第30話 ドワーフの里で大宴会

 ナナの家の中は男らしい言葉遣いとは裏腹にとても女の子らしく飾られていた。

 テーブルの上の一輪挿しには野の花が生けられており、窓辺にはハーブの鉢植えが置かれている。


 家具は全て蜜蝋でしっかりと磨き込まれていて、ベッドには手作りらしいキルトがかけられている。




 家に入り椅子を勧められたミリアとは違って、ガンツとマックスは床に正座させられた。


「茶入れるからそこに座って聞きやがれ。ガンツ、大体お前は・・」



 ミリアはナナの入れてくれた美味しいお茶を飲みながら、正座して説教を受けているガンツとマックスを目線に入れないよう努力していた。






(あっ、人が来る)



 誰かが玄関をノックする小さな音が聞こえ、ガンツより大きなドワーフが覗き込んできた。


「ナナちゃん、あの」


「今取り込んでんだ、後にしやがれ!」


「ひっ」


 バタンとドアが閉まりパタパタと走り去る音。


「チッ、マーニーの奴使えねえ」


「ああ? ガンツなんか言ったか? 使えねえのはガンツだろうが。大体ガンツはな・・」


 腰に手を当てヒートアップしていくナナの前で、


(来るならグレンが来いよ、アイツなら何かしらヘマやらかしてナナの攻撃対象になってくれるんだが。それともマックスを囮に・・)


 とても不謹慎な事を考えていた。






 ひとしきり小言が続き、ナナの勢いが止まった瞬間を狙ってミリアが話しかけた。


「ナナさん、良かったら甘いお菓子は如何ですか?」


「えっ? お菓子。どんなやつ?」


 ナナが勢いよく振り返り目を輝かせた。



「「ミイ、グッジョブ」」





 ただ今、説教は小休止中。


 何故か今頃やって来たグレンを含めた五人は庭でバーベキューの準備をはじめた。


 勝手にやって来たくせにビクビクと挙動不審なグレン。



 火をおこし肉を焼きはじめるとあちこちの家からドワーフが顔を覗かせた。


「だから言っただろ? こんな事をしたらやばいってよお」


 グレンが周りを見ながらオドオドしている。


 匂いに釣られたドワーフがどんどん近づいてくる。



「でも、お肉もソーセージも一杯ありますし。

解体してない魔物のお肉もありますから。足りなくなったら解体お願いしますね」



「ミイちゃん、みんなにちょびっとずつ分けてやってもいいか? みんな新鮮な肉に飢えてるからよお」


「大放出しちゃうつもりなんで、ちょっとと言わずドーンと行っちゃいましょう」



 ナナが集まりはじめたドワーフに向けて怒鳴った。


「肉が食いたい奴はでけえ皿もってこい! ガキが一番最初で、あとは早いもん勝ちだからな」



 ばらばらと血相を変えて走って行く男達。子供はそれを見た後ナナの所にやって来た。


「お肉?」


「おう、ソーセージもあるってよ。テル、食いたいか?」


「「「うん!」」」


「なら順番に並べ、喧嘩する奴は一番最後だからな」




 ミリアが大量のお肉やハム、ソーセージをテーブルに並べる。


「凄えな、こんだけありゃみんなの口に入るぜ」



 ナナが嬉しそうにお肉を追加で焼きはじめた。


「足りなければまだまだ出しますね」


「はあ? アンタどんだけ持ってんだよ。信じらんねえ」



 ミリアは焼ける野菜やシチューやスープの入った鍋、その他にもいろんな種類のサラダや果物を出した。



「ここんとこずっと天気が悪くてよお、野菜も肉も何も手に入らなくて。

もうじきうっすいスープで我慢するようになるって言ってたんだ。

俺達は良いけどよ、ちっこい餓鬼が腹減らしてるの見るのはキツかったぜ」




 ドワーフが何樽も酒を持ってきて、その夜は里の全員が集まって大宴会となった。




 真夜中過ぎ酔っ払ったドワーフが寝落ちしはじめた。


 ドワーフの中でもガンツは酒に強い方なのか、半分目が閉じかけているグレンの愚痴を肴に平気な顔で酒を飲んでいる。

 マックスは早い段階で長老に潰されていた。



「今日は本当にありがとね。天気はよくなるし、みんなお腹いっぱい食べられたし。

これからは収穫も狩りも出来る、鉱山にも行ける。

これでノッカーのご機嫌が直ってくれたら言うことなしなんだけどね」



 ナナの女の子らしい態度と言葉遣いに気付かない振りをしてミリアは頷いた。



「こんな楽しい夜は初めて。ドワーフのみんなは色んな特技があるのね」



 ドワーフ達は酒に酔ってくると、楽器を持ち出して来て歌や踊りを披露してくれた。

 その横を元気に駆け抜ける子供達。


 女達はミリアにお礼を言いにきた後、家に篭っていた間に作ったキルトや保存食の品評会。

 ミリアは大きなベッドカバーとジャムや木の実の入った焼き菓子を貰った。




「私もこんなのは久しぶり。ガンツが出て行ってから凄くつまんなかった。

エイダとかラーニーとか、友達が心配して色々声かけてくれるんだけど・・」



 パチパチと燃える火を見ながらぼうっとしていると栗鼠のラタトスクが後ろからこっそりと姿を現した。


「珍しい、栗鼠が来るなんて」


「ナナ、私ちょっと出かけてくる」


「こんな夜になんて危ないから駄目だよ」



 夜更けに一人で出かけようとしたミリアをナナが引き留めた。



「ナナ、ミイは大丈夫。気を付けて行ってこいよ」


 ガンツが声をかけて来た。


「俺っちが着いてってやりてえが、奴はミイ一人に来て欲しいだろうからな」


「行ってきます」


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