第4話 国王の狙い
陛下がネイサン達から話を聞いた翌々日の夕刻前、北の塔に重たい足音が聞こえて来た。
ミリアはアイテムバックの存在を知られない為にチェストの中に入れておいたドレスやアクセサリーなど全ての私物をアイテムバックに片付けた。
陛下と宰相が護衛と共に部屋に入って来ると、ミリアはペコリと頭を下げた。
「ミリア、何故カーテシーをせん?」
「ネイサン第二王子殿下から褫爵されましたので、今の身分は平民でございます」
にっこりと笑うミリアを国王と宰相が睨みつける。
「何故ネイサンに毒を盛った」
「以前から殿下に処方されている薬を以前と同じ配合でお作り致しました。
調合中は間違いの起こらぬ様三人の薬師で行い、その後王宮医師団団長にお届け致しました」
「その薬に何故毒が入るのだ?」
「サルファーは肌を綺麗にする効果があり、ごく一般的に使われているものでございます。
服用すれば僅かながら毒性がございますが、今回は塗り薬でございました。
容器にはハッキリと明記しておりましたが、どうやら今回それを服用しようとなさったようです」
「宰相、覚えておるか?」
「・・いえ、覚えておりません」
「証人がおらぬのではこの話は不問にするしかあるまい。
ミリア、其方がここに幽閉されたのは何かの間違いであったと言う事であろう。
屋敷に戻り朝からまた役目に励むが良い」
(やっぱりそうきたか)
「私は殿下に毒を盛ろうとして国家反逆罪に問われましたが?」
「全てなかった事。そう申したであろう」
「では、宰相様を含め多くの重鎮の方の前で断罪された事は?」
「・・」
「婚約破棄は?」
「・・」
「褫爵された事は?」
「・・」
「十五日間北の塔に幽閉され薬を作るよう命令され続けた事は?」
「殿下への処罰は? 罪を告発したライラ様への処罰は?」
ミリアの執拗な質問に腹を立てた国王が大声で怒鳴った。
「ええい、全てなかった事と申したであろうが!」
「承服致しかねます! では、陛下にご覧頂きたいものがございます」
ミリアが右手の掌を上に向けると小さな箱の様なものが乗っており、壁に謁見室での断罪の場面が声とともに再生された。
「こっ、これは・・」
「近年帝国で発表された魔道具でございます。
あの時広間におられた方々のお顔も断罪の様子も全て記録しております」
「結界の中でも使えると言うのか」
宰相がジリジリとミリアに近づいて来る。ミリアもそれに合わせて下がり、部屋の端に追い詰められかけた時映像がぱたり止まった。
「これ以上ご覧になられてもあまり意味はなさそうですので止めさせていただきました」
宰相がミリアに飛びかかり右手を掴んだが、手の中には何もなかった。
「どこへやった! 出せ」
「下がれ、モルガリウス」
陛下の言葉に宰相が後ろに下がって行った。
「ミリア、其方の願いは?」
「陛下に一つプレゼントを残し、お暇したいと存じます」
ミリアの言っていることの意味がわからず、陛下と宰相は首を傾げた。
先程と反対側の壁に陛下とミリアの対話が流れ始めた。
「貴様、これも・・」
「では、お暇させていただきます。短い間ですがお世話になり・・ましたとは嘘でも言えませんわね。
婚約破棄と褫爵、確かにお受けいたしました」
ミリアが魔法陣の描かれた紙を足元に落とすと、ミリアを中心に魔法陣が展開されていった。
護衛が陛下の前に立ち塞がり剣を抜いたが、その時にはミリアの姿は消えていた。
床には映像装置の小箱が置かれていたが、陛下の前に立ち塞がる護衛の姿を写したと同時に『ポン!』と小さな音を立てて壊れてしまった。
「さっ探せ! 彼奴を探して連れてまいれ! あの映像が他国に知られれば我が国は終わる。
連れてきて証拠を処分するのだ」
「この塔は魔法結界が張られているはず。
ミリアは何故あのような事ができた?
それに逃げられるなら何故とっとと逃げ出さなかったんだ?」
ミリアが転移した先は『モンストルムの森』の中。
(さて、まずはここから脱出しなくちゃね)
(昨日兄さんから連絡が来て良かった。ギリギリだったから心配だったって会ったら文句言わなくちゃ)
『モンストルムの森』の中はウォーカー達と散々歩き回った慣れ親しんだ場所。
素材集めや薬草探しとレベル上げ。孤児院を出てからは家にいるよりここにいる時間の方が長い頃もあった。
(孤児院にいる時も暇を見つけては山に行ってたし)
ミリアは元々兄のウォーカーと二人孤児院で育った。
ミリアがニ歳でウォーカーが五歳の時、家族で乗っていた馬車が盗賊に襲われた。
その時、両親が亡くなり二人は近くの村にあった孤児院に引き取られた。
ウォーカーが覚えていたのは二人の名前と両親が調香師というその当時非常に珍しい職業だった事。
別の国から旅行でやって来てどこか別の国に行く途中だった事。
持ち物はほとんど残っておらず、兄弟が持っていた肩掛け鞄の中身くらい。
盗賊がいなくなった後少しばかりの荷物が残っていたが、助けに来た筈の村人に取られてしまった。
孤児院にはシスター・フローレンスと六人の子供達がいたが、皆薄汚れた服を着てガリガリに痩せていた。
孤児院はとても貧しく食事が一日一食の事もしょっちゅうで、少し大きくなると近くの村に日銭を稼ぎに行っていた。
その日もウォーカーは村の畑で手伝いを済ませ、その日の稼ぎを手に孤児院への道を急いでいた。
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