第55話 本当のボスは?

「ギルマスに言っといた方が良いのかなって」


『・・』


「四十五階の本当のボスは別の魔物だったんじゃないかな?」


『何故そう思う?』


「どういう事?」


 ディーが気になりはじめたようで話に参加してきた。



「考えすぎだとは思うんだけど、一つ目は四十一階から四十四階に出た魔物がドラゴン型だった事。


 ・ケルベロスの前は動物型

 ・バジリスクの前は毒と石化の爬虫類型

 ・ベヒーモスの前はドラゴン型


この流れから行くと、ベヒーモスじゃなくてドラゴンタイプがボスで出てくるんじゃないかと思ったの」


「確かに、それまでの階層もボスの前はそれと同じ系統の魔物だったよー」


 ディーが思い出しながら「うんうん」と頷いている。



「二つ目はバジリスクとベヒーモスは系統が違う事。

ケルベロス・オルトロス・ヒュドラ・ラードーンは兄弟だと言われてるでしょう。

だからボスとして並べるなら、キマイラやスピンクス、ネメアーの獅子とか金羊毛の守護竜なんかの方がバランスが良い気がして」



『それは穿ち過ぎではないか?』


「ダンジョンには管理者がいるって言われてるの。

実際に会った人がいるわけじゃないんだけど管理者が、


 ・何階層にするのか

 ・階層の条件(今回は地形が変わる)

 ・どの階層にどんな魔物を出すのか

 ・魔物の強さ

 ・魔物の出没する量


そう言う細々した事を決定してるんだって言われてるの。

もしそれが本当なら、四種類兄弟を選ぶのなら何故兄弟で揃えないのかな? って思って」


「むー、ちょっと難しくなってきたかも」


 ディーが腕を組んで首を傾げた。



「三つ目はバジリスクとベヒーモスが妙に弱かった気がする事。

バジリスクの身体はなかなか切れないって聞いてたんだけど、すんなり攻撃が入ったでしょう?

ベヒーモスはあの硬いはずの尾があっさり切断できたし」


『其方が尾を切る直前、我が牙を突き立てておった鼻の防御が突然弱くなりおった』



「バジリスクが蛇の王だから、王繋がりだとベルゼブブ。


若しくは、突然弱くなった理由は一対と言われてるベヒーモスとレヴィアタンがセットだったのがベヒーモスだけになったから。


でも、本当の四十五階のボスはドラゴン型だって言うのが一番ありそう。

ヒュドラとラードーンはドラゴン型だし」



『つまり、次の攻略者はボスが変わるやもしれんと言うことか』



「ベヒーモスだと思い込んでてドラゴンが出てきたら冒険者は慌てると思うの」


『ヘルは何と?』


「ヘルが教えてくれたのは最後にヒュドラとラードーンが立て続けに出てくる事だけ。

そうか、ヘルなら何か知ってるのかしら」



 ヘルの名前が出てきた事にリンドが吃驚して口をあんぐりと開けている。



『彼奴は気紛れ者。知っておっても気が向かねば何も話さん』


「あの、もしかしてだけどミイはヘルと知り合いなの?」


「ん? ヴァンはヘルの兄さんだもの。ヘルと出会った後でヴァンと知り合ったの」


 ミリアがキョトンとした顔でリンドを見た。



「マジか、ミイの交友関係凄すぎるよ」


 リンドが頭を抱えていると、


「ミイはヘルを助けてあげたの。それでヘルの代わりにヴァンがミイのお手伝いに来てくれたんだよね」



「えーっ、助けたわけじゃないわ。私が一方的にお願いしたんだから」


 ミリアが慌てて両手を振った。



『ヘルが恩を感じたのは事実。我が来たのもそれが理由であった』


「で、そのままヴァンはミイに懐いちゃったのよねー」


「なっ懐いたって。ディー、ヴァンは神獣だからね」


『まあ、遠からずと言ったところか』


「えっ?」


(何か今、すごい事を聞いたような)



 冷や汗たらたらのミリアだった。






 ふと見ると、カノンがうつらうつらと船を漕いでいる。


「もう遅いから今日は帰ろう」



 話に夢中で気付かなかったが既に深夜近くになっており、ミリアは慌てて片付けをはじめた。


「ミイ、手伝うよ」


「大丈夫、カノンを連れて帰ってあげて。こんなに遅くなってたなんてごめんなさいね」



 チラッとカノンを見ると横になって本格的に寝はじめている。

 リンドは「ごめん」と謝りながらカノンを抱き上げ帰っていった。




 ケット・シーは仲間に催促されて既にどこかに消えている。



「ここは誰か来たらトレントが教えてくれるよ」


 片付けを済ませたミリアはアイテムバックから毛布を取り出して、広場の端に寝床を作りヴァンやディーと一緒に横になった。



 色々な事が頭を駆け巡り寝付けないかと思ったが、疲れが溜まっていたのだろう。ミリアは夢も見ずに朝まで熟睡した。





 広場に朝日が差し込み小鳥の囀る声で目が覚めたミリアは、ふわふわと柔らかい感触に気付いてそっと薄目を開けた。


(ヴァンを抱っこしてる! 初めてのもふもふ・・気持ちいい)



『いつまで寝たふりを続けるつもりだ?』


 ヴァンの不機嫌な声にミリアは慌てて飛び起きた。


「えー、おはよう?」


『ふん』


 ヴァンはそっぽを向いているが、尻尾は機嫌が良さそうにゆらゆらしている。



「ごめんなさい・・じゃなくて、ありがとう。すごく気持ちよかったです」


『間抜けな顔で爆睡しておった』



 ヴァンにこき下ろされても幸せ一杯のミリアだった。


(生まれて初めてのもふもふ・・)





「ミリア!」


 血相を変えたリンドが広場に走り込んできた。


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