第12話 ミリアの冒険者登録は野次馬がいっぱい
ウォーカーがミリアの手を引きながらギルドに入っていくと、ギルド内が静まりかえった。
何事かと不審に思っていると、カウンターから飛び出してきたリラがウォーカーに抱きついた。
「ウォーカー! あんた生きてたのね!」
ウォーカーの頭をぐりぐり、ほっぺたをグニグニするリラ。
ウォーカーは嫌そうな顔をして一歩後ろに下がった。十四歳のウォーカーには辛すぎる。
「もー心配したんだよ。きっと無茶な依頼を押し付けたんだろうってみんなでギルマスをボコボコにしたんだから」
「えっ、ボコボコですか?」
「そうよ冒険者や私達以外にも宿屋のクロエや屋台のおじさんとか、他にもいっぱいいて暫くの間ギルマスったら家から出てこなかったんだから」
リラが嬉しそうに恐ろしい話をしているのを聞いて不安になったミリアは、繋いでいる手に力を入れてウォーカーにピトっと張り付いた。
「ウォーカー、そのチビっこいのは誰だ?」
「あっ、デクスターさん。お久しぶりです」
「どこで拾ってきたんだ?」
「拾いません、妹です。一年前、絡まない約束しましたよね」
「ああ、お前とパーティーメンバーにはな。
でもちびすけは入ってないだろ?」
「デクスター、それ以上その子に絡んだら町中に『デクスターはロリコンの変態だから要注意!』って噂流すよ」
「げっ、ちょっと話しかけただけでそれは鬼畜だろ」
「ウォーカー、妹がいたんだ。はじめまして、リラ姉ちゃんって呼んでくれる?」
「あっ、兄ちゃんがお世話になりました」
ペコリと頭を下げるミリアを、リラが思いっきり抱きしめた。
「きゃ~、もうダメ。ウォーカー、この子ちょうだい。うちの子にする」
「一年会わない間にリラさんますます危なくなりましたね。ミリアはあげませんから」
「もー、相変わらず空気読めない子ねー。気分よ気分。ほら、分かるでしょ」
ウォーカーとミリア、二人仲良く首を横に振る。
「兄妹揃って・・仲良しね。うっうん。
で? 分かった、ウォーカーが依頼を受ける間ミリアちゃんを預かって欲しいのね。
良いよ、何日でも預かってあげる」
カウンターの中の女性も冒険者達も全員が『うんうん』と頷いた。
「いえ、ミリアの冒険者登録にきました」
「「「・・えーっ!」」」
「みっミリアちゃん何歳?」
「十一歳になりました」
「またまた、リラ姉ちゃんを揶揄って」
「本当です。十一歳になったので兄ちゃんが迎えにきてくれました」
ない胸を精一杯張ってリラに伝えたミリア。
「ちっこすぎる」
「冒険者はやめとけ」
「そう言うことなんで、ミリアの冒険者登録をお願いします」
「うっうん、んじゃこっちカウンターに来てね」
カウンターの中に入ったリラが用紙を出し、背伸びしたミリアがそれを受け取ったがリラからはミリアの目から上しか見えていなかった。
「今までミリアちゃんはどこにいたの?」
「知り合いに預かってもらってました。ミリアが冒険者登録できるまでって」
「そうなんだ。だからウォーカーはあんなに急いでランクアップしたんだね」
「まあ、そうかも」
ミリアが書類を提出するとウォーカーが、
「次のランクアップ試験はいつですか?」
「まさかミリアちゃんの?」
リラはミリアとウォーカーの間で目をウロウロさせている。
「はい、ミリアのです」
冒険者達がざわざわと騒ぎはじめた。
「無理じゃね?」
「でもウォーカーの妹だろ」
「五月蝿え、何騒いでるってウォーカーじゃねえか。お前どこ行ってたんだよ!」
二階から怒鳴り声が聞こえてきた。
「お久しぶりです、ギルマス。妹の冒険者登録に来ました」
「・・お前の妹だ? そんなのどこにいんだよ」
ミリアがカウンターの陰からちょこんと顔を出した。
「・・いたな。ちっこすぎて見えなかった」
「ギルマス、ミリアちゃんランクアップ試験受けたいそうです」
「はぁ? おま、ええっ? そのちっこいのがか?
あっでもウォーカーの妹かぁ。
いいだろう、筆記が出来たらいつでも試験やってやるよ」
「いいんですか?」
吃驚してウォーカーが聞き返した。
「お前Aランクだろ。Aランクの推薦があるなら即試験が受けられる。最高でCランクまで」
それを聞いたウォーカーがミリアの手を取って大喜びした。
「やった、ミリアは一気にCランクだよ」
「うん、筆記試験頑張るね。で、筆記試験って何?」
ウォーカーの言葉にドン引きしつつもミリアに籠絡されていく冒険者達とギルド職員達だった。
その日から二日間、宿でみっちりと本を読み込んだミリアは見事筆記試験に合格した。
ミリアの実技試験の相手は元Aランク冒険者のギルド職員で、審判はギルマスが行うという異例の事態になった。
訓練場内には職員や冒険者が詰め掛け全員がミリアを見守っていた。
「ギルマス、野次馬の圧が凄すぎるんですが」
「我慢だ、元Aランクの根性見せろ」
「交代しません? もしちょっとでも怪我させたら奴らに殺されそうです」
「大丈夫だ。死なない程度にしろって言ってやる」
「準備は? チビ・・武器は木の枝か?」
「えっ、ごめんなさい。なら無しで」
「・・いや、木の枝。うん、いいチョイスだ」
職員とミリアが離れて対面した。
「よろしくお願いします」
「おっおう」
「ちび、手加減なしでいいぞ。あのおっさんはあれでも元Aランクだからな」
「では、試合はじめ!」
「ミリアちゃん、先にやっていいよ」
ミリアがチラリとウォーカーを見ると『うん』と頷いた。
ミリアが右手を前に出した途端大量の水が職員にぶち当たり訓練場の壁にぶち当たって気絶した。
「・・しっ勝負あり。勝者・・ちびすけ。
おい、今のは何だ? ウォーターランスみたいだったが」
「にっ兄ちゃん・・どうしよう、水遊び三号が」
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