第48話 ウォーカーの情報

「ガンツさん、あの。これってドラゴン?」


「おう、これほどの素材を使ったコンポジット・ボウは二度と作れんだろうぜ。

レッドドラゴン・デーウ・ユニコーン。

勿論ヒヒイロカネもだ。

国宝級つっても良いかもしれんな。

特にデーウの爪なんぞもう二度と手に入らん」



(ん? もう一個あるよ。角も)



「クリの木で作ったワンドもドラゴンの心臓の琴線とヒヒイロカネを使ってる。

三つとも誰にも取られるなよ。

と言ってもまあ、どれも他の奴には扱えんだろうがな」


「扱えない?」


 ミリアが首を傾げた。


「知らないんですか?

こういう物は物自体が所有者を選ぶんです。一度所有者が決まったら浮気はしない、使えないどころか下手したら使用者に・・危害を加えたりもするんです」


「あのー、だとするとコンポジット・ボウもさっきのワンドも使えるかどうかわからないって事ですか?」


「一応はそう言うことになる。まあミリアなら問題ないがな」




 アイテムバックからクリの木のワンドを取り出して、小さな水の玉をいくつか作りヴァンの真上で弾けさせた。


『貴様、何をする!』


 飛び上がったヴァンが怒鳴り声を上げた。



「ガンツさん、ワンド使えました。ユグドラシルのワンドと全然違ってて、でもこれも凄く使いやすいです」


 喜んではしゃぐミリアと『グルル』と唸り声をあげるヴァン。口をあんぐりと開けたガンツとリンドが言葉を失っている。



「ヴァン、どうだった?」


『貴様、我に詫びをせぬ気か』


「だってこの間からずっと水浴びはやだって逃げ回ってるんだもの。

臭い神獣ってありがたみが薄くなりそうじゃない? 結構臭ってたのよ」



『・・水魔法と火魔法の同時詠唱か』


 ヴァンは横を向いて身体をぶるぶると振るわせて態と水を撒き散らした。


『ふん、ミリアはどんどん遠慮というものがなくなってきておる』


「友達だもの」



 ガンツとリンドは顔を見合わせ「ゴホン」と咳払いした後、


「ミリア、同時詠唱って?」


「水だと冷たいだろうから少し温めたの。

薬草研究者達が欲しがる意味がわかったわ。魔法同士の親和性みたいなのが凄くスムーズだったの。

これなら薬草作りに必要なお湯を何時でも作れるもの」


 ミリアは幸せそうにワンドを抱きしめた。




「コンポジット・ボウも試してみなきゃね。これが使いこなせなかったら別の方法を考えないといけないもの」



 今までより威力が高い事を考慮して、広場の端でコンポジット・ボウを構えた。


 深呼吸して矢を番え狙いを定める。


 立て続けに矢を放つとどれもが以前の矢よりも正確に飛び、狙った木の幹に深く突き刺さった。




 ダンジョン攻略を決めてから既に一月半が経っている。

 街には相変わらず騎士団が彷徨き、関所にも騎士が常駐して役人を困らせている。


 ウォーカー達からの情報では近隣の国も同様のようで、アスカリオル帝国の関所辺りはますます厳重な警戒網がひかれているとか。




「なんと、ミリアは毒薬好きの異常者って事になってるよ」


 ウォーカーが通信機の向こうで笑い声を上げた。


「ミリアの関係者だから事情を知りたいってディエチミーラを招集しようとしたんだ。

勿論断ったから安心して。

おかしな噂が流れても騙されちゃいけないよ」



 招集をかけてきたのはローデリア王国の王太子ルーバン。

 事件当時は陛下に同行していた第一王子で、あの後暫くして立太子した。


 現在国王が病気療養中の為、王太子が摂政となって政務を全て取り仕切っているらしい。



 今まで政務を取り仕切っていた宰相は、職務権限をかなり縮小されているものの健在。


 ネイサン王子は正妃の執り成しがあり私室での謹慎のみで許されておりライラもブレイクス子爵家で謹慎中。



「多分、ネイサンとライラはもしもの時に生け贄にする為に謹慎させられてるんじゃないかな。

ルーバン王太子と側妃はかなり過激な性格で知られてるから。

陛下の病気だって凄く怪しいし」



 ウォーカーはこれはアレンには内緒だよと言って秘密情報? を教えてくれた。



「王太子の妹のイライザは占い師のアレンに惚れてて追いかけ回してるんだ。

以前アレンが彼女を占った時気に入られたそうなんだけど、アレンが精霊使いになってSランクになったら何度も拉致監禁しようとしてきてね。

執拗に狙ってて目が完全にイッてる人になってるから超怖い。

あれは何をしでかすか分からないから注意して」



 何度も通信するのは危険だからと、ウォーカーは調べた情報を一気に話してくれた。


 ミリアからは順調に準備できているとだけ伝え通信を終えた。




(兄さん、行ってくるね)




 ギルドの客室でアイテムバックの中身を整理し最終確認をしている時、困り顔のソフィアが顔を覗かせた。


「ミイちゃん、ちょっとギルマスのとこにいい?」



 ギルマスの部屋のドアを開けると腰に手を当ててふんぞり返っているケット・シーと、腕を組み睨みつけるギルマスがいた。



「あの、ケット・シーがどうしてここに?」


 部屋に入ったところで異常な光景に立ちすくんだミリアを見つけたケット・シーは満面の笑みを浮かべた・・ように気がした。


「おー、ミイ。そろそろ出発するんだろ? だから俺様から出向いてやった。嬉しいだろ?」


 一人悦にいった様子のケット・シーを見ながらミリアは首を傾げた。


「ん? どこへ行くの?」


「ダンジョンに決まってんだろ?」


「あっ」


『ミイ、其方忘れておったな』



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