第3話 驚愕のネイサン&ライラ

 北の塔に幽閉されて既に一週間が経っている。


 運ばれて来る食事は一日二回。


 いつも代わり映えのしない質素なものだが、その横には必ず新鮮な果物や甘いお菓子が添えられている。


 騎士が食事を運んできた時、怪我や病気の相談を受ける事がありその時々で必要な薬を作ってこっそり渡しているので、そのお礼なのだろうと思っている。



 それ以外の時間もミリアはとても快適に過ごしていた。

 以前、ウォーカーからプレゼントされたアイテムバックには沢山の本や資料が入っている。


 ライトをつけて、時間がなくて読めなかった本を読み資料を纏め新しい薬の製法を研究し・・。


(そろそろ殿下が来る頃だと思うのよね)



 ミリアの記憶では五日後には陛下が戻られるので、それ迄にミリアに薬を作らせたいとネイサンは考えるだろうと予想している。




 翌日の昼前に階段を登る足音が聞こえて来た。


(あっ、来たみたい)


 大急ぎで本と資料を片付けた。



 ドアが大きく開くと予想通り部屋に入ってきたネイサンに、立ち上がったミリアはニッコリと微笑みを浮かべ挨拶をした。


「ようこそおいで下さいました」


「嫌味か?」 


(はい、その通り嫌味でございます)


「何故薬を作らん?」


「楽しんで頂けておりますでしょうか?」




 ネイサンがミリアの前にある机を蹴り飛ばした。


「貴様、絞首刑になってもいいのか? それとも毒杯か?」


 ちょこんと首を傾げたミリアは、

「毒でしたら、とても弱い神経毒の薬が昨夜のスープに入っておりました」


「その割には元気ではないか」


「お陰様でこの通りでございます」




「薬を作れ! そうすれば自由になるのだぞ」


「おかしな事を仰せられます。

私は薬に毒を盛ったと言われここに幽閉されました。それなのに薬を作れと言われるのでしょうか?」



「ぐっ! 屁理屈を申すな。兎に角急ぎ薬を作るんだ!」


「お断りいたします!」


 初めてミリアが強い口調で返答した。



「いいか、必ず今日中に薬を作れ。でなければただではおかん。

鞭打ちは痛いだろうなぁ。拷問というのは色々種類があるそうだ」


(拷問? そんな事させる訳ないじゃん。そうなったらさっさと逃げ出すわ)



 ミリアは国王が帰って来るのを待っていた。ネイサンの愚かな行動を聞いた国王がどの様な判断を下すのか。


 それによってこの国を見限るかどうかを決めたいと思っていた。


(予想はついてるけど、一応確認しておきたいしね)



「貴様のような奴でも大事な人がいるだろう? そいつらに何かあればどうする?」


「どう言う意味でしょうか?」


「貴様の知り合いを捕まえ牢に入れている。貴様が薬を作らないならそいつらを鞭打ちの刑に処す」


「無実の者に鞭打ちの刑を?」


「それが嫌ならばさっさと薬を作るんだな」



 目を細め黙り込んだミリアを見て薬を作ると確信したネイサンが意気揚々と帰って行った。


(あんな嘘、信じる訳ないじゃん)




 ミリアがネイサンから呼び出しを受けたすぐ後に、ウォーカーは友人や知人と共にこの国を離れる事になっていた。

 一週間経っているので既にこの国を出て約束の場所に向かっているはず。


 だから、ネイサンが言うような知り合いはこの国に残っていない。



(ただ、にいさんからの連絡がまだ来ないのが・・)



 追い詰められたネイサンは翌日も、その翌日もミリアの元にやって来た。


 日に日に焦りを隠せなくなっていくネイサンはとうとう剣を持ってやって来た。


「薬を作れ! さもないと」


 剣を抜きミリアに向けて構えた。



「どちらにしても薬が手に入らないと言う事ですね」


「明日陛下が戻られる。お前が薬を作らないなら絞首刑にされるぞ、それでもいいのか?」



 ミリアは小首を傾げて少し悩むフリをした。


「絞首刑はお断りしたいと思いますが、陛下がお戻りになられましたらどのようなご判断をなされるのか楽しみにしております」


「は! 陛下の温情を期待しているわけか。陛下が俺より貴様の話を聞く訳がない」


「では、慌てず陛下のお戻りを待たれては如何でしょうか?」





「馬鹿もん、このこの大馬鹿者が! あの者を幽閉しただと。

彼奴がおらねば薬が手に入らぬ。

何の為に態々叙爵させてまで囲い込んでおったと思うておったのじゃ。

彼奴をこの国に縛り付けて行動を監視制限する為であったのに。


あれの薬は我が国最大の武器であるのだぞ。あれさえあれば・・主権国家となるべく根回しをしておったと言うに」



「くっ薬を作れと陛下が一言仰れば「その程度で首を縦に振るような女でない事くらい分からんのか!」」


 陛下の剣幕にネイサンとライラは怯え後ずさった。



モルガリウス宰相、何故止めなんだ。この様な愚行を、何故やらせたのだ!」


「申し訳ございません。ライラ・ブレイクス子爵令嬢がミリアと同等の薬を作れると申されましたので」


「ライラ・ブレイクス。其方がミリアの代わりと申すか? ミリアと同等の薬を作れると申したか?」


「はい、つっ作れます」


 突然陛下に声をかけられたライラはおびえて丸まっていた背筋を伸ばし返事を返した。



「ならば作ってみせよ。エリクサーをな」


「はい。えっ? エリ・・クサー?」


「そうじゃ、あれが作る欠損をも直すエリクサーと同じ物。作ってみせよ」


 陛下が冷たい目でライラを睨みつけた。



 ネイサンとライラが床に座り込んだ。


「「無理だ(です)」」



「ならば・・余が、あれに会いに行かねばなるまい。

其方達には追って沙汰を言い渡す。

それまで謹慎を申しつける。連れて行け」


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