来ることか」





 ギルドの客室はギルマスの部屋を出て左の突き当たりにあった。


 部屋の左側には赤茶色のマホガニーのテーブルセットが置かれ、繊細な刺繍の施されたテーブルクロスがかけられている。

 豪奢なタペストリーのかかった壁には、焦茶色のオーク材で出来た本棚や飾り棚、暖炉まで設置されていた。


 バルコニーと繋がっている大きめの窓には薄い萌黄色のカーテンがかけられ、バルコニーには白いガーデンテーブルとガーデンチェア。


 奥の部屋にはダブルベッドとシングルベッドが一つずつ。

 サイドテーブルと小ぶりなライティングデスク、作り付けのクローゼット。

 勿論バス・トイレ付きでタオルなども全て揃っていた。



 ソフィアが部屋の中を案内してくれたが、ミリアはあまりの豪華さに腰が引けてしまった。


「ここって賓客をもてなす部屋なんじゃないですか?」


「滅多に使わないんだから気にしないで使ってね。

ギルマスはああ見えて結構優秀だから本部からちょくちょく役員とかが来るんだけど、あの性格だからここを使う前に酔っ払ってギルマスの部屋でみんなで雑魚寝とかしてるのよ。

毎日掃除してるのに勿体無くて」



 ディーとフェンリルは探検が終わったようでミリアの元に戻って来た。


「さて、何をしたらいいのか教えてくれるかしら」


「買って来て欲しいものはリストにしてお渡しします。

それと、誰にも知られずに訓練場を使う方法ってないでしょうか?」


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