第31話 ペリの願い事
ミリアは星あかりで照らされた夜道を、先導するラタトスクについて歩いて行った。
静まりかえった里を横切り緩い坂道を登って行く。
夜の虫の声や微かに聞こえる遠吠え、しっとりとした夜の風が緩やかに戦ぐ。
ミリアは北の外れにあるユグドラシルの元に辿り着いた。
「今日はお疲れ様だったね」
ペリが樹の下にのんびりと立膝をついて座っていた。
優雅な仕草で横に座るよう手招きするペリと巨大で神秘的な雰囲気を醸すユグドラシルの周りはほんのりと光っており、その幻想的な景色にミリアは思わず息を止めた。
「魔法陣、ありがとうございました。
おかげで無事にヘルを召喚できました」
ペリの横、少し離れた場所に腰掛けながらミリアがお礼を言った。
「君なら出来ると思ったんだ。セリーナに似て怖いもの知らずな感じがしたから」
「あの、母の事をご存知なんですか?」
「所謂幼馴染ってやつかな? セリーナが五歳の時から十二歳までだけだけど毎日一緒に遊んでた。
セリーナをペリの園に連れて行ったこともある」
ペリの園はいつでも沢山の花が咲き乱れており、想像もできないほどかぐわしい香りがすると言う。
あらゆる宝石があちこちでキラキラ輝いていて、木の実も宝石でできている。
「セリーナは宝石探しが大好きだった。だけど帰る時は一つも持って帰らないんだ。
これはペリ達の物だからって」
「ヘルが、私は母から力を受け継いでいると」
「そうだね。どうやらセリーナが亡くなる時に君に自身の力を移したようだね。
君の中に二人分の魔力があるから扱いは大変だろ?
ところで、新しい友達に紹介してもらえないのかい?」
「新しい友達?」
ナナが心配してついて来たのかと思ったが通ってきた道は暗くて何も見えなかった。
「こんばんは、ヘルは相変わらず綺麗だね」
『ガルゥ・・グルル』
「仕方ないだろう、僕は安全にミリアをドワーフの里に行かせてあげたかったんだから」
『グルっガウゥ』
「確かにそれもあったけどね。結果オーライって事で許してくれないかな?」
ペリは暗闇から現れた巨大な灰色狼と話しをしはじめた。
狼の言葉は勿論ミリアには分からないが、ペリに対して酷く怒っている事だけは理解出来た。
「フェンリルだよ。彼はヘルの上の兄さん」
「フェンリルが兄さん・・そうでした。フェンリル・ヨルムガンド・ヘルは三兄妹でした」
ヘルの長兄、
グレイプニルは、猫の足音・女の顎髭・山の根元・熊の神経・魚の吐息・鳥の唾液という六つの材料から出来ていたと言われている非常に強力な物だった。
強力な牙と顎を持ち炎を操ることが出来る。巨大な口は太陽や月でさえ飲み込むことができると言われ、日食や月食が起きるのはフェンリルのせいだと言われている。
次兄の
津波を起こし、通った跡は大地がぽっかりと深く削られる。
その口からは神々すらも死に至らしめる猛毒を吐くと言う。
「ミリアが君の言葉が分からなくて困ってるよ。なんでここにいるのかも説明した方が良いんじゃないかな?」
「ガルル、グルっ・・『我はヘルの使いで参った』」
「わっ、言葉が聞こえて来ました。こんばんは。何か御用でしょうか?」
「我らは人に借りは作らぬ。借りを返すまで我は其方に従おう」
ミリアは突然の話に戸惑いを隠せなかった。念話が聞こえてきたことに驚く余裕もないし、ヘルに返してもらうべき恩も思いつかない。
ましてやその何かの為にフェンリルと行動を共にするなど目立ち過ぎて迷惑この上ない。
「三兄妹はすごく仲がいいんだ、丁度ミリアとウォーカーみたいだね。
ヘルはさっきの件でミリアに借りができたって思ってる。
で、長い間人間界にいられないヘルの代わりにフェンリルが来たというわけ。
合ってるよね?」
『ふん、ペリに代弁されずとも我が話す。余計な事をしおって』
「あの、お気持ちはありがたいですがどうぞお気になさらず。
私の方こそ話を聞いて対処して頂いて感謝の気持ちでいっぱいですから」
『我が一度決めた事は覆らぬ』
「そう、フェンリルって頑固なんだよ。ヨルムガンドの方がまだ話が分かるよね」
ペリは一人にこにこと頷いている。
「ペリ、他人事だと思って呑気にしてないで下さい。元々はペリの発案だったんですから。もし感謝されるとしたらペリの方です。百歩いえ、一万歩譲ったら半々位になるかもですが」
「僕は口にしただけ。頑張ったのは全部ミリアだよ」
「いえ、企画も提案もペリです。私はその流れに乗っただけですから。あっ魔法陣の準備もペリです!」
『四の五のうるさい奴よ! 我らが助けると決めたはミリア其方のみ。これは変わらぬ、諦めよ』
「でも、色々ありまして目立つのはとても困るんです。巨大な狼と歩いていたらそれだけで注目を集めてしまうので」
「心配はいらないよ。フェンリルは姿を隠すことも大きさを変えることもできる。変身も少しなら出来るしね」
『我を愚弄する気か、ただで済むと思うな』
フェンリルが牙を剥き出し『グルル』と唸り声を上げた。
「フェンリルはねすっごく可愛い仔犬に変身するんだ」
「えっ、もしかしてモフモフですか? 触れるとか」
「・・可笑しなとこに食いついたけど、同行できそうで良かったね。
さて、問題が解決したところで僕のお願いを聞いてもらおうかな?」
ペリが突然真顔に変わり、身体から発する光が強く濃くなった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます