ハーミット王国、ダンジョン
第49話 心配性のギルマス
内心冷や汗を垂らしながらミリアは目を泳がせた。
「あのね、ダンジョンは凄く危険だから留守番を頼めないかなぁと」
「危険だからこそ俺様が役に立つんだぞ。俺様の水魔法で魔物なんぞチョチョイのちょいだ」
ケット・シーの水魔法は頑張って中級。それも一度使うと当分使えなくなる事を知っているミリアは、
「エルフの護衛をお願いしたいの。あの二人が心配で、ケット・シーにしか頼めないから」
「ん? そうか、アイツら弱っちいもんな。しょうがないから護衛しておいてやるか」
カノンはまだ弱いがリンドは魔法も弓もかなりの使い手だとは言わず、何とかケット・シーを納得させたミリアは明日ダンジョンに出発する。
「忘れもんはないか? もし途中でちょっとでも危険だと思ったら、直ぐにディーの転送魔法で帰ってこい。
それから要所要所の転移の水晶は必ず記録しとくんだぞ。
で、途中の「おっさん、くどーい。昨夜からずっと同じこと言ってるよー」」
「うるせえ、大事な事なんだからな」
「ギルマス、大丈夫です。絶対に無理はしません、約束します」
ミリアはギルマスの目を見ながらキッパリと言い切った。
「一回で攻略するつもりじゃなく、最後まで行く事を目標にしますね」
「おう、お前の肩にはエルフ達の命運もかかってる。
無事に帰ることが奴らを救う早道だからな」
「はい」
自身の事よりエルフ達への責任を意識させるとは、ギルマスはよくミリアの事がわかってる・・と感心したヴァンだった。
地平線がうっすらと薄紫色に染まりはじめた頃、ミリア・ギルマス・ヴァン・ディーの四名はダンジョンの入り口近くに転移してきた。
ダンジョンの入り口は二十四時間体制で冒険者の出入りをチェックしている。
ギルマスが入り口に近付いて眠そうに目を擦っている夜勤の職員二人に声をかけた。
「おつかれ。もうすぐ交代か?」
「ギルマスじゃないですか。こんな時間にどうしたんですか?」
「ん? ちょっと目が冴えたんで来てみたんだが、なんならお前ら少し休憩してくるか?」
「えっ? 良いんですか」
「まあ、この時間なら誰も来ねえし。俺がここにいるから行ってこい」
「ありがとうございます。いや、めちゃラッキーです。交代前のこの時間が一番眠くて腹も減ってるんですよね」
職員たちが場を離れた隙にミリアは記録用の水晶にギルドカードを触れさせ、
《Aランク冒険者 ミリア》
と表示されたのを確認したのち、ギルマスにペコリと頭を下げダンジョンに入って行った。
(気をつけろよ、絶対に帰ってこい)
ダンジョンの中は思ったより天井が高く、踏みしめられた地面が歩きやすかった。
一階から十階まではコボルトやゴブリン・オークなどそれほど強い魔物は出ない初級冒険者向け。
十一階から三十階までは毒やトラップが頻発し、虫系や鳥系の飛行タイプからアンデットの出没する階層もある中級冒険者向け。
三十一階からは大型の魔物が複数体で出る上級者向けで、ボス部屋にはベヒモスなども出る。
現在攻略済みなのは四十二階。
ヘルの情報では最下層は五十階。
(このダンジョンの特徴は一つ一つの階が馬鹿みたいに広い事としょっちゅう地形が変わることだ)
(転送陣は十階ごとにしかねえから、しっかりとした余裕がなけりゃ下に降りる勇気はでねえ)
(魔物の強さよりそいつが原因で攻略が進んでないんだ)
(だがお前らなら最速で階段見つけて一気に駆け降りられる)
ミリアはギルマスの言葉を思い出していた。
入り口の記録水晶はあの後ギルマスが別の物に取り替えてくれたはずなので、仮に騎士団がチェックに来ても暫くは誤魔化せるかもしれない。
ミリアはその間に、少しでも距離を稼いでおきたいと考えていた。
「三十階までは一気に駆け抜けたいの。ヴァンもディーも宜しくね」
『うむ』「おっけー」
ヴァンとディーが突然後ろを振り向いた。
「ん?」
『いや、問題なかろう』
「うん、いいよねー。しゅっぱーつ」
ミリアが身体強化をかけた後、出来る限り戦闘を避けながら階段に向けて走り続けた。
弱い魔物達はみな逃げ出し道を開けてくれる。襲ってきた魔物はヴァンの威嚇と咆哮で蹴散らすか、ミリアの光魔法かディーの風魔法で殲滅していく。
五階のボスはオークキング。十階のボスはアイアンゴーレム。
十五階のボスはコアトル。二十階のボスはキメラ。
二十五階のボスはリッチ。三十階バンパイアロード。
バンパイアロードを倒し記録水晶に名前を記録した後、一度休憩を取ることにした。
飲み物と簡単な食事を出して座り込む。
「なーんか簡単だったねー」
「ヴァンの威圧と咆哮凄かった。流石神獣ね」
『もう暫くはこのまま進めるであろう』
「ディーもありがとう」
「へへ、どういたしまして。でもここって途中でコロコロ地形が変わるから超めんどー」
「ギルマスもそれが一番厄介だって言ってた。その所為で攻略が進まないって」
「ミリアは宝箱はほっといて良かったの? 途中に一杯あったよ」
ディーがお気に入りのコンフェッティに齧り付きながら聞いてきた。
「今はいいかな。先に進む方が大事だから」
『気にするほどのものは入っておらん』
「そうだね。うんと珍しいものが入ってる時は教えてあげるね」
ミリアはふと気になった事を聞いてみた。
「もしかしてだけど、宝箱の中身まで分かるの?」
『当然』「もちろんだよー」
「神獣と妖精ってやっぱり凄い」
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