第41話 ガンツが燃える!

「訓練場? そうねえ、深夜なら誰もいないわね。ギルドは24時間空いてるけどその時間に訓練したいとかっていう人はいないから」



「では練習用の弓を買って来てもらえませんか? 小ぶりで丈夫なのを」


「分かったわ、今日中に何とかするわね。それと夜の訓練場の利用についてはギルマスに伝えとく。他に人が入らないようにしてくれるわ」





 その日の夜から訓練場を使い、弓の練習と炎魔法の練習をはじめた。



「訓練場ぶっ壊したらお仕置きすんぞ」


 ギルマスは『壊されそうで心配だからだ』と言いながら毎日練習に立ち会ってくれた。



 ソフィアがこっそり教えてくれたのだが、ミリアに弓の扱いを教える為と炎魔法が暴走した時のストッパー役を買って出てくれたそう。


 弓は苦手なんだよと言いながら、構え方や腕の位置を丁寧にチェックしてくれたり、炎魔法が暴走する理由を一緒に考えてくれたり。


「肩がまた上がってるぞ」

「肘が下がってる!」

「引っ張るな、指を弦に掛けるつってんだろ」


「最後までイメージをしっかりと待て」

「目線がブレてんぞ」




 お陰で昼間のミリアとギルマスは寝てばかりなので、(ミリアはともかく)ギルマスは今まで以上に冒険者達から悪態をつかれている。



 ディーとフェンリルは訓練場で追いかけっこしたりバトルをしたり、妖精と仔犬が戯れている様子はとても微笑ましい光景だった。


「どこが微笑ましいんだよ! 地面から木を生やして屋根突き破ろうとするガキと、炎を吐いて空中を走る仔犬だぞ」


「えーっ、可愛いじゃないですか。ギルマスが羨ましいです!

昼間の受付、交代しませんか?」


「ならお前が毎晩結界張り直すか?」





 練習をはじめてから五日後のお昼頃、まだ寝ていたミリアをギルマスが叩き起こした。


「ガンツ達が街に着いたって連絡が来たぞ」


 ミリアはベッドから飛び起き、慌てて部屋を飛び出そうとしてギルマスに首根っこを掴まれた。



「落ち着けって。関所の知り合いにガンツが帰ったらこっそり知らせるように頼んどいたんだ。

荷物を置いたらギルドに来るようにってな」


「ありがとうございます。そうだ、着替え!」


 寝巻きを脱ぎはじめたミリアに、


「ちょ、待て待て待て! すぐ、すぐ出てくから」


 ギルマスが蹴躓きながら慌てて部屋を出て行った。



(ヤバい、兄さんと間違っちゃった。全然似てないのに)



 冷や汗ダラダラのミリアだった。




 借りている客室の豪奢なリビングセット。ソファの隅にちょこんと腰掛けてミリアは本を読んでいた。


(豪華すぎて落ち着かない)



 ほんの少し前まで女伯爵だった気配は微塵もなく、すっかり元の平民仕様に戻っているミリア。

 ふと横を見ると、フェンリルはソフィアが持ってきてくれた毛足の長いフカフカのラグの上でのんびりうたた寝をしており、その上でディーが気持ち良さそうに眠っている。


(もふもふ・・良いなぁ)



 窓の外は暑くなりはじめた陽気に木々が青々と葉を広げ、空にはぽっかりとした入道雲が浮かんでいる。





 ノックの後ドアが開きソフィアが入ってきた。


「ミイさん、ガンツさんがいらっしゃいました。ギルマスの部屋にお願いします」



 ミリアがギルマスの部屋に行くと、ギルマスとガンツが向かい合わせでソファに座っていた。


「ガンツさん、おかえりなさい。ご無事で安心しました」


「おう、ミイも無事で良かった。関所や街ん中がえらい事になってるから心配したぜ。ナナは煩そうだから置いてきた。

マックス虐めてりゃ気が済むだろうし、ミイは俺に用があんだろ?」



 今までと変わらないガンツの様子にホッとしたミリアは、借りていた杖を返しながら本題に入った。



「お疲れのところ申し訳ないんですが武器を作っていただきたくて」


「杖か? ワンド・ロッド・スタッフのどれが良いんだ?」


 ガンツが目を輝かせて前のめりになってきた。




「ワンドが一番良いかなと思ってます。ロッドは慣れるまで取り扱いが大変そうだし、スタッフは重すぎて無理かなと」


「懸命な判断ってやつだな。ミイはちびっこいし、今までが木の枝だったから長えのは無理だろ」


「材料なんですか、これでお願いできますか?」


 ミリアが出したのはノックに見せたものより大きなヒヒイロカネ。



「こいつぁ、こないだのよりでけえな。ワンドならこないだのでも余るぜ?」



「弓もお願いしたいんです」


「ミイは弓も使えんのか。そいつは知らなかった」



「今練習中なんです。あまり大きくなくて私に扱えるサイズのものが欲しいんですが」



「弓か・・そいつは結構難しいな。

ミイの身長だとロングボウは厳しいかもしれんがショートボウは飛距離と貫通力が落ちる。

飛距離や貫通力を上げようとしたら弦を引く力がいるし。


クロスボウならロングボウほど連射はできねえが威力は上がるし狙いもロングボウよりかは付けやすい。

飛距離はちょい下がる。


#コンポジット・ボウ__合成弓__#ってのもある。コイツはサイズはショートボウとおんなじくらい。

木や竹と動物の骨・腱・角・鉄なんかを張り合わせて作るんだが、射程と威力がかなり上がる。

扱いに慣れりゃコイツは結構役に立つ。

だが、作成に時間がかかる。膠が乾かねえんだ。

あと、水に弱いから使う場所を選ぶ。


一番欲しい効果はなんだ?

飛距離・威力・連射・速射・精度のどれが欲しい?」


「威力と精度が一番欲しいです」


「距離は後回しでいいのか? 普通弓を使いたがる奴は少しでも遠くから狙いたいって言うぜ?」


「勿論接近して使うわけではないですけど、威力と精度の方が必須なので」



「待てるならコンポジット・ボウだな。

こいつはちょっと変わった見た目をしてる。ロングボウみたいに緩い弧を描いてるんじゃないんだ。

弓の両端と中央部は普通と逆向きに大きく反ってる。

鏃は普通よりちいとばかし小さく細い軽めのを使う。

弓懸も耳やそれ以上にまで引ける物が必要になるな。


ヒヒイロカネを使うならそれなりに物を揃えなけりゃ、他の材料が負けちまう」


「どんな素材が必要ですか?」


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