第32話 セリーナとライオネル
「不老不死の花って知ってるかな? エメラルドで飾られた蓮の花なんだけど。
僕はその花を運んでいたんだけど、ちょっと気を逸らした隙に
ボギーは家に住む働き者のブラウニーが転落したと言われている妖精で、小さくて黒く毛深いか幽霊のように決まった姿を持っていない。
暗く湿った場所を好み悪質な悪戯で人を驚かせる危険な性格だが、知能があまり高くないので簡単に悪戯を阻止することができる。
『知恵のないボギーに盗まれるなど、間抜けなことよ』
「それを言われるとその通りとしか言えないんだけどね、ボギーは盗んだ後この山の奥深くに隠したんだ。
空と水の中ならどこでも行けるんだけど、岩の中は無理。
ミリアがこの山に来たのは僕にとって最後のチャンスかもしれないと思ってる」
「山の索敵をすれば良いんですか?」
「ミリアが明日行く予定の鉱山の奥深くに隠してあるんだ。
あの鉱山はドワーフの聖地のようなものでね、ドワーフ以外には誰も立ち入れない」
それならなんとかなるかもしれないとミリアが思った時、フェンリルが意外な事を言いはじめた。
「貴様はミリアに話さねばならぬ事が残っておろう」
「・・それを先に言うとミリアに口を聞いてもらえなくなるかも。
でも、フェンリルの言う通りだね」
覚悟を決めたペリは大きく深呼吸した後、ミリアの目を真っ直ぐに見て話しはじめた。
「ミリア達の両親が亡くなったのは僕のせいなんだ」
「・・!」
ミリアは意外な話に驚きすぎて言葉が出なかった。
セリーナと仲が良かったとは聞いたけれど・・。
十数年前、ボギーに不老不死の花を盗まれたペリは途方に暮れていた。
ボギーは盗んだ花を隠した後態々戻ってきて、
『ペリが絶対に行けないところに隠した。ドワーフだって見つけられやしない』
と得意満面だった。
頭の悪いボギーの話で隠し場所はドワーフの鉱山だと分かったものの、ペリでは鉱山の中に埋められた物を見つけるのは不可能。
自力で探し出す事は出来ないと落ち込んでついセリーナに愚痴を零してしまった。
『だったら私が代わりに探してあげるわ』
そして、ここへやって来る道中に盗賊に遭ったのだと言う。
もしペリが幼い子供を抱えたセリーナに愚痴をこぼさなければ、セリーナ夫婦は今も元気で家族仲良く暮らしていた筈だとペリは語った。
『子供達を置いて行きたくないから、旅行気分で家族で行くわね』
それが最後の会話だった。
「吃驚しすぎて何を言えばいいのか分かりませんが、ペリのせいではないってそれだけは言えます。
悪いのは盗賊ですもの」
「でもそれが僕のせいでセリーナが狙われたものだったとしても?」
「どういう事ですか?」
ミリアは心臓を誰かに掴まれたような恐怖を感じた。急に身体が冷えてきたように感じて腕を組み体を抱え込む。
「ずっと考えてたんだ。隠し方がボギーにしては手が込みすぎてるって。
しかもセリーナが盗賊にやられたなんておかしすぎる。
セリーナも
ボギーは頭が悪くて策を練るとか相手の弱点を突くとかそんな事はしないし出来ない」
「つまり、ボギー以外にもこの件に関わっている誰かがいるって事ですか?」
「多分。ボギーに知恵をつけて僕を困らせようとしている奴がいる。花を取り戻せばはっきりするけど、その前に邪魔をしてくる可能性は高いと思う」
ペリの話し方は既に敵が誰なのかわかっているような感じがした。
「それは誰なんですか?」
「悪魔デーウ。確証があるわけじゃないけど。
僕には敵らしき敵はいない筈なんだ。善人を気取るわけじゃないよ。誰かと関わるのが面倒だって、ただそれだけ。
セリーナはそんな中で僕と関わった珍しい存在だったんだ」
悪魔である巨人デーウは体力が異常に高く、飛行術と変身術に優れているが魔法が使えない悪魔の一柱。
長い鉤爪と角を持つ醜悪な巨人で暴力的で嘘吐き、無秩序や混沌を好む。
美しいペリを見つけては攫おうとする為遠い昔からペリの一族とは常に敵対している。
デーウを滅する為には神の光輪と呼ばれるクワルナフが必要だと言われており、クワルナフは火の精霊アータルが所持している。
「アータル・・誰も見たことがない伝説の精霊だわ」
「うん、悪魔だから一応光魔法は奴に有効ではある。決定打じゃないけどね」
「今までどうやって戦ってきたの?」
「僕達は戦闘向きの種族じゃないけど、ある程度は光魔法が使えるんだ。
まあ、防戦一方で仲間を救うのが精一杯って感じだけど」
ミリアは光魔法を使ったことがない。
そう言えばギルドで、
『金色だから聖魔法が使える』
と言われた事を思い出した。もしそれが光魔法だったならデーウにも有効打を与えられるのかしらと思い立ち・・。
「光魔法は使ったことがないんですがどんなものがあるんですか?」
「ミリアなら光魔法は使えるよ。セリーナが光魔法の使い手だったから」
ミリアはペリから幾つかの光魔法を教えて貰いガンツ達の待つ家に帰って行った。
ミリアは玄関を小さくノックした。足元には白い仔犬がちょこんとお座りしている。
ドアがバタンと勢いよく開きナナが怒鳴った。
「遅い! 心配させやがって、もうすぐ朝じゃねえか」
「ごめんなさい、ちょっと話し込んでしまって」
「ナナ、帰って早々の奴にガミガミ言うのはやめやがれ。ミイ、さっさと入んな」
二人とも起きて待っていてくれたようで、テーブルの上には飲みかけのコップが置いてあった。
「で、ちゃんと話はできたか?」
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