第27話 魔法・・ぶっぱなします

「そいつはまた厄介な事になってやがる。これまでの悪天候はフリームスルスのせいだって事か?

ったく喧嘩なら他所でやれって、こちとらとんだとばっちりじゃねえか」



 山の頂が荒れるとドワーフの里も氷に覆われてしまい、鉱山に行けないドワーフ達は家に篭らざるを得なくなる。


 山の機嫌が治まった後には暖かい日差しが降り注ぎ、あっという間に氷が溶けて畑の作物も復活する。



「おやっさん、ドワーフも野菜食うんじゃねぇっすか!」



 マックスがおかしな所にツッコミを入れた。



「もしフリームスルスの気持ちを鎮めることが出来りゃ、ドワーフの里はとても助かる。

でもなぁ、いくらペリの魔法陣でもヘルを召喚? そいつはちょっと無謀すぎんだろ?」



「まずはフリームスルスを見つけましょう。それから召喚できるかどうかやってみます。

物は試し、召喚出来ることを祈って頑張ります」



 ミリア達はしっかりと防寒着を着込みフードを被って出発した。


 歩きはじめて一時間もすると、風は益々威力を増し最早真っ直ぐ立って歩くことも出来なくなった。

 足元には雪が厚く降り積もりはじめ横殴りの風は冷たい雪と氷の礫を叩きつける。



「フリームスルスってどうやったら見つけられるか聞いた?」



 マックスが大声で叫んだ。


 轟々と鳴る風のせいで大声を出さなければ話が出来ない。



「聞いてないけど、何となく何処にいるか分かる気がする!」



 ミリアは勘を頼りに雪道をひたすら上へ進んで行った。


「この岩の上にいる!」




「なんでこった、この岩はこの山の守り神だ!」



 巨大な岩の上にやや平たい岩が乗っており、この強力な風にもびくともせず転げ落ちる気配もなく不思議なバランスを保っている。



 山がよく晴れた日には、中腹に建てられた神殿の二階にある『遠見の部屋』からこの岩を拝謁する事ができ、信者達は戦いの勝利や病の治癒を祈念すると言う。



「えー、あんな遠くから見えるわけないっす」


「バーカ、だから守り神だって言われんだよ!」



 ミリアはペリに貰った護符を出し魔法陣を起動しようとするが、精神を統一しようとする度に強い風が吹き荒れ小柄のミリアは吹き飛ばされてしまう。



「どうすんだ! これじゃ召喚なんて出来ねえ」



「フリームスルスを吃驚させます! ガンツさんとマックスは私の後ろに」



 ミリアは自身の使える最大魔法の【フレアブレス】を岩の上方に向けて撃った。


 巨大な灼熱の息吹が辺り一面を焼き尽くし、見渡す限りの全ての場所が焦土と化した。



「・・凄え、怖すぎんだろ」



 荒れ狂っていた風と氷の攻撃がピタリと止んだ隙を狙い、ミリアは魔法陣を起動しヘルを召喚した。

 




「このあたしを召喚したのは誰だい? 殺してやるから前に出な!」


「ひぇー、超ヤベェ奴じゃん」


「ああ? もっかい言ってみな。

坊や、ニヴルヘイムで永遠に私の下僕にしてやろうか?」


「おっおっ断りしまっす。

俺、まっまだでんしぇちゅ伝説の武器打ってないんでっ!」


 真っ青な顔でぶんぶんと首を振るマックス。


 ガンツはマックスの前に出て斧を構えた。


「こいつは俺っちの弟子見習いだ! まだまだアンタにはやれねえ」




「ヘルさん! 召喚したのは私です」


 ミリアが大声で叫んだ。



「あんた・・へぇ、ペリの魔法陣だろ。あいつが手を貸すはずだよ、セリーナによく似てる」



(セリーナ?)



「で? あたしに何の用だい。くだらない事で呼び出したんならタダじゃおかないよ!」



 ヘルは結い上げた金髪にエメラルドの付いた金の豪奢な簪を刺し、ゆったりとした白いローブを纏っている。

 金とエメラルドの宝石がついた腕輪を嵌めた腕は伝説通りそれぞれが青と人肌をしている。



「ニーズヘッグがユグドラシルの根を齧っているからと、フリームスルスが怒っています。

責任を取ってフリームスルスと話し合って頂きたくて召喚致しました」


「はあ? そんなの昔っからだろう?

今更何寝ぼけた事を言ってんだい」



「でも、その所為でドワーフの方々はしょっちゅう困っています。

ニーズヘッグはニヴルヘイムに住んでるんでしょう?

だったらヘルさんが何とかするべきではありませんか」



「・・あんた、あたしが誰だか分かって言ってんだよね。

ニヴルヘイムのヘルに、たかが人間風情が偉そうに。よっぽど死にたいらしいね」



 腕を組んで睨みつけるヘラにミリアはなおも言い募る。



「御気分を損ねたなら申し訳ありません。

でも、ヘルさんにしかこの問題は解決できません」



 大きく溜息をついたヘルが怒鳴った。



「・・はぁ。フリームスルス! 聞いてんだろ? ニーズヘッグにはあたしが言い聞かせとく。アンタは大人しくヨトゥンヘイムに帰んな」



「巫山戯るな。ニーズヘッグがお前の言う事を聞くとでも?」



 それまで沈黙していたフリームスルスの声が響き渡った。



「あたしの国に住んでいてあたしの言う事を聞かない奴がいると思ってんのかい?」


「今更? どんだけ長い間ニーズヘッグがやらかしてたか知ってんだろうがよ」



「まぁね、ほっといたのは・・まぁあたしの責任でもあるかもね。

これからはもうちょいおとなしめにするよう言い聞かせる」



「約束破ったらただじゃおかねえ。そん時はニヴルヘイムに殴り込みかけてやる」


「ふん! アンタが死んだら来れるだろうさ」



 不承不承フリームスルスがヨトゥンヘイムに帰っていった。



「しっかしまあ、なんだいこの焼け野原は」


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