第29話 汚いグレンと綺麗なナナ

「こいつは弟子見習いのマックス、そっちが冒険者のミイ。

ノッカーを見つけて説得しに帰ってきた」


「お前なんかに何が出来る! こんなチビが冒険者だと? 笑わせるなよ。

しかも人間がドワーフの弟子とかあり得んだろ」



 グレンがミリアとマックスを指差して笑う。

 


(チビ・・グレンより大きいんだけど)



「マックスは弟子見習い。耳が遠くなったか? ミイはかなり凄腕の冒険者だぞ。怒らせて里を丸ごと焼かれても知らんぞ。

グレンが責任持つなら試してみるか?」


「ばっ馬鹿なことを。大体おま「もうええ、グレンお前は黙っとけ」」



 長老の一言でグレンは下唇を噛みドスンと音を立てて座り込んだ。目は相変わらずミリア達を睨んでいる。



「ノッカーの話がガンツの所まで届いておったか」



「もう随分前から知ってるぜ。なんとかなりそうになったから帰って来た。

そうは言っても試してみねえと分からんがな」


「長老、そんな眉唾な話なん・・」



 長老にギロリと睨まれたグレンは『くそ!』と言って黙り込んだ。




「試すだけ試してみたい。ミイならノッカーと話ができるかもしれんと俺っちは思ってる」


「何故そう思う?」



 長老はグレンと違って一応話は聞いてくれるようだ。それだけ里の為になんとかしたいと願っているのかもしれない。



「はじめは俺っちも『こんな奴に何が出来る?』って思ってたんだけどよ。

さっき天候が回復したろ? あれを見てもしかしたらできるかも知れねえと思った」


「何があった?」


「言っても信じねえよ。

俺っちだって実際に見てなきゃ例え長老の話だったとしても信じねえな」



 長老は腕を組み目を瞑ったまま長い間ピクリとも動かなかった。



 ガンツは両手を縛られたままで器用に部屋の隅からクッションを引っ張ってきて床に座り込んだ。


「お前らも座れや、ああなったらマルツは長えからな」



 ミリアとマックスは顔を見合わせ、ガンツの真似をして運んだクッションに腰掛けた。






 手持ち無沙汰な時間が延々と過ぎていき、漸く長老が目を開いた。



「ノッカーの鉱山はわしらの最も大切な場所じゃ。人間なんぞを立ち入らせるわけにはいかん・・と、言いたい所じゃが背に腹は変えられんというやつじゃ。

その女子おなごに出来ると言うなら試してみよう」


「よっしゃ」「長老!」



 ガンツとグレンの正反対の反応を見ながら、

『失敗したらどうしよう』

と、不安が高まるミリアだった。



「ガンツ、お前はナナのとこに泊まるがええ。その娘もな。

弟子見習いはグレンの家に泊めてやれ。

出発は明日の朝、今晩はゆっくりナナに叱られてこい」



「マルツ、それはゆっくりとは言わん。ナナに捕まったら一晩中小言を食らうじゃねえか」


「ちっ長老さま、俺は野宿でいいっす。

もう慣れたんでその方が嬉しいと言うか、死にたくないと言うか。

おやっさんも野宿の方が良さそうだし。ねっねっ」


「てめえ、俺の家が気に入らねえのかよ!」


「いえいえ、とんでもありま・・せんです。はい」




 ナナはガンツの年の離れた妹だった。


 里の南側の少し小高くなった所にポツンと平屋の家が立っていた。以前はガンツと二人で住んでいたそうだが、今はナナが一人で住んでいる。


 ガンツがミリアを連れて家に近づくと、バタン! と大きな音を立ててドアが開きドワーフの中でも小柄な女の子が飛び出してきた。



「ガンツ! 俺を迎えに帰ってきたのか? その女はお前の嫁っこか?」


「ナナ、いい加減に俺って言うのはやめろ。そんなんじゃ嫁の貰い手がねえ」



『はぁ』とこれ見よがしに大きな溜息をついたガンツが眉間に皺を寄せて文句を言った。



「ふん、俺より凄い武器を作る奴じゃないと嫁になんぞ行ってやるもんか。

しかし、ガンツがロリだとは思わなかったぜ。でも考えてみりゃ良い選択だよな、人間はドワーフに比べて寿命が短えからよ。

うん、うん」


「ロリってなんだよ。勝手に納得すんじゃねえ。

こいつはミイ、ノッカーを説得する為に連れてきた冒険者だ。

こんな見てくれだが一応大人だぞ。そう聞いてるからな」


(なんでガンツが疑問系?)


「はじめまして、ミイと言います。長老から今夜一晩お邪魔するようにと指示があったんですが構わないでしょうか?」


 ペコリと頭を下げて挨拶をした。



「あん? 構わねえよ。てか、丁寧な言葉は苦手だからよ普通に喋ってくれよな。

さあ中に入ってくれ、茶でも飲むか?

ガンツは後で説教な」


「俺っちは酒で」


「ガンツは後で説教な」



 念押しの説教宣言に、

「グレンのとこか? いや、野宿も」

ガンツの呟きが後ろから延々と聞こえてきた。




「おやっさーん」


 グレンに首根っこを掴まれて中腰のまま引き摺られて行ったマックスが血相を変えて走って来た。


「おやっさん、アレ無理っす。超汚くて臭いし。昔のおやっさんの部屋より汚いっす。

あっ、こんにちは。おやっさんの弟子見習いのマックスです」



「・・はあ? ガンツどういう事だ! 俺を差し置いて弟子見習いだと! ざけんじゃねえ」


「何か地雷踏みました?」


「ああ、ガッツリ踏んだな。お前、後で説教な」

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