第56話 ミリア&ヴァンVSデーヴ
「リンド、どうしたの?」
「カノンがいなくなった! 明け方まではいたはずなんだ。ここには来てない?」
リンドは広場を見回し、木の陰や背の高い草の間を覗き込むようにしている。
「来てないと思う」
ミリアがヴァンを見ると、目を瞑り黙り込んでいる。
「リンド、ちょっと待って。ヴァンが探してくれてるみたい」
「昨夜カノンを寝かせた後眠れなくて・・明け方近くまで起きてたんだ。カノンがいなくなったのはその後だからそんなに時間は経ってないと思う」
『デーウ』
「何ですって! あいつは砂になったはず」
『別の奴が仕返しにでも来たのであろう』
「私のせいだわ、デーウを怒らせたんだ」
ミリアは蒼白な顔になりヴァンの前にしゃがみ込んだ。
「ヴァン、デーウがどこにいるか見える? 私をそこまで連れてって。お願い」
『慌てるでない。奴はどこかに移動しておる、カノンはぐっすりと寝ておるようだ』
「デーウの狙いは何か分かる?」
『何と愚かな、悪魔が聖山オローパスに降りた。彼奴は我らを待っておる』
隣国セニベス国にあるオローパスは、緑溢れる渓谷と峻厳な山々に囲まれた聖山。
山の中腹には斜面を削って建てられた修道院付属の大聖堂が建立されている。
「デーウって醜悪な悪魔の?」
「そう、この間一柱のデーウを殺したの」
「どうやって? だってあれは確かクワルナフが必要なはずじゃ。まさか
アータルは勇敢で良き戦士と呼ばれる火の精霊。
世界を守護し悪魔を退治すると言われ、司法神ミスラと共に人間に知恵と安寧をもたらす。
「いいえ、私は亡くなった母のお陰でとても魔力が多いの。だからなのか光魔法がデーウに効果があったの。
ヴァン、私をオローパスへ転送して」
『他国だが良いのか?』
「いいわ、人間の決めたルールよりカノンの方が大事」
『同じ事ができるとは限らぬぞ』
「最悪でもカノンを助け出すことはできるから。それで十分よ」
ミリアはヴァンをまっすぐに見つめキッパリと言い切った。
『デーウは礼拝堂の奥におる』
「光魔法は俺には効かないって言いたいのね」
『恐らくはそうであろう』
「ディー、一緒に来て隙を見つけてカノンを連れて帰ってくれる?」
「いいよー、カノンを連れてくなんて許せないもん」
「ミイ、僕は」
「ここで待っていて、カノンは怖がってるかもしれないから」
「僕は何も出来ないのか・・カノン」
リンドは青褪めた顔を覆い膝をついた。
オローパスの大聖堂の外壁には様々な表情をした天使像が彫刻されていた。
大聖堂に入るとステンドグラスから差し込む色鮮やかな光が溢れ、奥にある礼拝堂に続く道を照らしている。
主祭壇の前には一柱のデーウが腕を組んで仁王立ちし、その前にカノンが寝かされていた。
「悪魔のくせに随分不思議な場所を選んだのね。神聖な場所の居心地はいかが?」
「ふん、余に恐れるものなど何もないわい」
「ふふ、デーウが嘘つきだって言うのは有名な話よね」
ミリアがわざとデーウを挑発していく。
「何だと!」
「小さな子供の後ろに隠れなきゃ私達と対峙する勇気がなかったんでしょう?」
「こやつはただの余興。貴様らの慌てふためく様は面白かろうと思うてな」
「思い通りでなくてごめんなさいね。ではさっさとその子は返してもらうわね、それとも子供の影に隠れて戦いたい?」
「良かろう。影に隠れておる矮小な妖精、この邪魔な荷物を持っていくが良い」
礼拝堂の入り口近くに隠れていたディーがカノンと一緒にトレントの森に転移した。
ミリアがユグドラシルのワンドを構えた。
「ほう、ユグドラシルとドラゴンの心臓の琴線か? 子供のおもちゃにしてはなかなか」
『ミリア、短期決戦だ。人が登ってくる』
前回のデーウより格が上のようで隙が見当たらない。直接攻撃出来るのも今回はヴァンだけ。
ミリアは【ライトジェイル】の鎖でデーウを拘束。
デーウが両手を広げると鎖が粉々に壊れたが、その隙を狙い走り出していたヴァンがデーウに飛びかかった。
デーウが鉤爪でヴァンの顔を狙い、ヴァンが横に交わした。
ミリアがガラ空きになったデーウの右脇腹を狙って【ライトランス】
薄い傷しかつけられなかったが、左からヴァンがデーウの左腕に噛み付いた。
雄叫びをあげるデーウの目を狙い【ライトビーム】左目を潰した。
「グワァ!」左手を振り回しヴァンを振り落とそうとするデーウに、【ライトランス】を連発。
デーウが膝をつき左手をヴァンごと床に叩きつけた。
ヴァンがギリギリで飛びすさり、ミリアがデーウの腹を狙って【ライトランス】
デーウが「グアっ」と唸りのけぞった。ヴァンが喉元に噛み付き牙を立てた。
『今だ、いけ!』
ミリアが詠唱をはじめた。
光よ、裁かれぬ敵に裁きを、
【ジャッジメント・レイ】
眩い光が金から白に変わり杖の先からデーウに向けて放たれた。
デーウの腹に当たった光は身体の中から四方に飛び散り、デーウと噛み付いていたフェンリルを金色に光らせた。
その直後、デーウの腹のあたりから真っ黒な影が吹き出し光を取り込んだ。
黒い影がヴァンに向けて突き刺さり、ヴァンを弾き飛ばした。
(何が起きたの?)
『落ち着け、こやつ闇魔法の使い手だ』
ミリアが動揺して次の手を思いつけないでいると、傷が癒えたデーウが立ち上がりニヤリと笑った。
「余にはいかなる攻撃も効かん」
「随分勝手な事をしてるんだね」
ミリアの後ろから怒りに声を低くした少年の声が響いてきた。
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